狐の国のお嫁様 ~紗国の愛の物語~

真白 桐羽

文字の大きさ
244 / 317

光と闇

しおりを挟む
 夜中になんとなく目が覚めて、何気なく横を見る。
美しい蘭紗様の寝顔がそこにはあった。
白に近い水色の月がやわらかな光を届けてくれていて、この愛しい人の輪郭がボウと浮かんでいる。

手を伸ばせば届くのに、なぜかとっても遠く感じてしまって不安になった。

僕は上掛けからそっと手を出して、蘭紗様の頬を触った。
氷の彫像のように見えた蘭紗様はスッと目を開けて、輝く銀色の瞳で僕をじっと見つめた。

「どうした?」
「……いえ」

蘭紗様は伸ばした僕の手を引いて、胸の中に抱きしめてくれた。

「不安なのか?」
「そんなことないです」

僕は蘭紗様の腕の中の温かさにほっとした。
花のような匂いがしてくる、蘭紗様から漂ってくるこの匂いが大好き。

紗国に帰ってきて約2週間が経った。
僕たちは葛貫さんとカジャルさんがまとめてくれた報告書を何度も読んで、現在まざりの子は紗国にはいないと確信できた。

この調査によって、それ以外にも発見はあった。
思った以上にこの国の大人たちは孤児の面倒をよく見るということだ。
地方によっては、我が子同然に家に引き取り育てるところさえもある、そういう家庭には補助金をという考えを伝えると「お金はいらない」と拒否されたという。
ただし、今まで通り孤児院の予算だけはほしいということだった、その子らが将来に使う為に、つまり学費や結婚の際に使用するのだという。
そういうことの一切の管理をその町の長が担っていて、とても感心した。

勘定方の佐佐さんがそれを聞いて本来の使い方でないと言い出すのでは?とカジャルさんは心配したようだったけど、逆に佐佐さんはその話に感動し、そのまま予算を維持することに賛成してくれたという。

そしてあの港町……その後どうなったかは、僕は聞けずにいる。

蘭紗様や涼鱗さんがあのままあれを放っておくわけがない。
何しろ違法の薬が出回っていることが発覚したのだ。

この世界でも残念ながら元いた世界のように、麻薬や覚醒剤のようなものから、あやしげな違法スレスレなものが快楽のために出回っているようだ。
それは、ハリル様が木の根の下にある隠し家から見つかった時に教えてもらった。

だけど、港町で発覚したクスリはそういうものではない……堕胎薬だ。

毒を飲み、子をおろす……そんな恐ろしいことをして母体に影響がないわけがない。
だけど、正規の療養所で堕胎手術を受け付けるところは紗国にはない。
娼婦たちが望まぬ妊娠をすれば、それを求めるのは仕方ないのかもしれない。
だけど、それが理由で母が死に、幼い子が残されているという現状を見ると、どうにもやりきれない。

繁栄の裏にこういう闇がある。
これはどんな世界でも同じなのかもしれないけれど……僕の心は悲鳴をあげそうだった。

そして、昨日蘭紗様は一言だけ僕に伝えたんだ。

『薫、港町のことだが、賭場を仕切っていたならず者らはもういない、賭場は正式に国として運営することとなって、今改めて査察が入っている。孤児らのことはおいおい保護できるよう、なんらかの働きかけをしてゆく』

あの言葉から汲み取れるのは、『ならず者がもういない』ということと、『孤児らはおいおい保護する』という2点だ。

賭場を仕切っていた人らは……いなくなった?
処罰を受けたのでも捕縛されたでもなく。

「薫……気になっているのだろう?港町のこと」
「……はい……」
「そうか……」

蘭紗様は僕の髪の毛をゆるやかに撫でながらゆっくりと話しだした。

「薫は……跳光家がなぜあるのか考えたことはあるか?」

僕は蘭紗様の腕の中で身を固くした。

「やっぱりそういうことですよね」
「捕まえ罪を償わせることだけでは、根絶やしにできないこともある。そのやり方を悪だと批判するのは簡単だ、しかし、私は跳光があるから紗国は成り立っていると思っている」
「……賭場で働いていたという子どもたちは?」
「その跡地に合法カジノを建設する予定なので、そこで雇うことになるだろう。どうしても、森の中の孤児院には行きたくないと言い張るようだからな、その代わり、学び舎にきちんと通うことなどが条件となる」
「ではその子らは、まだ幼いのに働きながら勉強を?」
「国の経営になったら、働くというよりも自分らの身の回りやフロアの掃除程度の手伝いをさせるつもりだ、それぐらいなら市井では普通だ。そして将来はそこで働けるよう斡旋もする」
「子どもたちは、納得したんでしょうか?」
「あの町から出ずに待てと言われているようだが、それさえ守れれば、後は何でも良いのだろう。おとなしく部屋で読み書きを役人から習っているようだ。名さえ書けないようでは学び舎にはいけないからな」

僕は船に乗り込む際に見たあの兄弟を思い出した。
幼い弟の手をしっかりと握りしめ、僕の顔を見て嬉しそうに顔を歪めた。
あれは、笑顔になろうとして……でも、笑い方を忘れたような、そんな表情だった。
あの子達がどうか、幸せになれますように。
心の底から笑える日が来ますように……

「ありがとうございます、蘭紗様」
「……すまないな……優しいそなたを傷つけるようなことばかり起こる」
「違います、この世界は十分に優しいです、僕は……感謝しています」
「そうか」

優しい手のひらが僕の両頬にそっと添えられた。
見上げると、銀色に輝く美しい瞳が僕をとらえた。

「愛しているよ、薫」
「はい、僕もです蘭紗様」


僕は襲ってきた睡魔にまどろみつつ、背中を撫でてくれる心地よい感覚に酔いしれた。


しおりを挟む
感想 39

あなたにおすすめの小説

牛獣人の僕のお乳で育った子達が僕のお乳が忘れられないと迫ってきます!!

ほじにほじほじ
BL
牛獣人のモノアの一族は代々牛乳売りの仕事を生業としてきた。 牛乳には2種類ある、家畜の牛から出る牛乳と牛獣人から出る牛乳だ。 牛獣人の女性は一定の年齢になると自らの意思てお乳を出すことが出来る。 そして、僕たち家族普段は家畜の牛の牛乳を売っているが母と姉達の牛乳は濃厚で喉越しや舌触りが良いお貴族様に高値で売っていた。 ある日僕たち一家を呼んだお貴族様のご子息様がお乳を呑まないと相談を受けたのが全ての始まりー 母や姉達の牛乳を詰めた哺乳瓶を与えてみても、母や姉達のお乳を直接与えてみても飲んでくれない赤子。 そんな時ふと赤子と目が合うと僕を見て何かを訴えてくるー 「え?僕のお乳が飲みたいの?」 「僕はまだ子供でしかも男だからでないよ。」 「え?何言ってるの姉さん達!僕のお乳に牛乳を垂らして飲ませてみろだなんて!そんなの上手くいくわけ…え、飲んでるよ?え?」 そんなこんなで、お乳を呑まない赤子が飲んだ噂は広がり他のお貴族様達にもうちの子がお乳を飲んでくれないの!と言う相談を受けて、他のほとんどの子は母や姉達のお乳で飲んでくれる子だったけど何故か数人には僕のお乳がお気に召したようでー 昔お乳をあたえた子達が僕のお乳が忘れられないと迫ってきます!! 「僕はお乳を貸しただけで牛乳は母さんと姉さん達のなのに!どうしてこうなった!?」 * 総受けで、固定カプを決めるかはまだまだ不明です。 いいね♡やお気に入り登録☆をしてくださいますと励みになります(><) 誤字脱字、言葉使いが変な所がありましたら脳内変換して頂けますと幸いです。

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

この世界は僕に甘すぎる 〜ちんまい僕(もふもふぬいぐるみ付き)が溺愛される物語〜

COCO
BL
「ミミルがいないの……?」 涙目でそうつぶやいた僕を見て、 騎士団も、魔法団も、王宮も──全員が本気を出した。 前世は政治家の家に生まれたけど、 愛されるどころか、身体目当ての大人ばかり。 最後はストーカーの担任に殺された。 でも今世では…… 「ルカは、僕らの宝物だよ」 目を覚ました僕は、 最強の父と美しい母に全力で愛されていた。 全員190cm超えの“男しかいない世界”で、 小柄で可愛い僕(とウサギのぬいぐるみ)は、今日も溺愛されてます。 魔法全属性持ち? 知識チート? でも一番すごいのは── 「ルカ様、可愛すぎて息ができません……!!」 これは、世界一ちんまい天使が、世界一愛されるお話。

[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった

ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン モデル事務所で メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才 中学時代の初恋相手 高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が 突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。 昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき… 夏にピッタリな青春ラブストーリー💕

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

助けたドS皇子がヤンデレになって俺を追いかけてきます!

夜刀神さつき
BL
医者である内藤 賢吾は、過労死した。しかし、死んだことに気がつかないまま異世界転生する。転生先で、急性虫垂炎のセドリック皇子を見つけた彼は、手術をしたくてたまらなくなる。「彼を解剖させてください」と告げ、周囲をドン引きさせる。その後、賢吾はセドリックを手術して助ける。命を助けられたセドリックは、賢吾に惹かれていく。賢吾は、セドリックの告白を断るが、セドリックは、諦めの悪いヤンデレ腹黒男だった。セドリックは、賢吾に助ける代わりに何でも言うことを聞くという約束をする。しかし、賢吾は約束を破り逃げ出し……。ほとんどコメディです。  ヤンデレ腹黒ドS皇子×頭のおかしい主人公

あなたの隣で初めての恋を知る

彩矢
BL
5歳のときバス事故で両親を失った四季。足に大怪我を負い車椅子での生活を余儀なくされる。しらさぎが丘養護施設で育ち、高校卒業後、施設を出て一人暮らしをはじめる。 その日暮らしの苦しい生活でも決して明るさを失わない四季。 そんなある日、突然の雷雨に身の危険を感じ、雨宿りするためにあるマンションの駐車場に避難する四季。そこで、運命の出会いをすることに。 一回りも年上の彼に一目惚れされ溺愛される四季。 初めての恋に戸惑いつつも四季は、やがて彼を愛するようになる。 表紙絵は絵師のkaworineさんに描いていただきました。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

処理中です...