狐の国のお嫁様 ~紗国の愛の物語~

真白 桐羽

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成人の儀ー選考会 1

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 長い嵐の季節を経て雪深い冬が終わり、そしてこの美しい花が咲き乱れる春になった。
人々の心は軽くなり、そして新しい生活がはじまる。

15歳で迎えるというこの国の成人の儀式は、各町の公館で長老から小刀を受け取る儀式をする。
それは男子でも女子でも変わりない。

王都では城下町の子らが城に集まり、喜紗さんがその役目を担うという。

今までは孤児院の子らはその儀式に参列していなかったそうだが、今年からは院長に連れられ、やってくることになっていた。
涼鱗さんは、その際に着る着物をと少し上等な物を用意して届けたらしい。
孤児だからと馬鹿にされないように……

そんな親心を彼らは嬉しく思ってくれたかな。

そして成人ということは、これからはもう大人として働くということを意味する。
勉学をその後も続行するには国から援助が受けられるぐらい優秀であるか、もしくは実家が裕福であるか、そのどちらかが条件になる。

城下町は商人や職人が多いので、大抵は親のもとで修行に入るのだが、国からの奨学金を受け取りたい子らの試験が同日午後から行われる。

その試験に僕は立ち会うこととなった。
ほんの1週間前にそう言われて僕は大いに困惑した。

毎年、王族の誰かが必ず立ち会うらしいのだが、今年から芸術部門として音楽にも力を入れたいとの国の意向があり、その選定をとお願いされたのだ。

僕にそんなの務まるんだろうか……

「んと……僕が?一人で?」

不安に押しつぶされそうになりながら返事をすると、蘭紗様はクスリとわらって僕の頬に手を添えてキスをしてくれた。

「一人ではなく、雅楽の師匠も来る、彼らの一人は私の師でもある方だ。それから、舞の第一人者もいるぞ」
「じゃあ、僕いらないんじゃ……だってまだ、バイオリンの弾ける子はいないんですし」
「いや、そうじゃなく、国から出す奨学金なのだ。その選定に王族はいなければならないからな、ならばそなたが適任だろうと我は思ったのだ、駄目か?」
「いえ、駄目ではありませんが……正直自信がありません」

もしも日本から出ていなければ、僕なんてちょっとバイオリンが弾ける程度の普通の人間で、こんな風に人を評価する側に来るなんてありえないことだった。

「薫、王族として立ち会うだけでよい、そなたに全てを委ねるわけではないからね、他の師匠方と話す機会を得たと思ってはどうだ?」
「……なるほど……そういう考え方であれば、納得もできます、僕は王妃ですからね」
「うむ、任せたよ」

蘭紗様は整った美しい顔で微笑んだ。
きれいなのに男らしさに溢れていて、胸が苦しくなるぐらい素敵で……ちっとも慣れない。

僕は照れて赤くなった顔を隠すように蘭紗様に抱きついた。





「薫様、こちらでございます」

案内されてきたのは、城の3階にある大広間だ。
この広間に来たことはなかったが、民らがここで発表会などの催物をするのだそうだ。
広さは大きめの体育館程度だ。

そこに居並ぶのは総勢10名の各芸術家達、師匠クラスの人々ばかりと思えば身が引き締まる思いがする。

それぞれ優雅な仕草で僕に礼をして自己紹介をしてくれた。

「皆様、お楽になさってくださいね、僕は芸術部門に関しては見届けをするだけのつもりで来ましたから」
「なにをおっしゃいますか……薫様ほどの音楽家がそのようなご謙遜を」
「いえ……本当に……バイオリンを弾く人がいるのならともかく、その他のことは門外漢ですからね」
「薫様……」

皆、一様に困ったような笑顔になったが、そのまま僕が案内された席に着席すると、皆も従った。

配られた資料には、15人分の名前と扱う楽器、演目が記されている、そして地名も添えられていた。

「これは……出身地ですね」
「はい、各地方で芸術部門を選定するのは無理がありますから城に集めるのです……勉学ならば各地一律に試験すればいいだけなのですがね」
「なるほど、ならば、全国からこのために子らは集まってきてるのですね」
「はい、そのとおりです」

僕は改めて深呼吸した。

これは集まった子らの一世一代の勝負であり、チャンスだ。
奨学金を求めてやって来ているということは、これを逃せば音楽で生きていく道は閉ざされるということになるのだから。

進行役の役人が、挨拶とともに15人の子供を連れて入ってきた。
胸に番号と名前が書かれた布が貼られている。
どの子も皆緊張しきった顔で強張って泣き出しそうな子までいた。

僕は初めてのバイオリンのコンクールの時のことを思い出し、懐かしく思った。
人にジャッジされるというのは、本当に緊張するよね。
だけど、頑張ってほしいな。

何気なく師匠らを見渡すと、それぞれ温和な笑みを浮かべた師匠方もうんうんと頷きながら子らを眺めた。

「ではまず、合同で課題曲を奏でます」

役人の朗々と響く声で子供らはカチコチになりながらお互いのスペースを取り、椅子を使うものは椅子を持ち、その場に座るものは正座をして楽器を準備していく。

舞を踊るものは、衣装を整え目を瞑って気持ちを整えているようだ。



はじまりの合図は一人の少年が取った。



美しい合奏は、何度も繰り返し皆で練習したのか?と思わされる出来で、僕は唖然とした。
大体の流れは聞いていたけれど、一人ずつ演奏しそれを評価していくのだとばかり思っていたので、はじめに合奏が来るとは思っていなかったのだ。

彼らはこの試験のためだけに各地から集まってきたはずで、お互い面識だって無いだろうに、このように合わせることができるなんて……

途中、明らかにミスをした女子がいたが、その子は顔色も変えずそのまま笙を吹き続ける。

というか、じっと見るのは初めてだけど、本当に日本で見る雅楽そのもので感動する。
日本と紗国との関わりの深さに驚くばかりだ。

舞を踊る二人は、白い鳥の翼を模したものを背負った男の子二人がそれに合わせ優雅に踊っている。

彼らの所作は指一本、顔を傾げる角度までも計ったように同じで、鏡に映る一羽の鳥であるかのようだった。

美しい絵巻物を見ているようで、僕はとても感動した。

演奏が終わり、舞を待っていた二人が静かに正座をした。

「……ふむ、なかなか良かったのではないか?」
「ええ、今回の子らは、どの子も素晴らしい才能を感じますね」
「薫様はどう思われましたかな?」
「え……」

僕は言葉を用意していなかったので少し慌ててしまった。

「えっと……驚きました、完成度が高くって。これは何度か合わせたのでしょうか?まさか初めてでここまでできるんですか?」
「本番前に一度だけ、練習の時間を与えてありますぞ」
「一度だけで……」

僕は信じられない思いで受験生を見つめた。
皆、やりきった思いで胸がいっぱいなのだろう、紅潮させた頬が可愛らしい。

「本当に素晴らしかった……感動しました」

子らはぱっと笑顔になり、嬉しそうに目を見開いた。

「では、ここで一旦下がり、名を呼ばれた順に入室して個別に演奏となります」

役人はテキパキと動き、子らを退室させると、道具を横に片付けた。
そして、師匠方らが顔を突き合わせる。

「正直驚きましたな、なかなかの粒ぞろいで」
「ええ、今回は薫様がいらっしゃると皆知っていたでしょうからな、気合が違うのでしょう」
「ふふ……しかし気合だけでどうにかなるものじゃございません、日々の鍛錬の重なりですからね」

そうして手物の資料に筆で印を付けていく。
役人は印の付けられた資料を集め、集計を取り始めた。

「あれは……何の印なのです?」
「はい……皆が良いと思った子に印を付けたのですよ、無印の子はもう名は呼ばれません。一つでも付いていたら個別の試験となるのです」
「今の……あれだけで?」
「十分でございますよ」
「厳しいものですね……」

僕はなんとなく呆然としてしまって、役人が配ってくれたお茶を一口飲んだ。

「舞台度胸、それから人と合わせるということ……紗国ではなによりこれが求められます。個人技がいかに優れようとも、人と合わせられない者は結局は場を乱すだけの者となりましょう」
「でも……」

僕は言いかけてやめた。

単なる素人に毛が生えた程度の僕が、何十年もその道でやっている師匠方の言葉に口を挟んではいけない。
そう思えたからだ。


僕はぎゅっと手を握りしめ、子らが退出していった扉の先をぼんやりと見つめた。


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