狐の国のお嫁様 ~紗国の愛の物語~

真白 桐羽

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成人の儀ー選考会2

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「薫様?」

隣にいた師匠が僕を優しく見つめてくれた。

「生意気なことを言うようですが……むしろそういう子は外してはいけないのではないかと思うのです」

皆の視線が集まり、居心地が悪かった。
だけど、今日僕がここに立ち会う意味を考えると言わなければいけないと思った。

「神事やそのほかの行事でのことだけを考えるのではなく、優れた音楽性を感じさせてくれる才能を見出していきませんか?」

舞の師匠が大きく頷き笑顔になった。

「それは……それこそが芸術家でございますね」
「はい、そう思うんです。もちろん基礎がしっかりし、人と合わせることだって出来るのが当たり前ではありますが……」

僕は一呼吸置いて、皆の顔を見渡した。
それぞれ真剣に耳を傾けてくれていることにほっとした。

「アオアイの演奏会では各国の合奏や合唱が披露されていましたが、そう言えば紗国の雅楽は参加していなかった……それは……」
「まあ、音楽と言いましても楽しむべきものというより、紗国では神事に際して神に奉納するものですから。演奏会に参加するというのは、これまで考えもしなかったのですよ」
「ですが……そういう楽しみ方も良いのでは……」
「なるほど……薫様がおっしゃっておられるのは、これからの紗国が目指すあれですな、世界で認められる芸術家を輩出していきたいという」
「ええ、そうです」
「しかし今は、雅楽の子らしか集まっておりませんしな……」
「ええ、そうですが……音楽の素養というのは一つを極めれば、他の楽器も親しみやすくなるものです、この中からバイオリンやその他の楽器、そして声楽に移りたい子がいれば、ぜひ引き受けたいと思って……」
「おぉ……」

師匠方からどよめきが起こる。

「バイオリン……まだ我らはそれを詳しく存じ上げませんので、何と申し上げたら良いのか」
「阿羅国からバイオリンの輸入をしています、今後、才能ある子に教えていくために教師も招くつもりです。ここに集まった子らは音楽の才能のある子らです。ここで落とすぐらいならば僕が彼らをと……甘いかもしれませんが……」

自分でもなんでこんなこと言い出しちゃったの……と思うほどぶっちゃっけてしまって、顔が上げれない。
言い過ぎちゃったかな……でも、あの子らはそれぞれ素晴らしかった。
きっと、バイオリンでなくてもピアノや歌それにもしかして、製作家として才能があるかもしれない。
何らかの音楽に携わる道を残してあげたかったのだ。

「薫様……どうぞお顔をお上げくださいませ、我らは薫様のお優しいお気持ちを理解しておりますぞ、彼らにそういう機会をあげることができるのなら、我らからもぜひお願いしたいと、そう思いますのじゃ」
「はい、私もそう思いますよ」
「彼らはこの試験に落ちると各地に戻り、音楽とはかけ離れた現実に直面するほかないのですからなあ……そうではない道が拓けるというのなら、嬉しい話です」

僕が顔を上げると、優しいまなざしで僕を見つめてくれる師匠方は嬉しそうにしていて、役人がその後ろであたふたしていた。

「あ、あの!では……この集計はどのように……」
「ああ、では全員一人ずつやらせようではないか、なあ、皆」
「うむ、異論はないぞ」

そう言われて役人は集計した紙を握りしめたまま頷くと、ピューと部屋から出ていった。

「それぞれ、取る弟子はもう心に決まっております」
「今ので?」
「はい……舞の方は二人共弟子にいたします、十分に才能を感じました」
「うむ、あの子らは良い舞をしておったな」
「はい」

舞の師匠は満足そうに頷いた。

「その他も……」

師匠方は指を差しお互い確認すると、一人の師匠が予備の名簿に筆で円を描いた。

「残りはこの子らですな。薫様、この子らの演奏を良く聞いてお選びください。ここに来ている時点で全く駄目な子ではありますまいが、薫様のお眼鏡にかなうかどうかはまた違うでしょう」

僕はその印のついた名簿を受け取り、そして名前を覚えた。
この子らの気持ち次第だけど……希望を良く聞いて、この子らの将来を一緒に考えてあげたい。
他の楽器と簡単にそう言ってしまったけれど、楽器は音一つ出すのも苦労するものだってあるのだ。
それでもやってみたいという意志がないといけない……そう思った。

「では……よろしいでしょうか?」

汗の吹き出た役人がオロオロとしながら声をかけてくるので、僕は頷いた。

僕は満足そうに彼らの演奏に聞き入る師匠方と違って、落とされる予定の子の様子を観察したり、演奏に対する熱意や才能を見出そうと必死だった。

気がつけば汗が流れ、息が苦しいと思って深呼吸したりなど、聞いているだけなのにとても神経を使い体力も使ってしまったようだ。

「終わりでございます、結果はこの後張り出すことになっております……が」

役人はこれまでと違う成り行きになってしまった選考会に焦りまくっているようだ。
その様子がなんだかかわいそうで、そしてどうしても笑ってしまう。

「まあ、君、落ち着きたまえよ、我らはもうすでに決まっておる。あとは薫様でございますな、どうでありましたか?」
「僕は……残った彼ら全員と一度面接がしたいです。えと、この3人ですね」

役人に名簿を示した、彼はコクコクと頷き神妙な顔つきで僕からそれを受け取った。

「彼らが僕のもとに来るということは、今までと違う形で音楽との付き合いが始まるということです。そのことを僕は彼らと話さないといけないし、そして彼らのやる気も確かめないと」
「そうですな、それはその通りでございますな」
「本日は……なんだかとても良い経験をさせていただきました、師匠の皆様ありがとうございました」
「薫様!そのような……我々のほうが勉強させていただいたのですぞ、我らはこれからの紗国を担う若い才能を薫様とともに見守る義務があるのですから、その才能を埋もれさせることのないよう、精進いたします」

そして皆立ち上がり、僕に礼をした。

僕もほっとして立ち上がった、少しめまいを感じたがなんとか持ち直して、会を御開きとした。

長い廊下を歩きながら部屋に戻りながらふと外を眺めると、春風が優しく吹く庭には黄色と桃色の花が咲き誇っていて本当に美しかった。

これからの彼らの門出を祝福しているようで、それを嬉しく眺めた。

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