狐の国のお嫁様 ~紗国の愛の物語~

真白 桐羽

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花束の願い1 留紗視点

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 若草を踏みしめて先へと進む。
手に持っているのは地図と方位磁石、それを見ながら光る魔力の印を見つけて歩く。
木々の枝や梢、また根元などに光る四面体を見つけて行くのだ。

ハァハァと息が上がり、足もダルい。

今日は山を使っての体力作りの日だ。
これもアオアイ学園からの課題として出されたもので、アオアイではもっと厳しい訓練もあると聞いている。
ちなみに魔力を身体強化に使うことと、飛翔することは禁止になっている。

「ふぅ……」

僕はしばし立ち止まり息を整えつつ、水筒から水を飲んだ。
そしてキョロキョロと見渡しちょうどいい木の根元に腰を下ろした。
背負っていた鞄を下ろし中を覗くと、料理長から参加者に配られた弁当がある。
空を見上げて日の位置を確かめた。

「ン……どう見てもまだ昼じゃない……けど、お腹がすいた……」

ハァと溜息をついて弁当を取り出すのをやめて、鞄を閉めた。
そしてまた歩き出す為に立ち上がる。

地図と方位磁石で場所を確かめ、魔力の四面体を探す。

わざわざ一人ずつというのがこの鍛錬の厳しいところだ。
誰もいない自分だけという寂しさや不安を背負いながら、目的地にいかなきゃいけない。

実はこれは少年部の課題なのだ。
幼年部に入学予定の僕はまだ6才だ、一人での山歩きは危険だと教官にも止められた。
だけど、自分の成長を確かめたくて無理やり参加したのだ。
途中で「やめた」なんて恥ずかしいことはできない。

「ここはやっぱり、さすが王族だと言われないといけないよね」

そうつぶやいて、僕はもう一度水を飲んだ。

この水にはほんの少しだけスレイスルウ液が入っているそうだ。
目に見えて何かが違うとまでは思えないけど、普通の水とは違うということはわかる。
味がうっすらと甘いのはハチミツが入っているからみたいだけど……

僕は頬をペシッと両手で叩いて気合を入れた。
一番年下の僕だけど、参加者の誰よりも魔力量が多いんだ。
ここで負けてなんていられない!

しっかりと足を前に踏み出して、そしてうっすらと魔力を張り巡らせて次の印を見つけようとする。

少しだけ魔力の引っかかりのある場所に歩を進めると、木の梢に光る四面体を見つけた。
右の人差し指でそこを差し、少しだけ魔力を飛ばす。
小さくキンと響き、光る四面体が揺らいだ。
これでそこを僕が通過したことの証拠となるのだ。

そしてもう一度地図を見て方角を確かめる。

方位磁石の使い方は学び舎の先生から教わっている。
このような道なき道を行く場合には、これがなくてはすぐに迷ってしまうからと、それは念入りに教えられたのだ。
十分に理解しているので、使い方を誤ることはないと自負している。

僕は流れる汗を着物で拭い、歩き出す。
暑いから汗が流れるのではないのだ、印を見つけるために魔力を薄く張り巡らせることに体力が削られるからなのだ。

「留紗様が本当に参加されるので?喜紗様はお許しなのでしょうか?!国王陛下は?」
「二人共に許可を取っているよ、名簿にも僕の名前があるでしょう?」

出発前に、アオアイから出張してきた教官はまん丸な目を見開いて僕を止めた。
なにを大げさな……とその時は思ったけれど、実際に進めてみるとわかる。
山が危険だから止められたんじゃないんだよね、一番困難なのはこの魔力を常に薄く張り続けることだ。
まだ10才にもならない僕のような幼い子には、これが一番つらいことだ。

だからといって、少年部に入るお兄さんたちがこれを楽にこなせるかといえば、そうでもないらしい。
毎年落第者が出るのがこの課題なのだ。

その際、補習として課せられる運動は苛烈なものだが、将来何になるとしても体力が無くてはいけないというアオアイの理念からなるものなので、従うしかない。

無理矢理に参加した僕には、もしも失格となったとしてもその補習は課せられないと聞いているけど……

僕はふと、視界の右奥にキラキラと光るものがあることに気づいた。
それは印の四面体とは異なるきらめきだ。

魔力をそちらに伸ばし確かめてみると、人の反応を感知した。
一瞬ビクっとなったが、冷静に考えて見張りの者だろうと予測できたので、そのまま気にせず前を向いた。

だけど、やっぱり気になってそっと木の陰から覗いてみた。

ぽっかりと開けた場所があって、そこに日の光が集まって舞台のようになっている場所が見えた。
そして、そこにはいつか翠紗様と見たあの池が見える。

僕は疑問に思った。

「おかしい……場所が合わない……」

あの時学び舎の西側に広がる森で僕たちは課外授業をしていたはずで、こことは真逆なのだ。

「なら、似てるけど違うってこと?」

僕は独り言ちて、そっとその池に近寄った。
覗き込んでみたが、普通の池だ、小魚が僕の影を恐れてツイーっとあちらに泳いで逃げた。

「まあ、似てるけど違う池だよね」

顔を上げて、そして僕は固まった。

「え?」

目の前に女の人が立っていた。


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