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離れの宮2
しおりを挟む「留紗は?一緒にいけるの?」
「はい!僕もまた、お会いしていいですか?ってお伺いしたら、頷いてくださったので!」
「なるほど……じゃあ……一緒に行けるんだね。でも待ってくれる?一応、蘭紗様に相談はしておきたいから」
「そうですよね……でもあの……本当に素敵な方でした。僕にとっては従姉のお姉さまですから、またお会いしたいです」
「うん、そうだよね。血の繋がりがあるんだもの」
留紗は後から慌ててやってきた従者らに引きずられるように連れて行かれ、僕はまたナナを抱っこして柔らかい毛並みに顔をうずめた。
「ナナ、かわいい、ふわふわ……かわいい、ナナぁ……ふわふわだね」
「薫様……」
仙がコホンと咳払いしてから声をかけてきた。
最近心が疲れると、ナナの毛並みに顔をうずめてもふもふと楽しむことにしているのだけど、どうやらその様子が異様に思えるらしくて仙はいつも困った顔をする。
そんなにおかしい?
「ん、ごめん、もう一度ブラッシングしようかな、櫛はどこ?」
「いえ、そうではありません、蘭紗様がお呼びだそうで」
「へ?そうなの?」
「はい、侍従がお迎えに来ております」
「わかった」
僕は仕方なくナナをぽすんとソファに置いて、羽織を着せてもらった。
春の装いなので色も軽くて絹も軽いものだ。
だけどしっかりと重ねるので、朝夕の寒さにも対応できるようになっている。
……何の用だろう?
執務室に向かう間、ぼんやりと久利紗様のことを考えながら廊下の外を眺める。
昼間なので、庭師が手入れしているのが見えて少し微笑む。
紗国の人達は本当に勤勉だ。
執務室の扉を開けると、蘭紗様と喜紗さん、そして涼鱗さんがいた。
「どうかしましたか?」
「ああ、薫、すまないね。休んでいるところじゃなかったの?」
涼鱗さんが僕に優しく問いかけた。
「いえ、大丈夫ですよ」
実は先だっての選考会で疲れ果てた僕は、3日ほど熱を出して寝込んでしまったのだ。
たぶんそのことを言われているんだ。
蘭紗様も優しい笑顔で迎えてくれた。
皆でソファーに移動して、今日は僕がお茶を入れた。
「ふふ……薫が入れてくれるお茶はおいしいねえ」
「そうだろう」
「なぜ、蘭紗が返事をするのかねえ」
「薫のことをおまえが褒めたからだが、なにかおかしいか」
「んと……」
涼鱗さんは軽く溜息をついてから、僕を見つめた。
「薫、ありがとうね、香夜葉のことで世話になって」
「僕何もできていませんよ?」
「いや……そもそもあれだ……香夜葉の思い出の品を取りに行くとか、私にもカジャルにも考えがつかなかったからねえ、本当にありがたかったよ」
「あれは間に合ってよかったです、香夜葉は喜びましたか?」
「うん……母さんの匂いがするって抱きしめて泣いていたよ。なんともボロだったから、本当は洗ってから渡そうとしたんだけどねえ、カジャルがそのまま見せると聞かなかったんだ」
「そうですか……匂いか……」
僕は紅茶を飲みながら実家の母を思い浮かべた。
匂いはどんなだったかな……
「まだ幼いし、今は苦しいでしょうけど、泣いて泣いてたくさん悲しんで、そしていつか立ち直れるんじゃないでしょうか、あの子澄んだきれいな目をしていました」
涼鱗さんは満足げにふふっと笑って頷いてくれた。
「それでだ、実は姉から文が来てな……」
蘭紗様が僕に文を差し出してきた。
「お姉さま?どちらの?」
「久利紗の方だ」
「……やはり……」
「薫、なにか知っていたのか?」
「えと……さっき、ほんとうについさっきなんですけどね、泥だらけのまま留紗が僕を尋ねてきて小さな花束をくれたんです。久利紗様からだといって」
「なに……」
「留紗が?」
喜紗さんと蘭紗様が驚いて目を見開いた。
「留紗はアオアイ学園の課題で山歩きをしていて、偶然お会いしたそうですよ。そして久利紗様は僕に会いたいと伝言と花束を留紗に託したんです」
「……そうだったのか……」
「蘭紗、久利紗様とは、おまえのもうひとりの姉だよな?私は全く知らないが」
「ああ、そちらの姉は外には出ないのだ」
「なぜ出ない?王族の集まりにもいなかったよねえ」
「うむ、事情があってな……」
「その……事情は言えぬのか?」
喜紗さんが溜息をついた。
「申し訳ございません……これは兄……先代の王からきつく口止めされていることで……真実を知るものは、私の他は、蘭紗様と数人の侍女らでございましてね、これは……簡単に口に出せることではございませんで……」
「では一点だけ……確認したいんだけどいいかな?それは、対外的に問題になるようなこと?そうじゃなく、紗国だけの問題?」
「ああ、それは大丈夫でございます、どちらかというと、家族内の問題でしょうな」
「なら、私は良いよ、家庭の事情を根掘り葉掘り聞くような趣味はないからねえ」
涼鱗さんは両手の平を喜紗さんに向けた。
「だが……涼鱗はこの国の宰相だ。知らないことがあるのは良くないかもしれんな」
蘭紗様は静かにそう言った。
「でも、国としての問題でないのなら、別に聞くこともないでしょ」
「ん……どうだろう叔父上、我は、薫と涼鱗には伝えておいたほうが良いと思うのだが」
「……そうですね……私は蘭紗様に任せます」
喜紗さんは少し困ったように頷いた。
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