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お告げ2
しおりを挟む「あぁそうだ」
「しかし……なぜ?なぜ始祖様が阿羅国の子孫のことにお告げを……」
「そこなのじゃ……」
佐良紗様は少女の姿で困ったように目を閉じ、そして溜息をついた。
「もともと……阿羅彦、つまり、新人様は紗国のお嫁様だったお人じゃ。薫様と同じように、界を渡ってきてくださったのに、あのような人生を送るはめになってしもうたことに、始祖様は紗国の責任として考えておられるのだろうと、妾は解釈した。あの方がお嫁様として来てくださらなかったら、そもそも阿羅国自体無かったのじゃ……阿羅国の責任の一端は紗国にあるのじゃ」
「それは……」
久利紗様は苦しそうに顔を歪めた。
「あの……ですが……波羽彦様にはもう、波成様という愛しいお方がおられます。男子ということで正室になれないとは聞いておりますが……だからといって、あの方たちの間に嫁がれても久利紗様がご苦労されるだけではないかと」
「……なるほど……薫様はお優しいな。だが……王家に生まれた女子ならばそれは問題ではなかろう」
「……確かに、愛とか恋とか、そういうこととは違うのでしょうな。妾はそういう教育を受けておらぬので、なんと言っていいのか……それでも、紗国王が決めて阿羅国王が了承するのならば、妾は嫁いで子を産みましょう、それぐらいの覚悟は持っていて当然でしょうから……これでも妾は王女です」
久利紗様は少女のような姿の佐良紗様をじっと見つめた。
佐良紗様は見えるかのように妹をじっと見つめて微笑んだ。
「妾は神に身を捧げたのでな、子を成すことなど夢のまた夢。実際に神殿に入ってから身体も年を取らなくなった。このように少女のような身体のままじゃ。だがな、女であれば子を産んでみたかったと思う気持ちがないわけではないのじゃ。まあ、言うても詮無いことじゃがな」
佐良紗様のその告白に胸が痛くなった。
この方には悩みなどないと勝手に思い込んでいた自分が恥ずかしい。
勝手に神に近い人のように思っていた……
この方だって、血の通う人なのに。
「その……姉上……私の心など良いのです……しかし波成様はどうなるのです、あの方は我らの父の霊獣であらせられるのじゃ。その御方を差し置いて波羽彦王の子を成すなど。……あの方を傷つけてしまうのではないだろうか……それが妾は恐ろしい……」
久利紗様は両手をきつく握っていた。
心が乱れて不安が押し寄せているのだろうと思った。
「ああ、そうじゃな……波成様は我らの父のために天から遣わされた麒麟……そしてその方が今や阿羅国の守り神のようにあちらにおられる。その縁も偶然ではなかろうとそうは思わぬか?」
「では、全て天の采配と?」
「始祖様からお告げなど……普通はないのじゃ。もう何千年も無かったことがあったというのは、それだけ大事なことだと、そうは思わぬか? ……最初にそなたに告げ、覚悟を決めてほしいとそう思ったのじゃ。妾が蘭紗に言うて蘭紗がそなたに命ずる前に、な」
「妾が……阿羅国に……」
僕は何も言えなかった。
始祖様からのお告げがあった、そのことの持つ偉大な力に押しつぶされそうだった。
波成様がきらめく笑顔で波羽彦王を見上げる姿を思い出す。
恋しているあのかわいらしい姿。
そしてそれにこたえて波成様を大事になさる波羽彦王の姿。
彼らは愛し愛されている、その二人を裂くような形でお輿入れをしなければならない久利紗様のお気持ちも……考えれば考えるほどにつらくなる。
だけど、阿羅国は元はと言えば紗国のお嫁様が興した国……言われてみればそうだ。
だから責任をと、そういうことなのだろうか。
でも、実際に生きている人の心はそう簡単に割り切れるもんじゃない。
例えば、お告げがあったからと言って、蘭紗様に他国から姫がお輿入れされたとして、僕はそれを受け入れられるのだろうか?
どう考えても無理……だ。
僕は蘭紗様の顔を思い浮かべ、今すぐ抱きしめられたい気持ちを抑えきれなかった。
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