狐の国のお嫁様 ~紗国の愛の物語~

真白 桐羽

文字の大きさ
296 / 317

愛する人たち3 -最終話ー

しおりを挟む
「蘭紗様、薫様、それに翠紗様!このたびは、またこの地においでいただき、本当に感謝いたしまする」

長老の挨拶を受け、久しぶりに見る北部の山々を見渡した。
あの時はどこを見ても真っ白な雪ばかりだった。
雪崩被害が出た直後だったので、自然の驚異が恐ろしくもあった。

だけど今は、遅い夏を迎えようとしている北部の山には、青々と葉が茂っている。
そして、一面に咲く白い花も見え、それが紗国原産のぶどうの花だと聞いて頷いた。
翠は、嬉しそうにそれをじっと見る。
荘園で働いていた頃、見ていた光景なのだろう。

そのまま涼鱗さんとカジャルさんは、山間部の雪崩被害の復興について報告を受けてくると言うことで、別行動になった。

蘭紗様と僕と翠だけで先に宿へと案内される。

僕たち家族用に急ごしらえで作られた部屋は、白木の香りも爽やかな美しい日本家屋だった。
宿の本館の離れになっていて、その先にあるこれまた新しく作られた露天風呂に繋がっている。

この大自然の中で露天風呂だなんて!……僕の心はうきうきが止まらない。
カゴから出されたナナもご機嫌で部屋をうろついている。
もこもこしていてとってもかわいい。

「薫、ずっと笑顔だな」
「蘭紗様だって!」
「ぼくも!」

すっかり目覚めた翠も嬉しそうにバンザイをして、ナナと一緒に広い部屋を走り回った。

「どうだ、食事前に朝から露天風呂に行ってみるか?」
「はい!」

僕は仙から3人分のお風呂の準備を受け取った。
そして、露天風呂に向かうために浴衣に着替え、下駄をカランコロン言わせながら3人で歩いた。

本当に温泉情緒たっぷりです!

「わあ!すっごい広い」

庭の向こうに一面に広がる大きな露天風呂は、何種類も作られていている。周囲に見える美しい景色は自然の山並みだ。

しゃれた東屋もあって、そこにはきちんと何種類かの飲み物も置かれてあり、ゆったりと過ごせるよう、配慮がされてあった。

「建設部の者が、薫からスパの構想を聞いただろう?……それを元に色々と工夫を凝らしたのだそうだ、港町の方のスパ計画の方もそろそろ青写真が出来てくる頃だろう」
「そうなのですか!あの方たちはほんとに優秀だから……」

僕は翠の浴衣を脱がせながらもう一度感心して露天風呂を見渡した。
少し話しただけでこれほどのものを作り上げるとは……本当にすごい。

「ぼく、入っていいですか?」
「ちゃんと体を洗ってからね」
「はい!」

翠は、裸んぼうになってシャワーのある方で体をきれいにし始めた。
最近は自分でできるように、色々と教えているところなのだ。
アオアイに行くことになったら、自分でやらなくてはいけないのだしね。

ふんふんと歌いながら体を洗う小さな翠を、蘭紗様も優しい笑顔で見つめている。
僕も浴衣を脱いで、タオルを取った。
蘭紗様が僕に手を差し伸べてくれたので、一緒に手を繋いで洗い場に行き、体をきれいにした。

洗い終わった翠が駆けてきたので、蘭紗様がそのまま抱っこして湯船に浸かった。
僕もその横に座って思わず溜息をついた。

「ふぅ……」
「ああ……いい湯だ」
「熱くもなく、ちょうど良い温度ですね」
「うむ」
「およいでいいですか!」
「泳げるの?」
「はい!学び舎で教えてもらってます」

翠は蘭紗様の手を離れ、すいすいと意外にも達者な泳ぎを見せた。

「上手……」
「ははは!そなたに似たのかもしれないな」
「蘭紗様だって得意じゃないですか」

僕たちは微笑みあって、そしてどちらからともなく近寄ってキスをした。
心があったかくなるような、安心するような……そんなキスだ。

「薫、愛しているよ」
「はい、蘭紗様……僕も愛しています」


僕は頬を赤らめて、そして蘭紗様を見つめ微笑んだ。



いつの間に僕は、こんなにたくさんのものを手に入れたのだろう。



愛する蘭紗様、そしてかわいい翠、それから大好きな友人たち、それに、大切な支えてくれる人々……


ほしいと心から願っても、手に入れられるものなんかじゃない。
それに、これは偶然なんかじゃない。
彼らに会えたのは、僕の運命なんだ。
今は、そう思える。
この運命を大切にしなければ……



神様の存在が常にそばにある……そんな紗国で、僕はこんなにも幸せでいられる。



ありがとうございます。
すべてのことに……感謝いたします。



見上げた空は抜けるように青く……そして美しかった。





ー完ー




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
最終回となりました。

お読みいただいてありがとうございました。



今後、後日談などの回を上げていく予定ですので、ブクマはそのままにしていただければ幸いです。

感想もぜひとも聞かせてくださいませ、とってもとってもお待ちしております。
しおりを挟む
感想 39

あなたにおすすめの小説

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

牛獣人の僕のお乳で育った子達が僕のお乳が忘れられないと迫ってきます!!

ほじにほじほじ
BL
牛獣人のモノアの一族は代々牛乳売りの仕事を生業としてきた。 牛乳には2種類ある、家畜の牛から出る牛乳と牛獣人から出る牛乳だ。 牛獣人の女性は一定の年齢になると自らの意思てお乳を出すことが出来る。 そして、僕たち家族普段は家畜の牛の牛乳を売っているが母と姉達の牛乳は濃厚で喉越しや舌触りが良いお貴族様に高値で売っていた。 ある日僕たち一家を呼んだお貴族様のご子息様がお乳を呑まないと相談を受けたのが全ての始まりー 母や姉達の牛乳を詰めた哺乳瓶を与えてみても、母や姉達のお乳を直接与えてみても飲んでくれない赤子。 そんな時ふと赤子と目が合うと僕を見て何かを訴えてくるー 「え?僕のお乳が飲みたいの?」 「僕はまだ子供でしかも男だからでないよ。」 「え?何言ってるの姉さん達!僕のお乳に牛乳を垂らして飲ませてみろだなんて!そんなの上手くいくわけ…え、飲んでるよ?え?」 そんなこんなで、お乳を呑まない赤子が飲んだ噂は広がり他のお貴族様達にもうちの子がお乳を飲んでくれないの!と言う相談を受けて、他のほとんどの子は母や姉達のお乳で飲んでくれる子だったけど何故か数人には僕のお乳がお気に召したようでー 昔お乳をあたえた子達が僕のお乳が忘れられないと迫ってきます!! 「僕はお乳を貸しただけで牛乳は母さんと姉さん達のなのに!どうしてこうなった!?」 * 総受けで、固定カプを決めるかはまだまだ不明です。 いいね♡やお気に入り登録☆をしてくださいますと励みになります(><) 誤字脱字、言葉使いが変な所がありましたら脳内変換して頂けますと幸いです。

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

この世界は僕に甘すぎる 〜ちんまい僕(もふもふぬいぐるみ付き)が溺愛される物語〜

COCO
BL
「ミミルがいないの……?」 涙目でそうつぶやいた僕を見て、 騎士団も、魔法団も、王宮も──全員が本気を出した。 前世は政治家の家に生まれたけど、 愛されるどころか、身体目当ての大人ばかり。 最後はストーカーの担任に殺された。 でも今世では…… 「ルカは、僕らの宝物だよ」 目を覚ました僕は、 最強の父と美しい母に全力で愛されていた。 全員190cm超えの“男しかいない世界”で、 小柄で可愛い僕(とウサギのぬいぐるみ)は、今日も溺愛されてます。 魔法全属性持ち? 知識チート? でも一番すごいのは── 「ルカ様、可愛すぎて息ができません……!!」 これは、世界一ちんまい天使が、世界一愛されるお話。

臣下が王の乳首を吸って服従の意を示す儀式の話

八億児
BL
架空の国と儀式の、真面目騎士×どスケベビッチ王。 古代アイルランドには臣下が王の乳首を吸って服従の意を示す儀式があったそうで、それはよいものだと思いましたので古代アイルランドとは特に関係なく王の乳首を吸ってもらいました。

[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった

ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン モデル事務所で メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才 中学時代の初恋相手 高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が 突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。 昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき… 夏にピッタリな青春ラブストーリー💕

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

助けたドS皇子がヤンデレになって俺を追いかけてきます!

夜刀神さつき
BL
医者である内藤 賢吾は、過労死した。しかし、死んだことに気がつかないまま異世界転生する。転生先で、急性虫垂炎のセドリック皇子を見つけた彼は、手術をしたくてたまらなくなる。「彼を解剖させてください」と告げ、周囲をドン引きさせる。その後、賢吾はセドリックを手術して助ける。命を助けられたセドリックは、賢吾に惹かれていく。賢吾は、セドリックの告白を断るが、セドリックは、諦めの悪いヤンデレ腹黒男だった。セドリックは、賢吾に助ける代わりに何でも言うことを聞くという約束をする。しかし、賢吾は約束を破り逃げ出し……。ほとんどコメディです。  ヤンデレ腹黒ドS皇子×頭のおかしい主人公

処理中です...