狐の国のお嫁様 ~紗国の愛の物語~

真白 桐羽

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番外編

まざりの子 2

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 窓の外をそっと眺めた。
ヒビが入り、一部は欠けたままの粗末な窓だ、そしてお世辞にも質がいいとは言えず、拭いても透明にはなりきれない、そんなガラスがはまっている。

僕は出てはいけないと言われた日は、そのガラスから外を覗くのだ。
たった一つの楽しみなんだ。

門から馬車が入ってきたのが見えた。



ああ、あれがおとうさんおかあさんという人たちが乗っている乗り物なんだ……



僕は胸がきゅっと締め付けられるように苦しくなった。
知らない間に涙がたまって、頬を流れた。

視界が歪んでしまって、思わず目を瞑る。

ゆっくりともう一度目を開けると、院長に手をつながれたシルバが見えた。
いつもよりきれいな赤い服を着ている。
ふだんはみんなも継ぎを当てた服を着ているのに……

嬉しそうにその服を触るシルバ、そんなシルバに手を差し伸べるおとうさんとおかあさん。
茶色の髪のおとうさんは、黄色の髪のおかあさんの背を優しくなでている。
二人の顔は見えないけれど、きっと優し気に笑っているのだろう。

「あれが……おとうさんとおかあさん……」

僕は思わず声に出してしまった。
ちいさな僕の声があちらに届くわけでもないのに、怒られることを恐れて咄嗟に両手を口に当てた。


だめ、今日は声も出してはダメ。


どうすれば……僕におとうさんとおかあさんができるんだろう?



まざり……まざりの子……そういわれ続けて母屋にも入れてもらえない。
人ではないと言われる僕には……迎えなんてない。
そう……なのかな……
ほんとに?
でも、思うんだ。
僕にだって、僕をかわいいと思ってくれる人がどこかにいるんじゃないかって。

「おい」

背中から突然声をかけられて驚いて飛び上がった。

「ヒッ」
「おまえ、外なんか眺めるんじゃない。さっさとこれを裏山に持って行って洗ってこい」

おじさんは僕の服を引っ張って窓から引き離すと、ぼろきれの入ったバケツを押し付けた。

「あ……」
「いけ」
「うん」

僕はそのバケツを抱えて裏山にそっと出た。
ここは、表からは見えない。
だから、もう、シルバのおとうさんとおかあさんも見れない。
あれは僕のおとうさんとおかあさんじゃないのはわかっている。
でも、そう呼ばれるひとたちの姿を見るだけでも夢を見れた。

「やさしそうだった」

僕は少し笑顔になって歩き出した。

だいじょうぶ、がんばれる。
いつかきっと来てくれるおとうさんとおかあさんを、ここで待つんだ。



 昼すぎからおにいさんとおねえさんたちが畑に出てきて作業をし始めた。
おじさんは家畜の世話をやり終えすでに帰宅している。

僕は窓からその様子をじっと見ていた。

「おーい、まざり!」

畑から僕は呼ばれた。
一番体の大きなおにいさんだ。

僕は返事をすべきか悩んだ。
これまでも呼ばれた時は返事をしていたが、返事をするなんて人間のすることだ、お前はただこっちを向くだけでいいんだ!と、そのたびに棒で叩かれた。

「おまえ、きょう、シルバのこと窓から見てただろ?俺見たからな!隠れとけって言われたくせに、窓から顔を出すんじゃないよ!」

皮肉な笑みを浮かべたおにいさんが窓に近づきながらそう言った。

「おー……くさい……家畜のにおいと、えっとこれは何の匂いだ?」
わはははは!とみんなが笑う声が聞こえた。

「臭すぎてここから近寄れもしない!」

僕は思わず窓から一歩二歩と後ずさる。

怖くて握りしめた手がぶるぶると震えた。

時々裏山の小川で体を洗うけど、冬は冷たすぎてそれも叶わない。
僕は今、すごく汚いんだろう……皆に迷惑をかけているんだろう……

「それからさ、お前がいくら憧れても無理なんだからな、おまえは人間じゃないんだから、お前なんかに親ができるわけがないんだ、本当の親だってきっと森の魔物さ」

もりのまもの……
そうなのかな。
僕は……魔物の子なのかな。

夜、時折聞こえる魔物の遠吠え。
見たことはないけれど、おぞましい姿をしていると聞いたことがある。

僕の外見は特徴的だ、ちいさな三角の耳に少し巻いた角。
そう……ちいさいけれど角があるんだ。
この角は狐族である皆にはないもの。やっぱり、僕は人ではないのかな。

院長の怒鳴り声に呼び戻されておにいさんは慌てて畑に戻っていった。
僕は家畜たちのぬくもりを求めてふらふらと窓から離れた。

ぺたりと座り込む僕の横にウシが寄ってきてくれた。
他の子たちもみんな。

そうだね、この子たちがいる。
僕の涙は止まらないけど、だけど……少しだけ心があったかくなった。


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