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番外編
まざりの子 3
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紗国の夏が終わろうとしていた。
まだまだ熱い日は続くけれど、朝夕は涼しい風が吹くようになった。
僕は春の終わりぐらいから院の裏側に広がる荘園に働きに出されるようになった。
まず、朝早くに起きて家畜小屋を掃除する。
それが終わったら迎えの馬車に乗り込み、ほかのおじさんたちと一緒に向かうのだ。
馬車といっても荷台車で、屋根はないし飼料や道具なども積んである。
いつか見た、あの、おとうさんおかあさんが乗っている乗り物とは違うもの。
僕はそう感じていた。
ここではいろんな果実の木が植えられていて、僕たちはその世話をするのだ。
指導役の人は大きな大きな太ったおじさんだ。
最初に僕が紹介された時、見上げる僕に嫌そうな顔をして舌打ちをした。
怖くなってすぐ下を向くと、指導役は静かに言った。
『ここでは年の上下は関係ない、子供だからといって甘やかすこともできない、お前はやれることを精一杯やるんだ、それから、昼には飯が出る』
僕にはその『飯が出る』という言葉がどれほど嬉しかったことか。
いつもパンをくれる家畜の世話人に会う前に院を出てきたので、朝食べてなかったのだ。
……僕の……日に一度のごはん。
ここでは何が食べられるんだろう。
◆
「今日は早生のぶどうの収穫をしていく、各自籠とハサミを持って指定された場所へ迎え」
太く響く指導役の指示に従い、労働者たちは動き出す。
荘園で働くのは裕福でない家の者たちや、犯罪者あがりの面々だ。
他では働けない、そういう事情のある者が奉公しているらしい。
中には年寄りもいるが、皆しゃきしゃきとよく働く。
今日は僕にとっては初めての収穫だ。
いつものように草取りや水やりではない。
不安そうにたたずむ僕に指導役はぶっきらぼうにだけど、丁寧に作業のやり方を教えてくれた。
収穫のためにいつもより集められている人も多い。
黙々と作業をしている人々の中で、僕は持たされた大きな道具を確認した。
さきほど渡された大きなハサミを一回動かしてみた。
ちいさな僕の手にはいかにもそぐわない。
良い切れ味のそれは扱い方を気をつけないとケガをする、と指導役は教えてくれた。
僕は「よし」と一言つぶやいて、大きなかごをよいしょと持って言われた区画へ急いだ。
はしごをかけたブドウの木によじのぼり、教えてもらった通り丁寧にハサミを入れた。
春の終わりにかけた袋ごと、ずっしりとした重くておいしそうな輝く果実が手の中に納まる。
「わぁ……きれい……ひかってる」
陽の光をまとったブドウは宝石のようだった。
どんな人にこのブドウは届けられるのかな。
僕は笑顔になってゆっくりと丁寧に籠に置いた。
それからは夢中で収穫の作業をやり終えた。
昼休憩に出されたのは『おにぎり』
大人にはおにぎりが2個渡されている。
日によって具が代わり、時には混ぜご飯だったりもするし、パンになったりもする。
僕はこれまで、固いパンを朝一つもらえるだけだったので、おにぎりを初めて見た時、それが何なのかわからなかった。
皆がおいしそうに食べているのを見ておそるおそる口に入れ、口の中に広がるご飯のつぶつぶに驚いて、そして、そのおいしさに涙が出た。
院では皆と同じようには扱ってもらえない。
ここでは、僕のことを『まざり』だと言ってバカにするものはいなかった。
無駄口をたたく者がないので会話がなく、皆自分のことだけに集中している。
やることが多いのだ。
僕のことをじっと見たりからかってくる余裕がないのかもしれない。
頭に生えている僕のちいさな角は、ぐちゃぐちゃの髪の中に埋もれていて、見ようとかき分けないとあることさえわからないはずだ。
わざとそうしているのではなくて、髪を切っていないだけなのだけど。
それが功を奏して、皆に角を発見されずにすんでいるのかもしれない。
つまり、狐族とは明らかに違う耳の形でも、ほかの獣族の子だろうと思われているに違いない。
ここでは、誰とも目が合わないまま、僕は自分の時間をここで過ごすことができた。
それに……
園で働けばごはんももらえる。
こんな嬉しいことはないんだから。
その時……
「おい、お前、呼ばれているぞ」
「え?」
僕は呼びかけれ、ぼんやりと声の主を見上げた。
------------
3話で完結しようと思ったのですが、もう一話付け加えさせていただきます。
まだまだ熱い日は続くけれど、朝夕は涼しい風が吹くようになった。
僕は春の終わりぐらいから院の裏側に広がる荘園に働きに出されるようになった。
まず、朝早くに起きて家畜小屋を掃除する。
それが終わったら迎えの馬車に乗り込み、ほかのおじさんたちと一緒に向かうのだ。
馬車といっても荷台車で、屋根はないし飼料や道具なども積んである。
いつか見た、あの、おとうさんおかあさんが乗っている乗り物とは違うもの。
僕はそう感じていた。
ここではいろんな果実の木が植えられていて、僕たちはその世話をするのだ。
指導役の人は大きな大きな太ったおじさんだ。
最初に僕が紹介された時、見上げる僕に嫌そうな顔をして舌打ちをした。
怖くなってすぐ下を向くと、指導役は静かに言った。
『ここでは年の上下は関係ない、子供だからといって甘やかすこともできない、お前はやれることを精一杯やるんだ、それから、昼には飯が出る』
僕にはその『飯が出る』という言葉がどれほど嬉しかったことか。
いつもパンをくれる家畜の世話人に会う前に院を出てきたので、朝食べてなかったのだ。
……僕の……日に一度のごはん。
ここでは何が食べられるんだろう。
◆
「今日は早生のぶどうの収穫をしていく、各自籠とハサミを持って指定された場所へ迎え」
太く響く指導役の指示に従い、労働者たちは動き出す。
荘園で働くのは裕福でない家の者たちや、犯罪者あがりの面々だ。
他では働けない、そういう事情のある者が奉公しているらしい。
中には年寄りもいるが、皆しゃきしゃきとよく働く。
今日は僕にとっては初めての収穫だ。
いつものように草取りや水やりではない。
不安そうにたたずむ僕に指導役はぶっきらぼうにだけど、丁寧に作業のやり方を教えてくれた。
収穫のためにいつもより集められている人も多い。
黙々と作業をしている人々の中で、僕は持たされた大きな道具を確認した。
さきほど渡された大きなハサミを一回動かしてみた。
ちいさな僕の手にはいかにもそぐわない。
良い切れ味のそれは扱い方を気をつけないとケガをする、と指導役は教えてくれた。
僕は「よし」と一言つぶやいて、大きなかごをよいしょと持って言われた区画へ急いだ。
はしごをかけたブドウの木によじのぼり、教えてもらった通り丁寧にハサミを入れた。
春の終わりにかけた袋ごと、ずっしりとした重くておいしそうな輝く果実が手の中に納まる。
「わぁ……きれい……ひかってる」
陽の光をまとったブドウは宝石のようだった。
どんな人にこのブドウは届けられるのかな。
僕は笑顔になってゆっくりと丁寧に籠に置いた。
それからは夢中で収穫の作業をやり終えた。
昼休憩に出されたのは『おにぎり』
大人にはおにぎりが2個渡されている。
日によって具が代わり、時には混ぜご飯だったりもするし、パンになったりもする。
僕はこれまで、固いパンを朝一つもらえるだけだったので、おにぎりを初めて見た時、それが何なのかわからなかった。
皆がおいしそうに食べているのを見ておそるおそる口に入れ、口の中に広がるご飯のつぶつぶに驚いて、そして、そのおいしさに涙が出た。
院では皆と同じようには扱ってもらえない。
ここでは、僕のことを『まざり』だと言ってバカにするものはいなかった。
無駄口をたたく者がないので会話がなく、皆自分のことだけに集中している。
やることが多いのだ。
僕のことをじっと見たりからかってくる余裕がないのかもしれない。
頭に生えている僕のちいさな角は、ぐちゃぐちゃの髪の中に埋もれていて、見ようとかき分けないとあることさえわからないはずだ。
わざとそうしているのではなくて、髪を切っていないだけなのだけど。
それが功を奏して、皆に角を発見されずにすんでいるのかもしれない。
つまり、狐族とは明らかに違う耳の形でも、ほかの獣族の子だろうと思われているに違いない。
ここでは、誰とも目が合わないまま、僕は自分の時間をここで過ごすことができた。
それに……
園で働けばごはんももらえる。
こんな嬉しいことはないんだから。
その時……
「おい、お前、呼ばれているぞ」
「え?」
僕は呼びかけれ、ぼんやりと声の主を見上げた。
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3話で完結しようと思ったのですが、もう一話付け加えさせていただきます。
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