狐の国のお嫁様 ~紗国の愛の物語~

真白 桐羽

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番外編

ある日の僕の冒険5

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 神殿の最奥に、その一角はあった。
花々が美しく咲き乱れる庭に囲まれた瀟洒な建物。
白亜の壁には美しく彫刻が施され、芸術品のようにみえた。

 だけど、どこか……なぜか……僕には、紗国の王墓を思い起こさせたんだ。
美しくあればあるほど、悲しみが増すような、そんな気持ちに。

「こちらです」

ユベンさんは短い詠唱をして、その建物の周りにある結界を解いた。
そして、ゆっくりと扉を押す。

中は意外にも清浄な空気が満たされていて驚いた。
閉め切られていたのに、どうして。

「こちらにはお世話をするために専任の巫女が出入りしております」

僕の疑問は口に出さなくても通じちゃったみたいだ……

「中は明るいのですね」
「ええ、採光には気を使っております。眠り巫女姫が万が一目を覚まされたら、美しい光でお迎えしたいと、そう考えられたようですね」

そして、前室を通り、この家の主が眠る部屋の扉の前に来た。

「私はここでお待ちします。乙女の眠る部屋は男子禁制ですから」
「って、え!僕は男子ですよ!」

ユベンさんは困ったように微笑んだ。

「いえ、薫様はすべてを超越されたお方、それに、眠り巫女姫様はあなたにお会いしたいはず、さあ、どうぞ」

 僕はユベンさんの言葉に何も言い返せず、少し躊躇しながら扉に手をかけた。
音もなくするっと開き、面食らった僕は中を見渡す、そして一歩中に入った。
パタンと扉は閉まった。

 緩やかな時間の流れを感じさせる内部の設え、エルフの意匠を熟知しているわけではなくとも、この部屋に置かれた家具が、何千年も昔に誂えたものだろうと感じられた、これを用意した人はきっと、この巫女姫の血縁者、愛をこめて、巫女姫のために……

「こ、こんにちは……えと、薫です……って、きこえてますか?」

僕は紗幕のかかる可愛らしいベッドに少し遠くから話しかけた。

「……お眠りなのだし、お答えがなくて当たり前だよね……」

僕はどうしていいのかわからなくなって、そっと、歩みを進めてベッドに近寄った。

「キュルルー」

その時、美しく鳥のなく声が聞こえ、ハッとして宙を見上げる、クーちゃんだった!

「クーちゃん!きてくれたの!」

僕は喜びのあまり両手を差し出して、クーちゃんを抱きしめた。

「わあクーちゃん、来てくれてうれしいよお……なんだか翠の匂いがする……翠は元気?蘭紗様は?みんな心配してるよね、ごめんねごめんね」

僕はしばしクーちゃんとの再会に喜んで、そしてハッとした。

 ああ、こんなことしてる場合では。

 そしてもう一度ベッドに目をやり、クーちゃんを抱きしめたままそっと近寄った。
紗の向こうには確かに誰かが横になっているのが見える。
だけど、さすがに幕を開けて声をかけるのは躊躇われた。
ユベンさんの言うように、この方は乙女なのだ。
いかに紗国のお嫁様とはいえ僕はれっきとした男子!ここは一線を引かねばと幕の外から声をかけた。

「えっと、僕は紗国から来ました、王妃の薫です。紗国の花嫁として、異世界から来たのですよ、あなたが僕をここに呼んだのですか?」

当然、応えはない。

「そうと仮定して……せっかくですから、僕のお話でもどうですか?」

クーちゃんも「クウー」って鳴いてくれた。

「僕はね、日本という国から来たのです、そこで、大学生という身分でした、まだ学生だったのですよ」

そこまで話した時だった。

急にむせかえるような花の匂いが部屋に充満し、僕は異変を感じて身を固くした。

「な、なに?」

クーちゃんは鳴きもせず、じっと僕に抱かれている。

「ん……」

小さな声が聞こえた。

「え?」

僕はその声の主をじっと見た。

「ん……」

もう一度、確かに聞こえたその声は……なんと眠り巫女姫様が発している。

「えええ?」

思わず幕を開け、中に入り、ベッドの横に膝をついて覗き込む。

「巫女姫様、お目覚めなのですか?!」
「ん……」

一瞬苦し気な表情の後……巫女姫は、ぱっちりとした目を開けて、僕をじっと見つめた。

「ええええ!」

僕の素っ頓狂な声が部屋に響き渡ったんだ。

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