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プロローグ
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恐ろしく速い刃の切っ先が男の頬を掠める。
東条真理が手にしているのは不気味に光る、縞馬(しまうま)の剣だった。
真理は大量の涙を流していたが、矛先は正確で、剣術の心得がある男に対して少しも臆する心を持たなかった。
しかし男の眼もまた据わっていて、虎視眈々と真理の隙を伺っているようであった。
真理が再び剣を振るい、その迷いなき刃があと少しで男の眼を砕くところであった。だが男は避けた。
その時真理の重心が少しばかり上方に偏ったのを見逃さない。男は彼女の小さな体の下に体を滑らせた。身を捩ろうとした真理より一寸早く、短剣を届かせる。鋭利な先端が彼女の脇腹にのめり込んだ。
「痛い」と真理は言った。
四肢を懸命に動かして男の手から逃れようとする。
男は真理の身体を地面に押し倒すと、曇りなき眼で彼女に問う。
「なぜお前は俺を殺そうとする?」
「お前が死ねば」真理の表情は苦痛に満ちている。舌を噛んだのか、真っ白の歯が朱色に染まり、血と唾液の交じった液体が泡状に口外に弾ける。
「貴様は消え失せ、叔母が私のために帰って来る」
「それがお前のやりたかったことか!」
男は吠えた。脇腹に深々と刺さった短剣を、引き戻して首筋に当てる。その行為に付随する果てしない痛みに真理は悶絶する。
「貴様は悪魔だ! なぜ叔母を殺した」
「悪魔はお前だ。浄化という名のゲームで人間をいたずらに殺し、次は自らの欲望のままに世界を改変しようとしている」
「黙れ! なぜ叔母を殺したのかを聞いている」
声を震わす真理の喉奥に血が混じり、うがいのような気味の悪い音が口元でこだまする。
男はその様を、全く怖気づく様子もなく捉えていた。
「お前をおびき寄せ、悪魔の系譜を絶つためだ。これ以上お前に聞くこともなければ、生かしておく理由もない。すべてを終わらせるんだ」
呪文のような抑揚のない言葉だった。真理はそれでようやく、男が迷いなくいられているわけが分かった。
男は狂気に囚われている。自分と同じだった。
短剣を放り投げた。男の手にあったのは縞馬の剣である。
「消えろ」
狂気が真理の喉元めがけて突き刺さる。何も生まない人生だった。
消滅の中で、最後の言葉すら形を成さない。
東条真理が手にしているのは不気味に光る、縞馬(しまうま)の剣だった。
真理は大量の涙を流していたが、矛先は正確で、剣術の心得がある男に対して少しも臆する心を持たなかった。
しかし男の眼もまた据わっていて、虎視眈々と真理の隙を伺っているようであった。
真理が再び剣を振るい、その迷いなき刃があと少しで男の眼を砕くところであった。だが男は避けた。
その時真理の重心が少しばかり上方に偏ったのを見逃さない。男は彼女の小さな体の下に体を滑らせた。身を捩ろうとした真理より一寸早く、短剣を届かせる。鋭利な先端が彼女の脇腹にのめり込んだ。
「痛い」と真理は言った。
四肢を懸命に動かして男の手から逃れようとする。
男は真理の身体を地面に押し倒すと、曇りなき眼で彼女に問う。
「なぜお前は俺を殺そうとする?」
「お前が死ねば」真理の表情は苦痛に満ちている。舌を噛んだのか、真っ白の歯が朱色に染まり、血と唾液の交じった液体が泡状に口外に弾ける。
「貴様は消え失せ、叔母が私のために帰って来る」
「それがお前のやりたかったことか!」
男は吠えた。脇腹に深々と刺さった短剣を、引き戻して首筋に当てる。その行為に付随する果てしない痛みに真理は悶絶する。
「貴様は悪魔だ! なぜ叔母を殺した」
「悪魔はお前だ。浄化という名のゲームで人間をいたずらに殺し、次は自らの欲望のままに世界を改変しようとしている」
「黙れ! なぜ叔母を殺したのかを聞いている」
声を震わす真理の喉奥に血が混じり、うがいのような気味の悪い音が口元でこだまする。
男はその様を、全く怖気づく様子もなく捉えていた。
「お前をおびき寄せ、悪魔の系譜を絶つためだ。これ以上お前に聞くこともなければ、生かしておく理由もない。すべてを終わらせるんだ」
呪文のような抑揚のない言葉だった。真理はそれでようやく、男が迷いなくいられているわけが分かった。
男は狂気に囚われている。自分と同じだった。
短剣を放り投げた。男の手にあったのは縞馬の剣である。
「消えろ」
狂気が真理の喉元めがけて突き刺さる。何も生まない人生だった。
消滅の中で、最後の言葉すら形を成さない。
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