涙の出なくなった少女は、異世界から死者を呼び戻す少年と出会う

ベロシティ

文字の大きさ
13 / 13

消えた?

しおりを挟む
「木田さん」

蒸し蒸しとして暑い朝だった。下敷きで顔を仰いでいた詩音は席についてすぐ、隣のクラスの男子に名前を呼ばれた。顔には見覚えがあった。
雨村と仲がいい子だ。

「昨日雨村の様子がおかしかったんだけど、何かあったの?」

「え、さあ……」
詩音は昨日、雨村と話していなかった。

「何で私に聞くの?」

「だって、雨村と木田さんって……そういうことでしょ?」

男子はせわしなく手振りをして言葉を上ずらせた。

「違うよ」

「え、マジで?」心なしか嬉しそうだ。

「うん。それで雨村がどうしたって?」

「顔を蒼白にして、俺なんか死ぬしかないって。あいつがそんなこと言うのって結構珍しいから、喧嘩したのかなって」

「今日は学校に来てる?」
「いや、まだ来てない」

話は思いのほか深刻そうだった。

「分かった。教えてくれてありがとう」

一体なんだろう。増田さんの身にもしもがあったのだろうか。とにかくまず由羅ちゃんに話を聞こう。
結局その日は、雨村は学校に姿を見せなかった。


 戸坂家のインターホンを鳴らすと、紺色のワンピースを着た由羅が現れた。

「あ、由羅ちゃん。それ着てくれてるんだ。似合ってる」

「ありがとう!」
ふわふわの髪の毛を触りながら由羅が言う。

「また由羅と一緒に買い物行こうね」

「うん、でもその服、今日はちょっと暑くない?」

今日はいよいよ夏の本番ともいえる気温になっていた。

「全然平気! 可愛いもん」

由羅は全く気にならないようだった。

「ああ、それなら良かった」

苦笑いする詩音に、由羅はぐっと詰め寄ってきた。

「それと前の美容室にも一緒に行こうね」

「うん、そうだね」

「約束だね? 絶対だよ?」
指先を強く握られる。

重い、と詩音は思った。

「それより由羅ちゃん」
やんわりと手をほどいて詩音は聞く。

「雨村のこと見てない?」

すると由羅は眉をひそめた。

「ついさっき、家に来た。それでなんか意味わかんないこと言って帰っていった」

「なんて言ってたの?」

「由羅が詩音とね、一緒に服買いに行って高級な美容室行ったって聖に話したら、『戸坂は愛咲と仲良くしているんだな。俺がどこか別の世界に行っても元気にするんだぞ』って」

「それ別れの挨拶?」

「そー。また頭おかしくなっちゃったみたい。由羅が厨二かって言ったら『中二だ。いい人生だった』って。ねえ詩音、あいつのこと殴ってきていいよ」

呆れた様子で由羅は言う。詩音はそれを聞いて胸騒ぎを強くした。
由羅ちゃんは雨村が何に苦しみ、どんな葛藤を抱えているかを知らない。もしかしたら、本当に大変なことになっているのかもしれない。

「私、様子を見てくる」

詩音は由羅に手を振って走り出す。日差しは熱いが体は妙に冷たい。

「顔殴ってもいいよー」

のんびりした由羅の声が、ひどく遠いものに感じられる。


 雨村は家にはいなかった。
詩音は雨村がいるとすればどこだろうと考える。
やすらぎの橋、が心に浮かんだ。それはあまり考えたくない場所だった。けれど、もし彼がやすらぎの橋にいるならば、それこそ事態は急を要する。

詩音は自らの直感を信じ、橋に向かって駆け続ける。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

乙女ゲームの正統派ヒロインになりまして

いつき
恋愛
フルーレットが自分が乙女ゲームのヒロインだと気が付いた時は学園へ入学する当日、正門を眺めた時だった 「私、これ知ってるわ」

愛する義兄に憎まれています

ミカン♬
恋愛
自分と婚約予定の義兄が子爵令嬢の恋人を両親に紹介すると聞いたフィーナは、悲しくて辛くて、やがて心は闇に染まっていった。 義兄はフィーナと結婚して侯爵家を継ぐはずだった、なのにフィーナも両親も裏切って真実の愛を貫くと言う。 許せない!そんなフィーナがとった行動は愛する義兄に憎まれるものだった。 2023/12/27 ミモザと義兄の閑話を投稿しました。 ふわっと設定でサクっと終わります。 他サイトにも投稿。

強面夫の裏の顔は妻以外には見せられません!

ましろ
恋愛
「誰がこんなことをしろと言った?」 それは夫のいる騎士団へ差し入れを届けに行った私への彼からの冷たい言葉。 挙げ句の果てに、 「用が済んだなら早く帰れっ!」 と追い返されてしまいました。 そして夜、屋敷に戻って来た夫は─── ✻ゆるふわ設定です。 気を付けていますが、誤字脱字などがある為、あとからこっそり修正することがあります。

神様の手違いで、おまけの転生?!お詫びにチートと無口な騎士団長もらっちゃいました?!

カヨワイさつき
恋愛
最初は、日本人で受験の日に何かにぶつかり死亡。次は、何かの討伐中に、死亡。次に目覚めたら、見知らぬ聖女のそばに、ポツンとおまけの召喚?あまりにも、不細工な為にその場から追い出されてしまった。 前世の記憶はあるものの、どれをとっても短命、不幸な出来事ばかりだった。 全てはドジで少し変なナルシストの神様の手違いだっ。おまけの転生?お詫びにチートと無口で不器用な騎士団長もらっちゃいました。今度こそ、幸せになるかもしれません?!

冷遇妃ライフを満喫するはずが、皇帝陛下の溺愛ルートに捕まりました!?

由香
恋愛
冷遇妃として後宮の片隅で静かに暮らすはずだった翠鈴。 皇帝に呼ばれない日々は、むしろ自由で快適——そう思っていたのに。 ある夜、突然現れた皇帝に顎を掴まれ、深く口づけられる。 「誰が、お前を愛していないと言った」 守るための“冷遇”だったと明かされ、逃げ道を塞がれ、甘く囲われ、何度も唇を奪われて——。 これは冷遇妃のはずだった少女が、気づけば皇帝の唯一へと捕獲されてしまう甘く濃密な溺愛物語。

なんか、異世界行ったら愛重めの溺愛してくる奴らに囲われた

いに。
恋愛
"佐久良 麗" これが私の名前。 名前の"麗"(れい)は綺麗に真っ直ぐ育ちますようになんて思いでつけられた、、、らしい。 両親は他界 好きなものも特にない 将来の夢なんてない 好きな人なんてもっといない 本当になにも持っていない。 0(れい)な人間。 これを見越してつけたの?なんてそんなことは言わないがそれ程になにもない人生。 そんな人生だったはずだ。 「ここ、、どこ?」 瞬きをしただけ、ただそれだけで世界が変わってしまった。 _______________.... 「レイ、何をしている早くいくぞ」 「れーいちゃん!僕が抱っこしてあげよっか?」 「いや、れいちゃんは俺と手を繋ぐんだもんねー?」 「、、茶番か。あ、おいそこの段差気をつけろ」 えっと……? なんか気づいたら周り囲まれてるんですけどなにが起こったんだろう? ※ただ主人公が愛でられる物語です ※シリアスたまにあり ※周りめちゃ愛重い溺愛ルート確です ※ど素人作品です、温かい目で見てください どうぞよろしくお願いします。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処理中です...