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真矢の章
第四話
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僕にとって桜は盟友とも言える存在だった。小学校の頃から仲が良く、僕が巷では名門と言われる私立中学に入ってからもその仲が疎遠になることはなかった。
お分かりの通り僕は女を見る時はまず胸から入る。それから顔と尻を見て、最後に性格を見る。僕は自分がクソスケベ野郎であることは自覚しており、自らを痴漢予備軍と命名して恥じない。
しかしその点桜との関係は違った。桜は痩せ体型でおっぱいも小さく、顔もそれほど可愛いとは言えなかった。そんな彼女と仲がいいのは、性格の相性が非常に良かったこと、そして何よりも置かれていた境遇が似ていたことが大きい。境遇が似ているといっても、桜は僕よりも数倍深刻な状況にあった。桜の両親は離婚していてシングルマザーなのだが、母親が付き合っている男が家に遊びに来るたびに、桜はそいつにセクハラを受けるという。もちろん桜は母に相談はしていた。しかしその男が地元ではそれなりに大きい食料品店を経営している、この辺ではかなりの金持ちであることに加え、人前で表立った性的なことは一切しないので、母親は桜の相談にはいつも渋い顔をした。だから桜はそんな日常をぐっと堪えて、時々感情が溢れ出そうなときに僕と、二人の家の中間にある神社のふもとで、未来について語り合うのだ。
「私さ、家出しようと思ってるんだよね」
「まじかよ。俺らはまだ中1だぞ」
まだ時間は五時だが外は暗くなり気温も下がってきている。だが僕も桜も、なかなか家には帰ろうとしない。
「でも私一人で生きたいの。私は誰かの物じゃない。誰にも惑わされずに、誰にも邪魔されずに私だけの人生を生きたい」
夕暮れの街灯の下、恐ろしいほど強い桜の眼差しは今でも目に焼き付いている。僕はその眼光に少し怯む。
「その意思は本当に、まじで尊敬する。だけど冷静に考えて桜に何ができんだよ。まずどうやって生きていくつもりなんだよ」
実際のところ僕は彼女が現状を独力で打開して、自分から離れていくことが怖かった。
桜の目が一瞬光を失い、暗い表情になる。
「真矢はいいよね」
「何が」
桜が何を考えているのかわからない。
「真矢の3Dアート、絶対世に出せるよ。私にもそんな技術があればきっと1人で生きていけるのに」
桜は時々僕の絵を描く力を羨むことがある。僕はあまり人に見せることはないが、立体アートというものを大の得意にしていた。桜にだけは時々見せていたが、僕は2Dの紙に、恐ろしく鮮明な3Dの世界を描くことができる。
「俺は一人で生きていける気はしないけどな」
僕は自分が桜ほど強い人間でない事を自覚していた。
両親の仲の悪さに見ぬふりをして、四六時中女の胸ばかりを見つめているのが自分なのだ。
「真矢は早くいい人を見つけた方がいいよ。誰か守る人ができたら、その人のために何か出来るようになったら、真矢は超強くなるよ」
桜は僕が女にべらぼうに弱い事をよく知っていた。僕の性格をよく知った上で、桜はその原因を愛情不足によるものと指摘する。
彼女曰く、自分も人にとんでもなく甘えたくなる瞬間があるのだという。もっとも僕はそんな桜を見たことがないが。
「いい人ねぇ。果たして俺ほどの男に見合う女がこの世に存在するものだろうか」
わざとらしくため息をつく。
「ほんとはその真逆のこと思ってるんでしょ、ホント無駄に強がりなんだから」
どうやら桜に誤魔化しは通用しないようだ。
僕はぐうの音も出ない。
「うえい」
だから僕はおっぱいを触った。
うっ……無言でみぞおちを殴られる。毎回殴られてるため耐性も付いてきているのだが、それに比例してパンチの威力も上がってきている。
「……なあ、最近部活はうまくいってるのか?」
腹を抑えた僕は重い話が続くのを避けるため、学校の話題へと話を逸らした。僕はまだ桜の家出の話が、ある程度冗談であると思っている節があった。
しかし中2の秋の終わりに、桜は本当に消えてしまった。
お分かりの通り僕は女を見る時はまず胸から入る。それから顔と尻を見て、最後に性格を見る。僕は自分がクソスケベ野郎であることは自覚しており、自らを痴漢予備軍と命名して恥じない。
しかしその点桜との関係は違った。桜は痩せ体型でおっぱいも小さく、顔もそれほど可愛いとは言えなかった。そんな彼女と仲がいいのは、性格の相性が非常に良かったこと、そして何よりも置かれていた境遇が似ていたことが大きい。境遇が似ているといっても、桜は僕よりも数倍深刻な状況にあった。桜の両親は離婚していてシングルマザーなのだが、母親が付き合っている男が家に遊びに来るたびに、桜はそいつにセクハラを受けるという。もちろん桜は母に相談はしていた。しかしその男が地元ではそれなりに大きい食料品店を経営している、この辺ではかなりの金持ちであることに加え、人前で表立った性的なことは一切しないので、母親は桜の相談にはいつも渋い顔をした。だから桜はそんな日常をぐっと堪えて、時々感情が溢れ出そうなときに僕と、二人の家の中間にある神社のふもとで、未来について語り合うのだ。
「私さ、家出しようと思ってるんだよね」
「まじかよ。俺らはまだ中1だぞ」
まだ時間は五時だが外は暗くなり気温も下がってきている。だが僕も桜も、なかなか家には帰ろうとしない。
「でも私一人で生きたいの。私は誰かの物じゃない。誰にも惑わされずに、誰にも邪魔されずに私だけの人生を生きたい」
夕暮れの街灯の下、恐ろしいほど強い桜の眼差しは今でも目に焼き付いている。僕はその眼光に少し怯む。
「その意思は本当に、まじで尊敬する。だけど冷静に考えて桜に何ができんだよ。まずどうやって生きていくつもりなんだよ」
実際のところ僕は彼女が現状を独力で打開して、自分から離れていくことが怖かった。
桜の目が一瞬光を失い、暗い表情になる。
「真矢はいいよね」
「何が」
桜が何を考えているのかわからない。
「真矢の3Dアート、絶対世に出せるよ。私にもそんな技術があればきっと1人で生きていけるのに」
桜は時々僕の絵を描く力を羨むことがある。僕はあまり人に見せることはないが、立体アートというものを大の得意にしていた。桜にだけは時々見せていたが、僕は2Dの紙に、恐ろしく鮮明な3Dの世界を描くことができる。
「俺は一人で生きていける気はしないけどな」
僕は自分が桜ほど強い人間でない事を自覚していた。
両親の仲の悪さに見ぬふりをして、四六時中女の胸ばかりを見つめているのが自分なのだ。
「真矢は早くいい人を見つけた方がいいよ。誰か守る人ができたら、その人のために何か出来るようになったら、真矢は超強くなるよ」
桜は僕が女にべらぼうに弱い事をよく知っていた。僕の性格をよく知った上で、桜はその原因を愛情不足によるものと指摘する。
彼女曰く、自分も人にとんでもなく甘えたくなる瞬間があるのだという。もっとも僕はそんな桜を見たことがないが。
「いい人ねぇ。果たして俺ほどの男に見合う女がこの世に存在するものだろうか」
わざとらしくため息をつく。
「ほんとはその真逆のこと思ってるんでしょ、ホント無駄に強がりなんだから」
どうやら桜に誤魔化しは通用しないようだ。
僕はぐうの音も出ない。
「うえい」
だから僕はおっぱいを触った。
うっ……無言でみぞおちを殴られる。毎回殴られてるため耐性も付いてきているのだが、それに比例してパンチの威力も上がってきている。
「……なあ、最近部活はうまくいってるのか?」
腹を抑えた僕は重い話が続くのを避けるため、学校の話題へと話を逸らした。僕はまだ桜の家出の話が、ある程度冗談であると思っている節があった。
しかし中2の秋の終わりに、桜は本当に消えてしまった。
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