世界平和を君に乞う

ベロシティ

文字の大きさ
3 / 21
真矢の章

第三話

しおりを挟む
「ごめんね、そんなに驚かないで」
完全に凍りついた僕を見て彼女は申し訳なさそうに言った。
「いや、もう意味わからなさすぎて」
そのままの正直な感想。なんだよこれ、ハニートラップどころの騒ぎじゃない。彼女は一体何者なんだ。僕はハンカチを取り出して、まさかこの時期に出るとは思わなかった冷や汗をふく。
「私ね、1年前くらいからアキナリさんに養ってもらってるの。全然悪い人じゃないから大丈夫。だけど、私あと少しでアッキーの家を出ないといけないの。私もう幼女じゃないからアキナリさん興味を失っちゃったの」
彼女は訳がわからないことをさらりという。もちろん内容も飛躍しすぎだが、僕としては別の所に引っかかっていた。
「う、嘘だろ。もったいなさすぎるそれは!」
自分で言うものでもないが、僕は少し変なのかもしれない。
驚いた理由を解説しよう。
前提として僕は圧倒的巨乳派である。それは確認するまでもないことだ。だが同時に僕は貧乳の尊さというのも充分に理解しているつもりだった。おっぱいがおっぱいである限り、たとえサイズが変わろうとその存在価値は等しく、多種多用なおっぱいがあるからこそ、あらゆるおっぱいに個性と華がある。誰一人として同じ流線形を持つ者はおらず、おっぱいの芸術の幅は、国境を越えて無尽蔵に広がっている。つまりおっぱいがおっぱいであることにおっぱいが持つおっぱいとしての役割があり、普遍おっぱい的おっぱい観念は何を持ってしても崩されるものでない確かな自明の理であるはずだ。しかしながらこのアキナリというロリコンの男は、女をロリかロリではないかという2つの領域でのみ分類しているようだった。この美少女、たしかに歳だけで言えば僕と同じくらいの年頃のようでそろそろロリとは言えなくなる年齢であるが、おっぱいの方はそれほどの発達が見られず、一般的にはロリとして充分通用するだろう。だがアキナリはおっぱいを以てしても彼女のロリ性を認めない。彼は僕の理解の範疇を超えたロリ観念を持つ、究極のロリータコンプレックスなのかもしれない。
僕はアキナリという男を勝手に妄想してその心理を探求する。
「ちょっと、もったいないって何よ、てか今何考えてんの?話聞いてた?何なのよ、その反応は」
しばらく話そっちのけで、気色悪い妄想にふけっていた僕に、彼女は少し怒ったような顔をした。しかし心底腹を立てているようには見えない。それに気を良くして『なんだよ、君が可愛いんだから当然の反応だろ』と歯が浮くような事を言いかけ、やっと僕は突っ込むべきところが確かにそこじゃなかったことに気づいた。
「ごめんなさい。あなたとアキナリさんはどういう間柄なんですか?そして僕はそれにどう関係しているんですか?」
急に真顔を取り繕う。彼女はそんな僕の豹変ぶりに笑った。彼女は意外にゲラなのかもしれない。可愛い。
「アキナリさんは私となんの関係でもないよ。アッキー……あ、アキナリさんとは性関係も無いし暴力を振るわれたりもしてない。ちょっと関係性は違うけどまあ親みたいなもんだと思ってくれたらいいよ。全然誘拐とかじゃないから。とある事情で知り合ったんだけどね。あ、そのことは後で言う。そんなことより君にね、頼みたいことがあります」
彼女はあちこち話が飛ぶ癖があるようだ。僕は、暑さで肌がべたべたしてきたので、万引き用のでかい上着を脱ごうとする。一方彼女はなぜだか居住まいを正していた。それから予想だにしない言葉を発し、ベンチに額が付くほど深々と頭を下げる。
「真矢くんに私の彼氏になって欲しいです」
勢いよく降ろした上着のチャックが、思いっきりシャツに噛んだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

嘘をつく唇に優しいキスを

松本ユミ
恋愛
いつだって私は本音を隠して嘘をつくーーー。 桜井麻里奈は優しい同期の新庄湊に恋をした。 だけど、湊には学生時代から付き合っている彼女がいることを知りショックを受ける。 麻里奈はこの恋心が叶わないなら自分の気持ちに嘘をつくからせめて同期として隣で笑い合うことだけは許してほしいと密かに思っていた。 そんなある日、湊が『結婚する』という話を聞いてしまい……。

俺と結婚してくれ〜若き御曹司の真実の愛

ラヴ KAZU
恋愛
村藤潤一郎 潤一郎は村藤コーポレーションの社長を就任したばかりの二十五歳。 大学卒業後、海外に留学した。 過去の恋愛にトラウマを抱えていた。 そんな時、気になる女性社員と巡り会う。 八神あやか 村藤コーポレーション社員の四十歳。 過去の恋愛にトラウマを抱えて、男性の言葉を信じられない。 恋人に騙されて借金を払う生活を送っていた。 そんな時、バッグを取られ、怪我をして潤一郎のマンションでお世話になる羽目に...... 八神あやかは元恋人に騙されて借金を払う生活を送っていた。そんな矢先あやかの勤める村藤コーポレーション社長村藤潤一郎と巡り会う。ある日あやかはバッグを取られ、怪我をする。あやかを放っておけない潤一郎は自分のマンションへ誘った。あやかは優しい潤一郎に惹かれて行くが、会社が倒産の危機にあり、合併先のお嬢さんと婚約すると知る。潤一郎はあやかへの愛を貫こうとするが、あやかは潤一郎の前から姿を消すのであった。

冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない

彩空百々花
恋愛
誰もが恐れ、羨み、その瞳に映ることだけを渇望するほどに高貴で気高い、今世紀最強の見目麗しき完璧な神様。 酔いしれるほどに麗しく美しい女たちの愛に溺れ続けていた神様は、ある日突然。 「今日からこの女がおれの最愛のひと、ね」 そんなことを、言い出した。

10年引きこもりの私が外に出たら、御曹司の妻になりました

専業プウタ
恋愛
25歳の桜田未来は中学生から10年以上引きこもりだったが、2人暮らしの母親の死により外に出なくてはならなくなる。城ヶ崎冬馬は女遊びの激しい大手アパレルブランドの副社長。彼をストーカーから身を張って助けた事で未来は一時的に記憶喪失に陥る。冬馬はちょっとした興味から、未来は自分の恋人だったと偽る。冬馬は未来の純粋さと直向きさに惹かれていき、嘘が明らかになる日を恐れながらも未来の為に自分を変えていく。そして、未来は恐れもなくし、愛する人の胸に飛び込み夢を叶える扉を自ら開くのだった。

忙しい男

菅井群青
恋愛
付き合っていた彼氏に別れを告げた。忙しいという彼を信じていたけれど、私から別れを告げる前に……きっと私は半分捨てられていたんだ。 「私のことなんてもうなんとも思ってないくせに」 「お前は一体俺の何を見て言ってる──お前は、俺を知らな過ぎる」 すれ違う想いはどうしてこうも上手くいかないのか。いつだって思うことはただ一つ、愛おしいという気持ちだ。 ※ハッピーエンドです かなりやきもきさせてしまうと思います。 どうか温かい目でみてやってくださいね。 ※本編完結しました(2019/07/15) スピンオフ &番外編 【泣く背中】 菊田夫妻のストーリーを追加しました(2019/08/19) 改稿 (2020/01/01) 本編のみカクヨムさんでも公開しました。

処理中です...