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真矢の章
第六話
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「アッキーって、そこそんな気になるの?」
彼女はうるんだ瞳を拭い、苦笑した。
「他にもっと聞くこといっぱいあったでしょ」
「いや他のところに突っ込んだらなんか、色々壊れそうな気がして」
只のガキを騙すためだけにこんな手の込んだハニートラップがあるはずもなく、これまでのこと全部を真剣に考えたら目眩がしそうだ。
「じゃあなんて呼んで欲しいの?」
「うーん、真矢♡みたいな」
「は?」
こいつ頭おかしいんか、という顔をされる。一瞬、世界が静止したような気がした。
「すみませんでしたっ」
秒で謝罪。調子に乗ると大抵ろくなことがない。ただこういう態度が、彼女が僕を騙すためにやっているのでないと感じられる。
「ま、いいや」
許してくれたのかどうか声色からはわからない。
「とりあえず家来てよ」
彼女はベンチから腰を上げ、デニムの汚れをパンパンと払う。それを見て慌てて僕も立ち上がる。そろそろお尻も熱くなってきたところだ。
しかし彼女はすぐには動き出さなかった。気をつけの姿勢で遠くあさっての方向を向いている。
「どうしたの?」
彼女は固まったままだ。そのまま僕の方を見ずに話しかけてきた。
「真矢くんはどうして万引きをするの?」
突然の話題転換にとまどう。
「ああ、えっとそれはですね、……」
僕は無駄なジェスチャーを付けつつ、自分流万引き論を展開した。
「……と、いうわけなんですよ」
「嘘」「え?」
間髪入れずに否定されて戸惑う。
「万引きの理由がそんなに捻くれてる訳ないじゃん、本当のこと教えて」
「いや、それはもちろんお金が無いっていうのが一番の理……」
その瞬間、彼女は目にも留まらぬスピードで僕の上着の懐に腕を伸ばした。
「あっ」かわす暇も無かった。
彼女の白い腕が素早く僕の懐から逃げて行く。
「ほらね」
彼女は険しい表情で手に掴んだものを見つめている。
そこに、10万円を超える現金が握られていた。
あらゆる物が雑多に並べられた狭い店内の中で、店のオーナーが真剣にデッサンを見つめている。
「これ、本当に君が描いたの?」
「はい、そうですけど」
僕は戸惑いながら頷いた。
「へぇ、君凄いね」
店主は感心したように僕の顔をまじまじと見つめる。それが少し照れ臭くてなんとなく店主から顔を背けた。
この日、僕は「なんでも買取屋」と称する店に来ていた。少しでも生活の足しにするために、家から持ってきた3Dアートを売りさばく為であった。その店内は電化製品や、よく分からない雑誌で満ち溢れている。換気扇が耳障りな音を立てる中、店主はウンウンともっともらしく頷く。
「これなら五千円で買い取りますよ」
「え、本当ですか!?」
僕は心底びっくりした。桜はよく褒めてくれるが、やはり描き始めのころ親に3Dアートを見せて「こんなの描いてる暇あったら勉強しろ」と貶された経験がある為、自分自身での絵の評価はあまり高くなかった。
3Dアートが高く売れたとことは、価値観が180度変わる嬉しい衝撃であった。
「だって凄いじゃないの、この鳥。どう見たって紙の外に飛び出てるもん。これ売れたら次はもっと高い値段で買い取ってあげるよ」
店主は本気で感心している様子である。
「じゃ、じゃあこれもどうですか!」
興奮した僕は今日は売る気のなかった、とっておきの絵を店主に見せた。それは豊満な女性の裸体を描いたものである。
「はー」店主は感嘆の息を漏らすと、騒がしい換気扇には気も留めず、紙を近づけたり離したり、僕の絵を集中して眺めている。
一通り見終わった店主はそっと絵を置くと、大きく僕のほうに身を乗り出した。
「君、ほんとに凄いね!これはどっかでモデル雇って描いたの?」
「童貞です」「聞いてないわ」
素早いツッコミだった。その通りである。
彼女はうるんだ瞳を拭い、苦笑した。
「他にもっと聞くこといっぱいあったでしょ」
「いや他のところに突っ込んだらなんか、色々壊れそうな気がして」
只のガキを騙すためだけにこんな手の込んだハニートラップがあるはずもなく、これまでのこと全部を真剣に考えたら目眩がしそうだ。
「じゃあなんて呼んで欲しいの?」
「うーん、真矢♡みたいな」
「は?」
こいつ頭おかしいんか、という顔をされる。一瞬、世界が静止したような気がした。
「すみませんでしたっ」
秒で謝罪。調子に乗ると大抵ろくなことがない。ただこういう態度が、彼女が僕を騙すためにやっているのでないと感じられる。
「ま、いいや」
許してくれたのかどうか声色からはわからない。
「とりあえず家来てよ」
彼女はベンチから腰を上げ、デニムの汚れをパンパンと払う。それを見て慌てて僕も立ち上がる。そろそろお尻も熱くなってきたところだ。
しかし彼女はすぐには動き出さなかった。気をつけの姿勢で遠くあさっての方向を向いている。
「どうしたの?」
彼女は固まったままだ。そのまま僕の方を見ずに話しかけてきた。
「真矢くんはどうして万引きをするの?」
突然の話題転換にとまどう。
「ああ、えっとそれはですね、……」
僕は無駄なジェスチャーを付けつつ、自分流万引き論を展開した。
「……と、いうわけなんですよ」
「嘘」「え?」
間髪入れずに否定されて戸惑う。
「万引きの理由がそんなに捻くれてる訳ないじゃん、本当のこと教えて」
「いや、それはもちろんお金が無いっていうのが一番の理……」
その瞬間、彼女は目にも留まらぬスピードで僕の上着の懐に腕を伸ばした。
「あっ」かわす暇も無かった。
彼女の白い腕が素早く僕の懐から逃げて行く。
「ほらね」
彼女は険しい表情で手に掴んだものを見つめている。
そこに、10万円を超える現金が握られていた。
あらゆる物が雑多に並べられた狭い店内の中で、店のオーナーが真剣にデッサンを見つめている。
「これ、本当に君が描いたの?」
「はい、そうですけど」
僕は戸惑いながら頷いた。
「へぇ、君凄いね」
店主は感心したように僕の顔をまじまじと見つめる。それが少し照れ臭くてなんとなく店主から顔を背けた。
この日、僕は「なんでも買取屋」と称する店に来ていた。少しでも生活の足しにするために、家から持ってきた3Dアートを売りさばく為であった。その店内は電化製品や、よく分からない雑誌で満ち溢れている。換気扇が耳障りな音を立てる中、店主はウンウンともっともらしく頷く。
「これなら五千円で買い取りますよ」
「え、本当ですか!?」
僕は心底びっくりした。桜はよく褒めてくれるが、やはり描き始めのころ親に3Dアートを見せて「こんなの描いてる暇あったら勉強しろ」と貶された経験がある為、自分自身での絵の評価はあまり高くなかった。
3Dアートが高く売れたとことは、価値観が180度変わる嬉しい衝撃であった。
「だって凄いじゃないの、この鳥。どう見たって紙の外に飛び出てるもん。これ売れたら次はもっと高い値段で買い取ってあげるよ」
店主は本気で感心している様子である。
「じゃ、じゃあこれもどうですか!」
興奮した僕は今日は売る気のなかった、とっておきの絵を店主に見せた。それは豊満な女性の裸体を描いたものである。
「はー」店主は感嘆の息を漏らすと、騒がしい換気扇には気も留めず、紙を近づけたり離したり、僕の絵を集中して眺めている。
一通り見終わった店主はそっと絵を置くと、大きく僕のほうに身を乗り出した。
「君、ほんとに凄いね!これはどっかでモデル雇って描いたの?」
「童貞です」「聞いてないわ」
素早いツッコミだった。その通りである。
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