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世界平和の章
第十六話
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整形手術がしたい。桜がそんなことを言い出した時は驚いた。アキナリと共に暮らすようになってから桜は徐々に落ち着きを取り戻し、ふとした時に笑顔を見せることも増えた。元気が出てきたと安心していたので、まさか桜がそんな願望を持っているだなんて思いもしなかった。
アキナリは今桜と一緒に居られるだけで、尊さにイってしまいそうなくらい満足を覚えている。
だから特に必要のない桜の整形願望には反対した。
「桜ちゃんは今でも十分可愛いと思うぜ。もっと自分に自信を持とうよ」
「どうもありがとう。だけど私は自分を変えたいんです。外見が変わればすべてが変わる訳じゃないことは分かってるけど、変えれるところはどんどん変えていきたい」
「うーん」アキナリは判断に迷った。
実はこう見えてアキナリは高学歴なのだ。アキナリが現在こうしてニートをしていられるのも大学院生時代に株で大もうけしたからである。そのためアキナリの数少ない友人は優秀な奴ぞろいで、腕のいい整形外科の友達もいることにはいた。しかし桜に整形外科を紹介することは果たして正しい行いなのだろうか。
悩ましい所はたくさんあったが、最終的にアキナリは桜に整形外科に連れて行ってやることに決めた。やはり彼女の人生は彼女の好きなようにさせてやりたかった。
お金はある程度援助してやるつもりでいたが、桜は自分の貯金で払うと言って聞かなかったので、アキナリもそれに従うことにした。
それから整形外科の友達に桜が未成年であることを含めて相談する。ありがたいことに友達の懇意で、16歳未満にもかかわらず高価な施術を割安で受けされてもらえることになった。社会の規律にルーズな辺り、アキナリと仲がいい所以である。
施術が終わった後、桜と対面したアキナリは目を丸くした。元々の顔のパーツがよかったのだろう。目元と口元をいじっただけで、桜は驚くほど美少女に生まれ変わっていた。これほど激変するのであれば自分もイケメンにしてもらおうと思い友達に尋ねてみた所、「彼女は正直ものすごく稀有な例だよ。うちの広告に使いたいくらい。秋成はおとなしく止めといた方がいいよ」と苦笑いされた。
お金こそ無くなったものの、桜はそれから一回りも二回りも元気になった。アキナリもその様子を見て、整形手術をやらせてあげてよかったと安堵する。ついでに言えばアキナリの眼の保養効果も数ランク上昇した。つまりはいいことずくめだったということだ。
ところがつい最近また桜の様子がおかしくなった。アキナリはだんだん桜の変化を敏感に理解できるようになっていたので、彼女に相談される前に直接尋ねてみた。
「桜ちゃん、今なんか困ってることあるでしょ」
桜は目を丸くした。
「すごい。よく分かったね」
「まあなんだかんだ半年の付き合いだからね」
アキナリは鼻高々とそう答えたが、単純に半年前に比べて桜の表情が豊かになってきていることが大きかった。
「実は2週間前、小学生のころすごく仲が良かった男友達をみかけたんだけどさ、その人がスーパーで万引きしてたの。しかも私、同じスーパーでその現場を2回も見ちゃったの。ほっとけばいいのかもしれないけど、たぶん私その人のことが…………好き」
「何だって」
予想外の悩みにアキナリは当惑する。
「そ、それは、結局桜ちゃんはどうしたいの?」
「万引きをするような人だとは思ってなかったんだけど、もし万引きが習慣になってるならちゃんと注意したい」
心配そうな桜の顔を眺めて、アキナリはつくづくいい子だなあ、と思わされる。同時に彼女にここまで心配される男の子に少し嫉妬を覚えた。
「分かった。俺が少し調べてくる。場合によっちゃ桜に代わって注意してきてあげるよ。どんな子か教えて」
「えーっと……。紙とペン持ってない?」
アキナリが言われた通り紙とペンを持ってくると、桜はかなりの速さでペンを走らせ始めた。
出来上がったのは男の子の肖像画だった。その余りのクオリティーの高さにアキナリは目を見張る。
「すごいな、よくこんなに覚えてるな。ていうか桜ちゃんめちゃくちゃ絵うまいんだね」
「うん、その男友達に結構教えてもらってたから」
「ふーん」
アキナリは彼女の何気ない言葉に自分の機嫌が悪くなるのを感じた。駄目だ、どうも自分は桜の事が好きすぎるみたいだ。
ともかく次の日アキナリは、桜が幼なじみを見かけたというスーパーで張り込みを開始した。実のところそう簡単に見つけることができるとは思っておらず、アキナリの気は抜けていた。
ところが、張り込みからなんと1時間もしないうちに、桜の絵と同一人物と思われる少年が現れたのだ。
アキナリは慌てて彼の後を追う。少年はもう7月だというのに大きなジャンパーを羽織っていて明らかに怪しい。
鮮魚のコーナーで男の子の足が止まった。彼はウナギのパックを2つ手に取ると、それを買い物かごに入れるか悩む素振りをし、最終的には売り場に戻した。いや、違う。ウナギのパックが1つ消えている。どうなっているんだ、いつの間に。
少年はスーパーの高級品を手に取っては、それらを次々と魔法のように懐へしまった。彼の挙動を注意深く観察しているはずのアキナリでさえ、その瞬間を見定めることができないレベルの神業だった。これは絶対に常習犯だ。アキナリは確信する。
だがこれだけでは終わらなかった。少年はレジに向かい、カゴに入れた商品の支払いをした。その時、彼は硬貨を一枚落とす。
「あ、すみません」「いいですよ」店員さんが硬貨を拾おうと屈んだ刹那、少年は目にもとまらぬ速さでレジの紙幣を抜き去った。その動作があまりに華麗で、何の紙幣を何枚盗み取ったのかはまるで分からなかった。だが窃盗したことは恐らく間違いない。
これは酷い。いくら何でもこんなクズが桜の彼氏になることなんて絶対に許せない。アキナリはついに我慢することができずに、少年にずかずかと歩み寄った。そして今にも声をかけようとしたその時、ふとある疑問が頭に浮かんだ。
〝どうして彼はこの店でばかり万引きをするのだろう〟
アキナリが見た所、この少年の窃盗の技量は極めて高い。こんな小さなスーパーなんかで万引きを繰り返すよりもっと効率のいい場所がたくさんあるはずだ。それにもっと大きなスーパーも近くにあった。もしかすると……
アキナリは少年に声をかけるのを止め、すぐさま家に帰りインターネットを開いた。
アキナリは今桜と一緒に居られるだけで、尊さにイってしまいそうなくらい満足を覚えている。
だから特に必要のない桜の整形願望には反対した。
「桜ちゃんは今でも十分可愛いと思うぜ。もっと自分に自信を持とうよ」
「どうもありがとう。だけど私は自分を変えたいんです。外見が変わればすべてが変わる訳じゃないことは分かってるけど、変えれるところはどんどん変えていきたい」
「うーん」アキナリは判断に迷った。
実はこう見えてアキナリは高学歴なのだ。アキナリが現在こうしてニートをしていられるのも大学院生時代に株で大もうけしたからである。そのためアキナリの数少ない友人は優秀な奴ぞろいで、腕のいい整形外科の友達もいることにはいた。しかし桜に整形外科を紹介することは果たして正しい行いなのだろうか。
悩ましい所はたくさんあったが、最終的にアキナリは桜に整形外科に連れて行ってやることに決めた。やはり彼女の人生は彼女の好きなようにさせてやりたかった。
お金はある程度援助してやるつもりでいたが、桜は自分の貯金で払うと言って聞かなかったので、アキナリもそれに従うことにした。
それから整形外科の友達に桜が未成年であることを含めて相談する。ありがたいことに友達の懇意で、16歳未満にもかかわらず高価な施術を割安で受けされてもらえることになった。社会の規律にルーズな辺り、アキナリと仲がいい所以である。
施術が終わった後、桜と対面したアキナリは目を丸くした。元々の顔のパーツがよかったのだろう。目元と口元をいじっただけで、桜は驚くほど美少女に生まれ変わっていた。これほど激変するのであれば自分もイケメンにしてもらおうと思い友達に尋ねてみた所、「彼女は正直ものすごく稀有な例だよ。うちの広告に使いたいくらい。秋成はおとなしく止めといた方がいいよ」と苦笑いされた。
お金こそ無くなったものの、桜はそれから一回りも二回りも元気になった。アキナリもその様子を見て、整形手術をやらせてあげてよかったと安堵する。ついでに言えばアキナリの眼の保養効果も数ランク上昇した。つまりはいいことずくめだったということだ。
ところがつい最近また桜の様子がおかしくなった。アキナリはだんだん桜の変化を敏感に理解できるようになっていたので、彼女に相談される前に直接尋ねてみた。
「桜ちゃん、今なんか困ってることあるでしょ」
桜は目を丸くした。
「すごい。よく分かったね」
「まあなんだかんだ半年の付き合いだからね」
アキナリは鼻高々とそう答えたが、単純に半年前に比べて桜の表情が豊かになってきていることが大きかった。
「実は2週間前、小学生のころすごく仲が良かった男友達をみかけたんだけどさ、その人がスーパーで万引きしてたの。しかも私、同じスーパーでその現場を2回も見ちゃったの。ほっとけばいいのかもしれないけど、たぶん私その人のことが…………好き」
「何だって」
予想外の悩みにアキナリは当惑する。
「そ、それは、結局桜ちゃんはどうしたいの?」
「万引きをするような人だとは思ってなかったんだけど、もし万引きが習慣になってるならちゃんと注意したい」
心配そうな桜の顔を眺めて、アキナリはつくづくいい子だなあ、と思わされる。同時に彼女にここまで心配される男の子に少し嫉妬を覚えた。
「分かった。俺が少し調べてくる。場合によっちゃ桜に代わって注意してきてあげるよ。どんな子か教えて」
「えーっと……。紙とペン持ってない?」
アキナリが言われた通り紙とペンを持ってくると、桜はかなりの速さでペンを走らせ始めた。
出来上がったのは男の子の肖像画だった。その余りのクオリティーの高さにアキナリは目を見張る。
「すごいな、よくこんなに覚えてるな。ていうか桜ちゃんめちゃくちゃ絵うまいんだね」
「うん、その男友達に結構教えてもらってたから」
「ふーん」
アキナリは彼女の何気ない言葉に自分の機嫌が悪くなるのを感じた。駄目だ、どうも自分は桜の事が好きすぎるみたいだ。
ともかく次の日アキナリは、桜が幼なじみを見かけたというスーパーで張り込みを開始した。実のところそう簡単に見つけることができるとは思っておらず、アキナリの気は抜けていた。
ところが、張り込みからなんと1時間もしないうちに、桜の絵と同一人物と思われる少年が現れたのだ。
アキナリは慌てて彼の後を追う。少年はもう7月だというのに大きなジャンパーを羽織っていて明らかに怪しい。
鮮魚のコーナーで男の子の足が止まった。彼はウナギのパックを2つ手に取ると、それを買い物かごに入れるか悩む素振りをし、最終的には売り場に戻した。いや、違う。ウナギのパックが1つ消えている。どうなっているんだ、いつの間に。
少年はスーパーの高級品を手に取っては、それらを次々と魔法のように懐へしまった。彼の挙動を注意深く観察しているはずのアキナリでさえ、その瞬間を見定めることができないレベルの神業だった。これは絶対に常習犯だ。アキナリは確信する。
だがこれだけでは終わらなかった。少年はレジに向かい、カゴに入れた商品の支払いをした。その時、彼は硬貨を一枚落とす。
「あ、すみません」「いいですよ」店員さんが硬貨を拾おうと屈んだ刹那、少年は目にもとまらぬ速さでレジの紙幣を抜き去った。その動作があまりに華麗で、何の紙幣を何枚盗み取ったのかはまるで分からなかった。だが窃盗したことは恐らく間違いない。
これは酷い。いくら何でもこんなクズが桜の彼氏になることなんて絶対に許せない。アキナリはついに我慢することができずに、少年にずかずかと歩み寄った。そして今にも声をかけようとしたその時、ふとある疑問が頭に浮かんだ。
〝どうして彼はこの店でばかり万引きをするのだろう〟
アキナリが見た所、この少年の窃盗の技量は極めて高い。こんな小さなスーパーなんかで万引きを繰り返すよりもっと効率のいい場所がたくさんあるはずだ。それにもっと大きなスーパーも近くにあった。もしかすると……
アキナリは少年に声をかけるのを止め、すぐさま家に帰りインターネットを開いた。
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