世界平和を君に乞う

ベロシティ

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エピローグ

杉浦美里

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 「真矢くん、久しぶり!」
繁華街の隅で居心地が悪そうに佇んでいた真矢君に、あたしは笑顔で声をかける。
「おふっ、美里さん!」こちらに気づいた真矢君がこちらを見て目を泳がす。ヒップ、脚、そして胸へと。
この日あたしは真矢君のため自信のあるギンガムチェックのオフショルを着てきていた。彼が予想通りの反応をしてくれたので満満々足だ。けれど今日真矢君に来てもらったのはデートの為ではない。あたしはすぐに真剣な顔に切り替える。
「来てくれてありがとうね。ずっと謝りたかったの。この前は真矢君の電話に酷いこと言ってごめんなさい」
ずっと気にしてしたことだった。
「こちらこそすみません。この度は心からお悔やみ申し上げます」
真矢君は、柄にもない真面目な挨拶を返してきた。
あたしは無理に笑顔を作る。
「大丈夫だよ、真矢君。私はもう元気だから」
「美樹ちゃんには本当にお世話になりました」
そう言う真矢君の眼は、谷間にショルダーバックの掛かったあたしの胸にロックオンしていた。
「僕は美樹ちゃんと一緒に動物園に行ったことがあってその時のことは忘れられません。僕は本当に馬鹿な奴だったけど美樹ちゃんは本当に優しい子で……」
真矢君が必死に話していることは分かっていた。しかしダメだ。あたしはどうにも堪えられない。
「フフッ」話の途中で吹き出してしまった。
「えっ」真矢君はびっくりしたように話を止めたが、あたしはそれでも身を捩り続けていた。
「だって美樹がね、真矢君とデート行ったら、喋ってる時も私の胸ばかりガン見してるって文句言ってたの。今真矢君の視線を観察してみたらホントにその通りなんだもん」
最近美樹の日記を見つけて、妹が真矢君のことを相当気に入っていたことを知った。当時は冗談だと思っていたが、美樹があたしに「真矢君はもしかしたら私じゃなくて、私の胸のことが好きなのかもしれないわ」と真顔で語っていたのは、彼女の本気の悩みだったのかもしれない。そう思うと美樹は本当に可愛らしい妹だ。
ふと真矢君の方を見ると、こんな事を指摘されてさぞ恥ずかしがっていると思いきや、何もない所をみつめてなぜかニタニタした顔を浮かべていた。
「いま全然関係ないこと考えてたでしょ?」
彼は気づいてないかもしれないけど、真矢君が変態なことを考えている時はすぐに分かる。 
「え、いや、そんな」
空想の世界から戻ってきた真矢君は、分かりやすく顔を赤くした。こうなれば自分から正解発表をしてくれたようなものだ。
「真矢君ね、たぶん自分が思ってるより顔に出てるよ」
真矢君は決まりが悪そうに体を揺らしている。その様子はなんとも滑稽で、もっと苛めたくなったがさすがに可哀想だと思い直す。
「だけど真矢君と話してたら元気になれるわ。大好きよ」
計算されたウインクはあたしからのサービスだ。
「そ、そんなあ」
真矢君はデレていることを隠そうともしない。
あたしが彼の様子をニヤニヤと眺めていると、側にあったカレー屋からいい匂いが漂ってきた。時計を見ればもうすぐ13時だ。
「さ、お腹すいたしランチ食べに行こ」
真矢君に声をかけて歩きだそうとする。
「美里さん、ちょっと待ってください」
そこを真矢君が呼び止めた。心なしか急にその声が緊張している気がした。
「これ」
彼がカバンから取り出したのは1枚のキャンバスだった。描かれているのは二人の人物の似顔絵。一人はあたしともう一人は……もう一人は、今すぐにでもあたしに明るく喋りかけてきそうな美樹だった。あたしが大好きな美樹の仕草、表情。鮮やかに切り取られた1枚の思い出が、美樹が消えてから必死で塗り固めてきたあたしの感情の関を決壊させようとしている。
「そんな……真矢君、ありがとう」
声が震えている。様々な想いがとどめなく溢れ出し、胸が熱くなる。
絵の中で幸せそうに微笑む姉妹の姿は、瞳の中ではまるでたくさんの美しい色をごちゃまぜにした水彩画のように滲んでいた。
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