異世界転移したら無敵になったけど、服が拒否されました

榊シロ

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90話  ~女王の正体~


「あ、まさか」

 今更すぎる考えが、ふと脳裏に浮かんだ。
 そう、本当に今更で、ありがちな考えが。

「あの……女王様こそ魔女、って可能性ありません? 昔と性格変わったって聞いたし、魔物が成り代わってる、とか」

 ザ・ありがち・ド定番のシナリオだ。
 しかし、誰でも思いつくがゆえに、あり得そうな事態でもあった。

「ふむ……まあ、可能性として、あり得るんじゃないかのぉ」
「……わりと、他人事な感じですね?」

 意を決した発言にも、テルルは生返事だった。
 むぅ、と頬を膨らませると、彼はポリポリと頬を掻いた。

「そりゃあそうじゃろう。現状、女王に再び会って確かめる、という手段もとれぬしのぉ」
「あっ、確かに」
「その上、対抗手段もない。お主が、魔女の二つ名に見合うほど強大な魔力を発揮して、バッサバッサと魔物やらなんやらを倒していってくれるなら別じゃが」
「それは……フリ、ってヤツですか」
「応える気があるのなら、自分の魔力をうまく操れるようにがんばってくれぃ」

 テルルはポンッと手元に干し肉の袋を出して、パクリと頬張った。
 うち一枚を拝借しつつ、ぼんやりと会話を続ける。

「でも……この世界、魔物が出現するわけですよね。まだそんなにいくつも町を見たわけじゃないですけど、住んでいる人たちはふつうの人もいますよね……どうやって対抗してるのか……」
「ふむ。お主は別の世界から来たんじゃったな……ここの世界の、ふつうの人間というのはな」

 テルルはピンと指を一本立てて、言った。

「まず、外には出ない」
「……はい?」
「村や町の外には出ず、一生をその地域で暮らして終えるのじゃ」
「……ええ」

 思わず、ドン引いた声が出た。

「なんじゃ、理にかなっておるじゃろう? 危険が多い外にむやみやたらに出ず、町の中で暮らす――なにか、問題があるか?」
「う、うーん……そう言われると確かに……」

 脳裏に、一般的なRPG世界を思い浮かべつつ、頷く。

 確かに、ファンタジーでは町から町の間は、だいたい鬱蒼とした森や険しい山。
 平野であっても魔物が出現したり、そもそも橋や道が断絶して通れなくなっていたりもする。

 対抗策のない一般人がやたらに旅に出ても、遭難するか襲われるかで即アウトだろう。

 日本においても、熊やイノシシは存在するものの、町中の移動程度では滅多に出会わない範囲だ。
 この世界の危険度と比べれば、雲泥の差であることは間違いない。

「でも、私は追われる身ではあるので……どこかで永住ってわけにもいきませんよねぇ」
「まぁ、そうじゃな。わしとしても、それではつまらん。せっかく、あの泉から離れたんじゃし」

 テルルは面白がるようにケラケラと笑って、窓の外を見た。

「さてさて。エリアスが言った通り、少し横になるとするか。お主も、体を休めておくといい」

 軽く腕を伸ばしたテルルが、リビングのソファにゴロンと横になった。

 さて、私はどうするか。

 部屋はひとつ残っているので、ベッドが三つある部屋に行って寝っ転がってみるのも手だ。
 ただ、いつだか魔力を使いまくった直後に感じたような眠気はないし、横になっても眠れなさそうな気がしている。

 テーブルに頬杖をついて、ボーっと夜の空を眺めつつ、今後のことを考える。

(これで、エリアスさんのご両親の家に向かって……その後、いったいどうしたらいいのかな)

 現状、元の世界に戻る宛てはなに一つない。
 なら、純粋にこの世界を知る旅をすればいいのかもしれないが、魔物の存在や、魔女として指名手配されていることを考えると、あまりのんびりしてもいられないかもしれない。

 ぼーっと今後の展望を考え込んでいると、

 ピカピカピカ

「んん?」

 ローブの中から、なにかが光を発している。

「あっ……お守り……!!」

 ピカピカ光るそれを慌てて引っぱり出し、テルルが寝ていることを考えて慌てて空いている部屋に飛び込んだ。

「はあ、ひ、姫様ですか?」
『……その声は、魔女様ですね? よかった、つながって……!』

 お守りを握って声をかけると、あの柔らかな声が聞こえてきた。
 ほんわかとした姫の声に、心が癒される。

「いやー、すいません。もしかして、何度か通信もらってました?」
『ええ、実は……でも、なかなかつながらなくて……!』
「前の町で火事に巻き込まれてアワアワしちゃってまして……」
『えっ、火事ですか!? そ、その、お体は……!?』
「この通り、私は元気いっぱいでして……ただ、領主の方は、大火傷を負ったり、屋敷が崩壊したりと大変そうでしたけど……」
『まあ……なんてこと……!』

 姫は、言葉を失ってしばし黙り込んでしまった。

『それで……今は!? 今は、大丈夫なんですか!?』
「あ……は、はい。今は、復興の準備とかしてるんじゃないでしょうか」
『といいますと……すでに、そこからは離れているのですか?』
「今は前の……えっと、モルールーの町を離れて、サミコスの町に来ていますね」

 現状報告をすると、お守りはピカッと強く光った。

『サミコスの……それで、魔女様とエリアスは無事なのですか?』
「あ、はい。今は、サミコスの町ではなく、となりの旅人用の集落で休んでるところです。一日休んだら、次の町へ向かおうかと」
『よかった……! 最近、中央の周りでも、魔物たちの動きが活発になってきて……国内の、いろいろな町や村にも、注意喚起をしなければと思っているところだったのです』

 姫の言葉に、モルールーの町へ移動する直前におとずれた集落を思い出す。

 くずれて崩壊していた村と、現れた気色の悪い魔物。
 あれがあちこち起きているとしたら、かなりの緊急事態だ。

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