裸の天女様~すっ裸で異世界に飛ばされた災難ファンタジーコメディ~

榊シロ

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16話 ~牢獄に捕らわれる~

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 フェゼント国王都、中枢部。
 東京ドーム何個分、と問いたくなるほど巨大な白亜の白のなかの、とある一室だった。

「女王様はいい人……とは」

 キラキラとあらゆる光が反射するほど美しい白の、外からは決して見えない地下。
 地底の階段を三つほど下った先の、暗い暗い牢屋の中で、呪詛の声がこぼれた。

「牢屋に入れられるだなんて……聞いてない……っ!!」

 王国に戻るまでは、順調だった。
 あまりひと目につかないように、隊長や少年兵二人に隠れつつ、どうにかこうにか山や丘を越えた。

 記憶を失った隊のメンバーたちも、隊長に事情説明され、命を救った相手として、敬意を持って接してくれていたから。

 しかし、この王国へ入った後だ。

 隊長が戦果の報告をするのに同席する、というのは想定内。
 女王への謁見にまで連れていかれたのは驚いたけれど、仕方ないことだと受け入れた。

 ただ、この恰好に失笑とビックリの目を向けられて、心は正直ベッコベコだったけれど。

 でも、国のお偉方との謁見だ。

 礼儀正しさと謙虚さをアピールしていかないと、と、となりの隊長のマネをして、必死でお辞儀やらマナーやらをがんばった。

 しかし。しかし、だ。

「まあ……治癒はするけど記憶が消える、って、危険な魔法だけどさあ……」

 隊長は、もう少しぼやかした感じで報告してくれたのだ。

 魔物の襲撃によって隊は損壊したものの、彼女(私)の力によって全快し、国に戻ってきた、と。

 ただし、治癒の影響か魔物の襲撃によるものか、一部記憶が消えた部分がある、と。

 ただ、記憶をうしなった兵士たちが謁見の間に呼ばれ、大臣やら女王やらに根掘り葉掘り状況を聞かれた結果――ハッキリと、私の力と記憶喪失が関連付けられてしまったのだ。

 この世界には、もちろん魔法という概念はある。
 でも、治癒魔法というのは、かなり珍しい部類に入るみたいだ。

 ただ、魔法を使った代償に魔力以外の『なにか』が必要というのは、黒魔術として扱われていて、いわゆる【禁忌】として恐れられているらしい。

 そうとは知らず、私は全員のケガを治したものの、すっぱり記憶を消してしまった。

 そんな力を持つ私は危険であり、一刻も早く処分しなければならない【魔女】である、と烙印を押され、あえなく牢屋へブチ込まれてしまったのだった。

「う~ん……女王様も、あんまりいい人そうじゃなかったしなぁ」

 断罪された側だからそう感じる、というだけかもしれない。

 けれど、ブラウの言ったように、心あたたかで聡明な王、という雰囲気は感じなかった。

(だって、私を見る目……本当に、恐かった)

 ブリザード、という言葉がピッタリ似合うような、氷みたいに冷たい空気をまとっていた。
 他の人の意見にいっさい耳を傾けないような、どこか独善的な雰囲気もあった。

 王座には、女王の席だけではなく、となりにも一席用意されていたけれど、そっちは空席。

 もしかしたら、王様はすでに亡くなっているのかもしれない。

 ただ、女王のとなりには可愛らしい少女がひとり、ハラハラした顔で控えていた。

 顔つきと年齢から考えて、きっと王女様だったんだろう。

 謁見の間から牢屋へ移動する間、通路にはあらゆる大臣や兵士隊長らしき物々しい面々が並んでいた。

 誰しも口をキッと結んでしかめっつらをしていたけれど、口の端がピクピクしていたり、手や体が小刻みに震えていた。

 アレは絶対、私の恰好を見て笑いをこらえていたに違いない。

 あの、何重にも着込んでいる甲冑やら法衣の一枚くらい、お情けで私にくれたっていいのに!

 いや、結局ハジけ飛ぶだろうから、意味はないかもしれないけれど――。

 コツ、コツ、コツ。

(……だれか、来た??)

 体育座りでヒザを抱えるという、典型的なへこみスタイルをとっていたのをやめて、ズルズルと牢屋の奥の方へズリ下がった。
 なんとなく、イイ知らせではない、気がする。

「オイ! お仲間が来たぜ!」
「えっ……??」

 髪の毛を根本まで白く痛ませた、ガラの悪い兵士だ。
 男は、ズズズッと冷たい石の床に引きずるようにして、なにかを連れてきた。

 ガチャン、と雑に牢のカギを開け、それが放り込まれる。
 ベシャッ、と床に崩れ落ちたのは、人だった。

「た……隊長、さん!?」

 それは全身ボロボロになって気を失っている、あの隊長だった。

 美しかった金髪は砂まみれでクシャクシャになり、破けた服のすそから見える腕は、あちこちに打撲痕があった。

 集団リンチ、という言葉が頭をよぎる。
 私が言葉もなく隊長の肩を支えると、ガラの悪い兵士はゲラゲラと笑った。

「ハッ、そいつは与えられた仕事をシクッてばっかりでな。いい加減、女王様も見放したってワケだ」
「し……仕事をシクる、ですか?」
「今回だって、村の集団失踪事件の調査だってのに、ロクに原因究明もせず帰ってきたんだろ。オオカミの魔物共に襲われた、なんつー見え透いたウソまでついて、さ」
「は? う、ウソ?」
「そーだよ。あの近辺に、そんな凶悪な魔物が住み着いてるなんて聞いたこともねぇぜ。お前も、そいつにやとわれたニセ魔女だろ? 災難だったなぁ」

 兵士は、言葉と相反するニヤニヤした表情のまま、さらに続けた。

「あー、かわいそうなこった。まさか、牢屋にブチ込まれるなんて思ってもなかったんだろ?」
「は、はあ……??」
「はーあ。そいつも、せっかく名だたる家の出だっつーのに……落ちこぼれってのは、どこにでもいるもんだな」

 落ちこぼれ。

 ザクッと心に刺さるひと言に、思わず隊長をかばうように前に出て、兵士をギッとにらみつけた。

 オオカミの魔物と小悪魔の襲撃は、ウソなんかじゃない!

 彼は、精一杯部下を守ろうと戦っていた。
 シクッたのは、集落がそんな状態なのに、部隊をひとつしか出さなかった王国の方なのに!!

 ググッと下唇をかみしめる私を、男はまったく気にした様子もなく、

「ま、悪人二人、そろって女王様の沙汰を待つんだな」

 がっはっは、と不快な笑い声を立てながら、男はガチャガチャと雑にカギをかけると、そのまま階段を上って行ってしまった。

(……まさか、全部ウソだと思われてたなんて……)

 あの兵士の話ぶりだと、そうとしか考えられない。
 魔物たちの襲撃はもちろん、私の治癒と記憶喪失の件すらも。

 それに、さっきの兵士の口ぶりでは、隊長が『失敗』したのは一度や二度ではなさそうだった。

 与えられた最後のチャンスで【ニセ魔女(私)を雇い、ウソの報告をした】と疑われたとしたら――。

(それ……かなり重い罪になっちゃうんじゃ……)

 私は、法律はサッパリだ。
 その上、この世界にどういう規律があるかもわからない。

 でも、国のトップに虚偽の報告、というのは、ヘタしたら『国家反逆罪』とか、名前だけでもそら恐ろしい感じの罪になってしまうんじゃないだろうか。
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