裸の天女様~すっ裸で異世界に飛ばされた災難ファンタジーコメディ~

榊シロ

文字の大きさ
17 / 81

17話 ~仕組まれた失敗~

しおりを挟む
「あ……証明できないんだ」

 愕然(がくぜん)とする。

 魔物の襲撃を受けた兵士たちは、私の回復によって同時に記憶がなくなってしまった。

 だから、あの集落で起こったできごとをちゃんと話すことができない。

 私がニセ魔女じゃないことは、証明できる。
 誰かの前で、ケガを治す魔法を使えばいいのだから。

 でも、もし私の力の副作用で記憶が消える、とわかっても、だ。

 魔物の襲撃の時にその力を使ったのか。

 そもそも魔物の襲撃自体がなかったのをごまかそうとしているのか。

 それをハッキリさせる手段がない。

 悪魔の証明だ。ひどい。

(隊長さんのケガ……治してあげたいけど)

 腕や足に、青あざが色濃く残っている。
 さっきの兵士や、他の尋問員につけられたものだろうか。

 いくら任務に失敗した、と判断されたとはいえ、自分の国の兵士隊長に対して、あまりにもひどい。

「こんな、キズだらけになって……」

 痛みを与えないように、冷たい石の床から、布だけが敷かれたベッドに移動させた。

 頬に痛々しく残るあざに、そっと触れる。

 見た感じ、命に係わるケガじゃなさそうだ。
 治してあげたいけど、もし記憶が消えてしまったらきっと困るだろう。

 キズの様子を確認しつつ、力を使うのをためらっていると。

「……ん……」

 ふいに、隊長のまぶたがフルフルと震えた。

「あ……た、隊長さん! 大丈夫ですか!?」
「ん、っ……? あ、あなた、は」

 何度かのまばたきの後、彼はおどろきの表情で目を見開き――フッ、とあきらめたようにため息をついた。

「そう……そういうこと。巻き込んじゃったのね、あなたを」
「えっ? い、いえ、すみません。むしろ、私がみんなを治療してしまったせいで、あの魔物たちの襲撃がなかったことになってしまって……」

 ケガを治さないほうがよかった。

 そんなことは、もちろん無い。

 でも、話をややこしくして、彼の立場を悪くしてしまったのは、私が原因だった。

 さっきの兵士の言葉が正しければ、残り少ないチャンスだったのに!

 申し訳なさでググッと身を縮めていると、

「いいえ。違う、違うのよ」

 隊長は、強く首を横にふった。

 え、と固まった私に対して、彼はサッと周囲に目を光らせた。

「隊長さん? なにか……」
「シッ……静かに」

 この階は非常に狭くて、私たちが放り込まれている牢屋以外には何もない。
 かろうじて牢屋の外にロウソクがひとつ置かれているだけで、見張りもないのだ。

 不用心きわまりない、と思うけれど、地下三階ともなれば、脱獄の心配もないのかもしれない。

「……大丈夫そうね」

 隊長は、他に誰もいないことを慎重に確認した後、そっと目を合わせてきた。

「今回、あたしに与えられた任務はね、もともと失敗させるために与えられたものなのよ。……わかってた。わかっていたんだけど、ね」
「え……ど、どういうことですか!?」

 失敗させるために与えられた?

 それは、いろいろなことが仕組まれていた、ということ!?

 あまりにも不穏な言葉に、牢屋の中ということも忘れて、私は隊長につめ寄った。

 彼は苦笑いしながら小さくため息をつくと、ユルユルと語り出した。

「あたしの家は、代々王家に仕える家系でね。王家……それも、いわゆる本筋、本家側の王家ね。代々女性が王位を継ぐこのフェゼント国では、女性が生まれない場合、近しい分家筋から本家が養子を引き取り、代々国をつないできたでしょう?」
「え……え、ええ……」

 いかにも国の常識です、と言わんばかりの口調に、私はあいまいにうなづきつつ、先を促した。

「ちょうど、今の女王が後を継いで、十年くらい経ってからかしら。うちの家系が疎まれはじめたのは」
「疎まれ……ってことは、今の女王様は分家からの養子?」
「そう。前女王の影響力を引き継いでいる、うちの家が気にくわなかったんでしょうね。こうしてずっと、イヤがらせをされ続けてきたのよ」
「うわあ……あるんですね、そういうの……」

 跡継ぎ問題、影響力、派閥だのなんだの。

 あまり、現実感がないように思える。

 いや、元の世界でも、学生時代、クラスのグループごとのパワーバランスやら、部活の先輩後輩問題やらがあったから、それの拡大版という感じだろうか。

 隊長はヤレヤレ、と言わんばかりに首を振って、続けた。

「おかげで、うちの両親と兄弟たちは、祖父母が管轄していた領地へ戻ったわ。ついていくのがシャクであたしは残っていたけど、この仕打ちってわけ」
「……ひどい、話ですね」
「ふふ。……ありがと、同情してくれて」

 彼は、眉を下げて力を抜いた顔で笑った後、傷つけられた腕をさすりつつ、遠い目をした。

「今回のアレだって……オオカミの魔物たちがあそこを襲ったことくらい、王家には情報として入っていたはず。運よくあたしが死んだらラッキー、そうでなくとも、いいがかりをつけて牢屋に放り込むつもりだったのよ、きっと」

 トン、と冷たい石の壁に背中を押し付けて、隊長はそのまま押し黙った。

 暗い牢屋の中に、気まずい沈黙が落ちた。

 なんと言葉をかければいいか悩む。
 励ますべきか、なぐさめるべきか、一緒に怒り出すべきか。

 でも結局、なにもいい言葉なんて浮かばずに、おずおずと問いかけた。

「えっとぉ……その、まさか処刑される、なんてことは……」
「アハハ。それはよっぽどの重罪人でもないかぎりないわね。そうねぇ……せいぜい、称号はく奪くらいじゃないかしら」
「しょうごうはくだつ」

 それが、いったいどれくらいの罪なのか、サッパリだ。
 しかし、命を奪われるものではない、というのだけは救いだった。

 少しだけホッと気を抜いていると、彼は不意に『あっ』と気づいたような顔をして、私を見た。

「そうだわ! 行方不明の届けを探してあげるって話だったわよね。約束破っちゃったわ、ごめんなさい」
「えっ!? い、いえ、その……お気になさらず……」

(たぶん……というか、ゼッタイに出てないし……)

 こんな時ですら、私の心配をしてくれるなんて。
 申し訳なさ倍増で体を縮めつつ、そっと彼の隣で壁に背中をつけた。

「えっと……その。罰がくだされるまでは、ここに閉じ込められっぱなしですかね」
「そうでしょうね。うちの実家が抗議でも入れてくれれば早く出られるかもしれないけど……その情報すら、届いているかもわからないし」
「ああ……」

 今までの話の感じからして、彼の実家は遠い場所にあるんだろう。

 この世界は、元の世界のように通信手段が発達しているようには思えない。
 となれば、隊長がこうして牢屋に放り込まれていることは、知りようがないかもしれなかった。

 時間間隔すら失わせる暗闇が、ぼうっと体にまとわりついている。
 時計すらない空間では、今が何時なのか、放り込まれてどれくらい経ったのかすら、わからなかった。

 お互いに口を閉じてしまえば、シン、といたたまれない沈黙が牢屋の中に漂った。

 なにか話でもするべきかなぁ、と私がうんうん考え込んでいると、

「……ねえ。本当に記憶がないの?」

 と、唐突に彼が核心をついてきた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。 12/23 HOT男性向け1位

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

【運命鑑定】で拾った訳あり美少女たち、SSS級に覚醒させたら俺への好感度がカンスト!? ~追放軍師、最強パーティ(全員嫁候補)と甘々ライフ~

月城 友麻
ファンタジー
『お前みたいな無能、最初から要らなかった』 恋人に裏切られ、仲間に陥れられ、家族に見捨てられた。 戦闘力ゼロの鑑定士レオンは、ある日全てを失った――――。 だが、絶望の底で覚醒したのは――未来が視える神スキル【運命鑑定】 導かれるまま向かった路地裏で出会ったのは、世界に見捨てられた四人の少女たち。 「……あんたも、どうせ私を利用するんでしょ」 「誰も本当の私なんて見てくれない」 「私の力は……人を傷つけるだけ」 「ボクは、誰かの『商品』なんかじゃない」 傷だらけで、誰にも才能を認められず、絶望していた彼女たち。 しかしレオンの【運命鑑定】は見抜いていた。 ――彼女たちの潜在能力は、全員SSS級。 「君たちを、大陸最強にプロデュースする」 「「「「……はぁ!?」」」」 落ちこぼれ軍師と、訳あり美少女たちの逆転劇が始まる。 俺を捨てた奴らが土下座してきても――もう遅い。 ◆爽快ざまぁ×美少女育成×成り上がりファンタジー、ここに開幕!

捨てられた前世【大賢者】の少年、魔物を食べて世界最強に、そして日本へ

月城 友麻
ファンタジー
辺境伯の三男坊として転生した大賢者は、無能を装ったがために暗黒の森へと捨てられてしまう。次々と魔物に襲われる大賢者だったが、魔物を食べて生き残る。 こうして大賢者は魔物の力を次々と獲得しながら強くなり、最後には暗黒の森の王者、暗黒龍に挑み、手下に従えることに成功した。しかし、この暗黒龍、人化すると人懐っこい銀髪の少女になる。そして、ポーチから出したのはなんとiPhone。明かされる世界の真実に大賢者もビックリ。 そして、ある日、生まれ故郷がスタンピードに襲われる。大賢者は自分を捨てた父に引導を渡し、街の英雄として凱旋を果たすが、それは物語の始まりに過ぎなかった。 太陽系最果ての地で壮絶な戦闘を超え、愛する人を救うために目指したのはなんと日本。 テンプレを超えた壮大なファンタジーが今、始まる。

処理中です...