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57話 ~疑惑2~
しおりを挟む今までは、あれほど流暢に話をしていたのに、まるで急にただの鳥に変わってしまったかのようだ。
あわあわする私の前で、アスタリカはつまらなそうにひとつため息をついた。
「フ……神鳥など、結局ただの伝承でしかない、か」
その視線は、完全に疑っている者のそれだ。
ヤバイ。このままじゃ。
「ちょっ……テルペロン様、どうしたんですか!? 今まで、あれだけベラベラ好き勝手に話ししてたのに……!!」
と、肩に乗った神鳥ごとブンブンと体を揺らすと、か細い声で返事が返ってくる。
『……神力が……尽きる、寸前なの、じゃ……』
「えーっ、このタイミングで!?」
『あのティアラの転送に巻き込まれたときに、ごっそり持ってかれてしもうて……ギリギリなんじゃ……気を抜くと、人型に戻ってしまう……』
「えっ、別に人型になってもいいですけど!?」
『ここで、わしが人の姿に戻ってみろ……魔法で姿を変えていたペテン師扱いで、おぬしも即刻切り捨てられるぞ……』
「あっ、たしかに……!」
「……なにを、ブツブツしゃべっている?」
「あっいえ、すみません! テルペロン様、どうやら魔物から逃げるときに神力を使いすぎたらしく……ちょっと、私の魔力を与えて回復をさせてあげたいんですが」
と、丁寧に説明したところ、アスタリカはクッと形のよい眉をしかめた。
「言い訳をするなら、もう少しマシなものを選べ」
「えっ言い訳じゃなくて、ホントに」
「おい。……これを、外に放ってこい」
「わーっ、そ、そんなぁ!!」
むんず、と従者に背後から首元を掴み上げられた。
ペロン、とあまりにも簡単に持ち上げられて、逆にショックを受ける。
(わ、私の魔力、こういうのには反応しないの……!?)
いや、人間相手に爆発を発揮されても困るけれども。
「森に放り出すのは勘弁してやろう。……早めに、この町から出ることだな」
「うぐぅ……」
そう言ってお茶を飲むアスタリカをしり目に、従者の男性によってずりずりと建物の裏手に引きずられていく。
そのまま屋敷の裏口に放り出され、涙目の私に向かって、彼は言った。
「可哀そうではありますが……身元がわからない者を、滞在させるわけにはいかないんです。恨むな、とは言いませんが……これ、少しばかりですが、路銀の足しにと、アスタリカ様から」
と、男性は、重い布袋をそっと手のひらの上に乗せた。
「ううっ……いえ、気づかってもらってすみません……ド正論ですし、恨んではいませんから……」
半泣きになりつつ、コクコクと頷いた。
怪しい身分の者を誰でも受け入れていたら、それこそ、スパイや裏切り者の温床になってしまう。
ゆえに、統治者として、彼女の行いは全うなのだ。
わかっている。わかっていても、悲しいものは悲しい。
特に、今まで世話になっていたエリアスとヴィルクリフの二人と別れてしまったのが、さびしい。
「あ、あの……エリアスさんは弟だからいいとして……ヴィルクリフさんは、どうなるんですか?」
「ああ……あの、長髪黒髪の男性ですか? 彼も身元がハッキリしないのであれば、あなたと同じく、放免になるでしょうね」
「なるほど……」
死んだものとして扱われているヴィルクリフだ。
きっと、私と同じ待遇になってしまうだろう。
できるものなら、待っていたい。
しかし、いつ目覚めるかもわからないのだ。ここでジーッと待機しているわけにもいかなかった。
「えぇと……短い間でしたけど、ありがとうございました。このお金も……大切に使わせていただきます。あの……エリアスさんには、お元気で、とお伝えいただけますか」
「こちらこそ、丁重におもてなしできずに申し訳ございません。……どうぞ、お元気で」
と、従者の男性は優しく笑みを浮かべると、そのまま屋敷の中へと戻っていった。
シン、と静まり返った裏口。
ひとり残され、うーん、と腕を組んだ。
「とりあえず……町に行くしか、ないか」
現状、できることといえば、それしかない。
ただ、放り出された身ではあるが、正直、今はさほど悲観的な気分でもなかった。
なにせ、この異世界にフッ飛ばされてきてから、ゆったりした時間なんてなかった。
だから、町中を見て回る、なんてこともできていなかったのだ。
今、こうしてひとりになって、多少のさびしさはあるものの、時間とお金ができた。
町中をゆっくり観光したり、衣料品の店をチェックできる。もしかしたら、念願のまともな服もあるかもしれない。
と、やる気がわいてきたところで、はたと気づく。
「服……この恰好で、町中を……??」
自らの、ふりふり水色エプロンを見下ろした。
きわどい部分は隠れているものの、果たして、この世界でこのファッションは有りなのか?
エリアスやヴィルクリフたちの初見のリアクションを思い返し、ズーン、と重い気分に浸る。
今までは、たいして人と会わない旅路だったため、羞恥心は薄れていた。
しかし、見知らぬ人々の前にこの姿で出ていく、となると、気おくれしてしまう。
(し、しかし……他に服があるわけじゃない。どうにか、マトモな服を入手するまではこれで……!)
つまり。まっさきに行くべきは、服屋だ。
よし、と気合いを入れなおし、足を踏み出した。
「いらっしゃいま……!?」
「いらっしゃいませー……って、えっ!?」
「な……なにあの服……どこの国の人……??」
「アレじゃない……? なんか、他国のさぁ……」
ひそひそ、ひそひそひそ。
(く……屈辱……っ!!)
服屋に足を踏み入れて早々、洗礼を食らった。
まず店員たちに戸惑われ、店内にいた客にもコソコソと聞こえる声でなにやらウワサされている。
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