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58話 ~服屋~
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他国の人間と思われているなら、ある意味ちょうどいいかもしれない。
羞恥心で燃え上がりそうな気持ちを鋼の意志でシャットアウトして、並んでいる衣類をザッと眺めた。
(……下手に試着すると、爆発四散させちゃう可能性があるんだよなぁ……)
この世界に来た当初、布の服を着ようとした時のことがよみがえる。
多少路銀をもらったとはいえ、店売りの服をつぎつぎ爆破していたらさすがに足りない。
と、なれば。
店員に、魔法の服がどれか聞かなければならないわけだが――。
(うーん……すっごい遠巻きに見られてるなぁ……)
ハッキリと『関わりたくありません』と顔に書いてある店員たちを見ると、非常に声をかけづらい。
確かに、いかにもわけありの人間だ。逆の立場だったら、極力近づきたくないだろう。
(なんか……魔法服コーナーとかないかな……)
この世界で、一般的にそういったものが販売されているのかも怪しい。
エリアスにエプロンをもらった時も、あまり流通していないような口ぶりだった気がする。
でも、諦めたら終わりだ。掘り出し物の一つでもあるかもしれない。
人が寄ってこないのをいいことに、並んでいる洋服たちを眺めていく。
幸い文字は日本語だから、なんて書いてあるかわかるのがありがたい。
ただ、売っているのは一般人が着用するものがほとんどのようで、素材も綿や絹ばかり。価格も相応、といった感じで、魔法に対応しているようには見えない。
(魔法アイテムとなればもっと高いだろうし……もしかしたら、そういう専門店じゃないとダメなのかな)
魔法や魔道具といったアイテムがあるのだから、魔導士用の服、みたいなものもあるだろうと思ったのに。
いや、そもそも。戦士用の鎧だとか、そういったRPGでお決まりともいえる装備もなかった。
(これは……入る店を間違えたパターンかな……?)
まず服屋、と思っていたが、防具屋とか、武器屋とか、そういった看板の店を探した方がよかったのかもしれない。
しょうがない。諦めて、違う店を探そう。
いまだヒソヒソと聞こえる声をしり目に、店を出ようとした時だった。
「失礼。ここに、半裸の変態がいるとの通報を受けたんだが」
ドアを開けた瞬間、青い制服――いわゆる、警察っぽい服装の男性二人が、店に入ってきたのだった。
変態――半裸の、変態!?
まさか。もしや。
冷や汗がダラダラと流れ出す。
後ずさった私に、警察っぽい男性が、ん? と首を傾げた。
「ああ、すまない。邪魔をし……ん!? キミ、いや、お前は」
「ち、違います!! 変態じゃないです!! 半裸なのは、体質でこういう服しか着られないからで……!!」
「なにバカなことを言っている! こっちにこい!!」
男性二人の視線が、犯罪者を見るようなものに変わったのを見て、ひぇっと跳びあがる。
マズイ。このままじゃ、また牢屋行きになってしまう!!
バタバタッ、と服屋を飛び出すと、男性二人も追いかけてきた。
「ま、待ちなさい!! その恰好で、町中を走るんじゃない!!」
「ひ、ひえーっ! つ、ついてこないでくださいーっ!!」
ドタドタドタ、と石畳の街並みを走る。
すれ違う人々が、なんの騒ぎかとこっちを見ては、ぎょっと目を覆ったり見開いたりする光景が視界に入った。
(なんだよぉ……ファンタジー世界なんだから、変な服なんてそこら中にあるだろーが!!)
確かに、今まで見てきた人たちはマトモな服を着ていたけれども!
八つ当たり気味にブツブツつぶやきつつも『疲れない』利点を存分に生かし、ひたすらにあっちこっちを走り回る。
「ま……待て……待ち、なさい……!!」
男性二人がヘロヘロになってきたタイミングで、細い路地に突入する。
土地勘がないながらも、道と道のスキマを走り回る。
この体質のおかげで、足元にナイフが転がっていようが、怪しい取引現場を目撃して襲われても傷ひとつつかないのだ。
そのまま、とにかく走り続けていると、周りの人の声がしない、奥まった場所までたどり着いたようだった。
「よし……これで、撒いたな……!」
ふぅ、とため息をついて足を止める。
「しかし……ここはいったい、どこなのか……」
ペタ、ペタ、と裸足のまま路地裏の道を進みつつ、上を見上げた。
東西南北はもちろん、どのぐらい奥まった位置に来たかもわからない。
比較的、道も壁もキレイなため、住宅街の方に来たようだ。
怪しい黒服の男や、ゴミ貯めが無い分、少し気が楽だった。
(でも……困ったなぁ。町に出たら、また通報されるかも)
確かに、ハダカのフリフリエプロンを着た女がウロウロしているのだ。外野からすれば痴女だし、通報されても致し方ない。
わかる。わかっているが、つらい。
(諦めて、次の町へ向かうか……?)
この町に滞在していても、どうしようもない。
しかし、その考えを浮かべたところで、ハッと気づいた。
(あれ……? 私、行き先どころか……目的も、ないじゃん)
突然、この世界に飛ばされて、今まで。
とにかく生き延びること。危険から逃げること。
それだけを考えて、流されるがまま、ここまでやってきた。
初めから、今まで。
ずっと。ずっと、逃げてばかりなのだ。
最初は、戦場の兵士から。
次は、山犬のモンスターから。
そして、死刑台。国の兵士たち。襲い来る魔物。そして、今の警備兵たちから。
(……戦って倒すこともなく、ただ、逃げるだけ……なんの役にも、たってない……)
多少、回復魔法で人助けをしたものの、よくあるファンタジーのように魔物たちをバッサバッサと倒したりしたわけじゃない。
勇者様や、大聖女様、などといってもてはやされるような偉業も成し遂げていない。
魔力はものすごいらしいが、魔法は使えていない。
もしかして。いや、もしかしなくても――これは。
(めっちゃ、落ちこぼれなのでは……)
ここに来たのだって、温泉でうっかりスイッチ(?)を押して、だ。
本当だったら、もっと勇者にふさわしい人間が呼ばれるはずだったのではないだろうか。
「はぁ~……へこむ……」
これから先、いったいどうすればいいんだろう。
その場にうずくまって、うんうんと悩んでいる、と。
キュイッ、と、頭上から美しい鳴き声が聞こえてきた。
羞恥心で燃え上がりそうな気持ちを鋼の意志でシャットアウトして、並んでいる衣類をザッと眺めた。
(……下手に試着すると、爆発四散させちゃう可能性があるんだよなぁ……)
この世界に来た当初、布の服を着ようとした時のことがよみがえる。
多少路銀をもらったとはいえ、店売りの服をつぎつぎ爆破していたらさすがに足りない。
と、なれば。
店員に、魔法の服がどれか聞かなければならないわけだが――。
(うーん……すっごい遠巻きに見られてるなぁ……)
ハッキリと『関わりたくありません』と顔に書いてある店員たちを見ると、非常に声をかけづらい。
確かに、いかにもわけありの人間だ。逆の立場だったら、極力近づきたくないだろう。
(なんか……魔法服コーナーとかないかな……)
この世界で、一般的にそういったものが販売されているのかも怪しい。
エリアスにエプロンをもらった時も、あまり流通していないような口ぶりだった気がする。
でも、諦めたら終わりだ。掘り出し物の一つでもあるかもしれない。
人が寄ってこないのをいいことに、並んでいる洋服たちを眺めていく。
幸い文字は日本語だから、なんて書いてあるかわかるのがありがたい。
ただ、売っているのは一般人が着用するものがほとんどのようで、素材も綿や絹ばかり。価格も相応、といった感じで、魔法に対応しているようには見えない。
(魔法アイテムとなればもっと高いだろうし……もしかしたら、そういう専門店じゃないとダメなのかな)
魔法や魔道具といったアイテムがあるのだから、魔導士用の服、みたいなものもあるだろうと思ったのに。
いや、そもそも。戦士用の鎧だとか、そういったRPGでお決まりともいえる装備もなかった。
(これは……入る店を間違えたパターンかな……?)
まず服屋、と思っていたが、防具屋とか、武器屋とか、そういった看板の店を探した方がよかったのかもしれない。
しょうがない。諦めて、違う店を探そう。
いまだヒソヒソと聞こえる声をしり目に、店を出ようとした時だった。
「失礼。ここに、半裸の変態がいるとの通報を受けたんだが」
ドアを開けた瞬間、青い制服――いわゆる、警察っぽい服装の男性二人が、店に入ってきたのだった。
変態――半裸の、変態!?
まさか。もしや。
冷や汗がダラダラと流れ出す。
後ずさった私に、警察っぽい男性が、ん? と首を傾げた。
「ああ、すまない。邪魔をし……ん!? キミ、いや、お前は」
「ち、違います!! 変態じゃないです!! 半裸なのは、体質でこういう服しか着られないからで……!!」
「なにバカなことを言っている! こっちにこい!!」
男性二人の視線が、犯罪者を見るようなものに変わったのを見て、ひぇっと跳びあがる。
マズイ。このままじゃ、また牢屋行きになってしまう!!
バタバタッ、と服屋を飛び出すと、男性二人も追いかけてきた。
「ま、待ちなさい!! その恰好で、町中を走るんじゃない!!」
「ひ、ひえーっ! つ、ついてこないでくださいーっ!!」
ドタドタドタ、と石畳の街並みを走る。
すれ違う人々が、なんの騒ぎかとこっちを見ては、ぎょっと目を覆ったり見開いたりする光景が視界に入った。
(なんだよぉ……ファンタジー世界なんだから、変な服なんてそこら中にあるだろーが!!)
確かに、今まで見てきた人たちはマトモな服を着ていたけれども!
八つ当たり気味にブツブツつぶやきつつも『疲れない』利点を存分に生かし、ひたすらにあっちこっちを走り回る。
「ま……待て……待ち、なさい……!!」
男性二人がヘロヘロになってきたタイミングで、細い路地に突入する。
土地勘がないながらも、道と道のスキマを走り回る。
この体質のおかげで、足元にナイフが転がっていようが、怪しい取引現場を目撃して襲われても傷ひとつつかないのだ。
そのまま、とにかく走り続けていると、周りの人の声がしない、奥まった場所までたどり着いたようだった。
「よし……これで、撒いたな……!」
ふぅ、とため息をついて足を止める。
「しかし……ここはいったい、どこなのか……」
ペタ、ペタ、と裸足のまま路地裏の道を進みつつ、上を見上げた。
東西南北はもちろん、どのぐらい奥まった位置に来たかもわからない。
比較的、道も壁もキレイなため、住宅街の方に来たようだ。
怪しい黒服の男や、ゴミ貯めが無い分、少し気が楽だった。
(でも……困ったなぁ。町に出たら、また通報されるかも)
確かに、ハダカのフリフリエプロンを着た女がウロウロしているのだ。外野からすれば痴女だし、通報されても致し方ない。
わかる。わかっているが、つらい。
(諦めて、次の町へ向かうか……?)
この町に滞在していても、どうしようもない。
しかし、その考えを浮かべたところで、ハッと気づいた。
(あれ……? 私、行き先どころか……目的も、ないじゃん)
突然、この世界に飛ばされて、今まで。
とにかく生き延びること。危険から逃げること。
それだけを考えて、流されるがまま、ここまでやってきた。
初めから、今まで。
ずっと。ずっと、逃げてばかりなのだ。
最初は、戦場の兵士から。
次は、山犬のモンスターから。
そして、死刑台。国の兵士たち。襲い来る魔物。そして、今の警備兵たちから。
(……戦って倒すこともなく、ただ、逃げるだけ……なんの役にも、たってない……)
多少、回復魔法で人助けをしたものの、よくあるファンタジーのように魔物たちをバッサバッサと倒したりしたわけじゃない。
勇者様や、大聖女様、などといってもてはやされるような偉業も成し遂げていない。
魔力はものすごいらしいが、魔法は使えていない。
もしかして。いや、もしかしなくても――これは。
(めっちゃ、落ちこぼれなのでは……)
ここに来たのだって、温泉でうっかりスイッチ(?)を押して、だ。
本当だったら、もっと勇者にふさわしい人間が呼ばれるはずだったのではないだろうか。
「はぁ~……へこむ……」
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その場にうずくまって、うんうんと悩んでいる、と。
キュイッ、と、頭上から美しい鳴き声が聞こえてきた。
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