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59話 ~夜の路地裏~
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「あれっ、この声は……」
『む。こんなところにおったのか、ハナ』
聞き覚えのある声が、ふわりと上から降ってきた。
「あっ……テルペロン様!」
アスタリカのお屋敷で、離れ離れになった神鳥。
ふらふらと、どこかおぼつかない羽さばきで降りてきて、へにょり、と脱力した様子で肩に止まってきた。
「あれ、能力、もう使えないんじゃなかったですか?」
『ギリギリ……ギリギリなんじゃ……だからもう、起きてられん……寝る……』
「えっちょっ……もうちょっと状況を教えてください……!!」
『お主の魔力を吸収させてもらう……このまましばし、ジッとしておれ……』
「わたくし、追われている身なんですけれども」
『…………』
冗談まじりの戯言にも、返事は返ってこなかった。どうやら、対応する元気すらないらしい。
テルペロン鳥は、パタリと羽を閉じると、肩に乗った中途半端な姿勢のまま、目を閉じてしまった。
「……うーん」
路地裏の隅、横倒しになっているドラム缶の上に腰を落ち着ける。
よっこいせ、と体勢を整え、ひざの上に神鳥を置きなおした。
この神鳥の言葉通りなら、彼はかなりの長い時をあの泉で過ごしていたことになる。
そうして、消えかけていたところ、私の魔力でかろうじて生きながらえている、と。
(神の鳥なら、無限に力が湧き出るもんじゃないのかな……)
それこそ、魔力を捨てている、と言われる自分のように。
いや、無から力を生み出している私の方が、おかしいのか?
(まさか……私こそが、神……!?)
なんて、阿呆みたいな妄想が浮かんだものの、すぐに打ち消す。
(いや、だったらもっと神様らしい服装ができるはずだし、こんな目にも遭わないはず……)
今までの出来事が目まぐるしく走馬灯のように脳内を通り過ぎた。
裸エプロンの神様とかイヤすぎる。
「あー……夜がきそうだなぁ……」
ぼんやりと空を見上げる。
壁と壁との狭いスキマから見た細い空は、にわかに陰り始めている。
屋敷から放り出されたのは、たしか昼を過ぎた頃合いだった。あれから、そんなに時間が経っていたんだろうか。
幸い、この体はロクな服が着られない代わりに、寒暖はゆるやかにしか感じなかった。
寒さで凍える心配もないし、睡眠と食事の確保も必要ないから、夜にいろいろ動いた方がいいのかもしれない。
(いや……この恰好でウロウロしてたら、それこそ娼婦と勘違いされるかも……)
うーん、万事休す。
どうしようかなぁ、と悩みつつ、テルペロン鳥をギュッと抱きしめる。
神鳥と呼ばれるだけはあり、羽はフワフワとしてとても手触りがいい。
ヒマを持て余すがまま、むにむにと撫でていると、わずかにテルペロン鳥が身じろぎした。
「あ……起こしちゃいました?」
『…………』
もしやと思って声をかけるが、テルペロン鳥は無言だ。
ただ、撫でられて反応しただけか、とホッと安心していると、
『……母上……姉上……』
と、かすかな声が聞こえてきた。
『……わし、は……わたし、は……』
寝言、なのだろうか。
ぼそぼそと、聞きとりにくい小さな声だ。
『……待って……まだ、力が、足りない……』
「……テルペロン、様?」
『……まだ……置いて、いかない、で……』
ぱた、ぱた、と羽が動いたかと思えば、ぱたり、と再び静かになる。
そのまま無言で羽を撫でてみるが、神鳥はもう、なにも発せず、スゥスゥと眠りについている。
(……神鳥は、一世代でつながっていく……って、言ってなかったっけ……?)
前の鳥が死ぬときに、卵を産む。
そして、知識を共有して生きていく。
以前、テルペロン鳥から聞いた話ではそうだった。
ならば、姉がいるというのは、おかしいのではないか。
そのまま無言で羽を撫でてみるが、神鳥はもう、なにも発せず、スゥスゥと眠りについている。
『む。こんなところにおったのか、ハナ』
聞き覚えのある声が、ふわりと上から降ってきた。
「あっ……テルペロン様!」
アスタリカのお屋敷で、離れ離れになった神鳥。
ふらふらと、どこかおぼつかない羽さばきで降りてきて、へにょり、と脱力した様子で肩に止まってきた。
「あれ、能力、もう使えないんじゃなかったですか?」
『ギリギリ……ギリギリなんじゃ……だからもう、起きてられん……寝る……』
「えっちょっ……もうちょっと状況を教えてください……!!」
『お主の魔力を吸収させてもらう……このまましばし、ジッとしておれ……』
「わたくし、追われている身なんですけれども」
『…………』
冗談まじりの戯言にも、返事は返ってこなかった。どうやら、対応する元気すらないらしい。
テルペロン鳥は、パタリと羽を閉じると、肩に乗った中途半端な姿勢のまま、目を閉じてしまった。
「……うーん」
路地裏の隅、横倒しになっているドラム缶の上に腰を落ち着ける。
よっこいせ、と体勢を整え、ひざの上に神鳥を置きなおした。
この神鳥の言葉通りなら、彼はかなりの長い時をあの泉で過ごしていたことになる。
そうして、消えかけていたところ、私の魔力でかろうじて生きながらえている、と。
(神の鳥なら、無限に力が湧き出るもんじゃないのかな……)
それこそ、魔力を捨てている、と言われる自分のように。
いや、無から力を生み出している私の方が、おかしいのか?
(まさか……私こそが、神……!?)
なんて、阿呆みたいな妄想が浮かんだものの、すぐに打ち消す。
(いや、だったらもっと神様らしい服装ができるはずだし、こんな目にも遭わないはず……)
今までの出来事が目まぐるしく走馬灯のように脳内を通り過ぎた。
裸エプロンの神様とかイヤすぎる。
「あー……夜がきそうだなぁ……」
ぼんやりと空を見上げる。
壁と壁との狭いスキマから見た細い空は、にわかに陰り始めている。
屋敷から放り出されたのは、たしか昼を過ぎた頃合いだった。あれから、そんなに時間が経っていたんだろうか。
幸い、この体はロクな服が着られない代わりに、寒暖はゆるやかにしか感じなかった。
寒さで凍える心配もないし、睡眠と食事の確保も必要ないから、夜にいろいろ動いた方がいいのかもしれない。
(いや……この恰好でウロウロしてたら、それこそ娼婦と勘違いされるかも……)
うーん、万事休す。
どうしようかなぁ、と悩みつつ、テルペロン鳥をギュッと抱きしめる。
神鳥と呼ばれるだけはあり、羽はフワフワとしてとても手触りがいい。
ヒマを持て余すがまま、むにむにと撫でていると、わずかにテルペロン鳥が身じろぎした。
「あ……起こしちゃいました?」
『…………』
もしやと思って声をかけるが、テルペロン鳥は無言だ。
ただ、撫でられて反応しただけか、とホッと安心していると、
『……母上……姉上……』
と、かすかな声が聞こえてきた。
『……わし、は……わたし、は……』
寝言、なのだろうか。
ぼそぼそと、聞きとりにくい小さな声だ。
『……待って……まだ、力が、足りない……』
「……テルペロン、様?」
『……まだ……置いて、いかない、で……』
ぱた、ぱた、と羽が動いたかと思えば、ぱたり、と再び静かになる。
そのまま無言で羽を撫でてみるが、神鳥はもう、なにも発せず、スゥスゥと眠りについている。
(……神鳥は、一世代でつながっていく……って、言ってなかったっけ……?)
前の鳥が死ぬときに、卵を産む。
そして、知識を共有して生きていく。
以前、テルペロン鳥から聞いた話ではそうだった。
ならば、姉がいるというのは、おかしいのではないか。
そのまま無言で羽を撫でてみるが、神鳥はもう、なにも発せず、スゥスゥと眠りについている。
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