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終
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画家の義理の弟:
ん、インタビューは終わったのかな。
義兄さん、変わってるでしょう?
君の課題にうまく沿わなかったんじゃ……えっ、そんなことない?
そう……なら、いいんだけどね。
ああ……そう、聞いたんだね、姉さんが死んだこと。
そうだよ。義兄さんは、その現場に居合わせたんだ。
……え? ああ……そうだよね。
ううん、大丈夫。そう思うのも当然だし。
義兄さんが……あの人が、殺したんじゃないか、ってことでしょう。
勿論疑ったし、警察に疑われてもいたよ。
記憶を失ったっていうのは方便で、
自作自演の犯人なんじゃないかって。
今でも、完全に容疑は晴れたわけじゃないけれど、
現場のいろんな状況から考えて、
他に犯人がいる、っていうのが警察の見解らしいんだ。
そうして……捜査が暗礁に乗り始めた頃から、かな。
あの人が……絵を、描き始めたのは。
真っ暗闇にポツリと浮かぶ、まんまるな黄色の円。
そんな月の絵を、何度も、何度も。
……僕はね、義兄さんは犯人じゃないと思ってる。
あの人が描いているのは、消えてしまった記憶の一部、
殺人事件の当日の、なにかしらの記憶の欠片なんだろう。
義兄さんに聞いても、
「わからない」としか返ってこないんだけれど、
僕は……ぜったいにそうだ、と信じてるんだ。
あっ……ごめんね、君にこんな話をしてしまって。
えっ? 義兄さんの友だち?
あの人、ずいぶんと義兄さんと仲がいいみたいでね、
よく見舞いに来てくれるんだよ。それも、毎日のように。
ちょっとぶっきらぼうだけど、いい人だよね。
僕もちょっと、挨拶をしてこようかな。
さて……ん? 君、その胸ポケット……。
妙に膨らんでいるけど、なにか入ってる?
へぇ……茶色い金貨?
珍しいね、どうしたの、それ。
ああ、あの義兄の友だちに?
でもそれ……とても使えないよね。こんな汚れてたら。
いや……汚れじゃないな、これ。
ちょっと焦げてる……? まさか、これ、って……。
あっ……ううん、ごめんごめん。
大丈夫だよ、なんでもないから。ほんとに。
そういえば……君、画家を目指しているんだっけ?
そっか……君ならきっと、いい絵描きになれるよ。
学生:
えっ……あ、えぇと……ボクは、その。
ちょっと前に……あの、画家さんを取材させて頂いた、大学生です。
はい、確かにあの日……画家さんとそのご友人、
それに……義弟さんとも、お話しました。
でも……それ以上のことは、何も。
本当です! だから、あの……。
画家さんの弟さんが……ご友人の方を殺してしまったなんて、
ほんと、今日まで知らなかったんです……!
動機……? そんな、ボクには何も……。
だって、義弟さんは「ぶっきらぼうだけどいい人」って、
あの人のことを話していましたし。
なんでも、義兄さんが事件に巻き込まれてから、
ご友人の方は頻繁に見舞いに来ていた、って言っていましたから。
はい……事件のことは、少しだけ。
えっ……そ、そんな凄惨な、現場だったんですか……?
殴られた上で、火を……?
黒焦げで、いつ亡くなったかもわからない状態って……。
よく……画家さんは生きていましたね。
ああ……運よく救助が間に合ったんですか。
でも……ショックで、記憶が。
それは……ずいぶん、辛い事件だったんですね……。
でも、それと義弟さんがご友人を殺したことに、
なにか関連があるんですか?
えっ……じ、自殺!?
遺書を捜している最中だと……そ、そんな。
…………。
あ……す、すみません、ちょっとその、ショックで。
あ……そうだ。
あの……画家さんは今、どうしているんですか?
ご友人が亡くなって、義理の弟さんまでいなくなって、
今もずっと独りで、月を描き続けているんでしょうか。
えっ……描かない?
めっきり筆をとらなくなってしまった?
そんな……オオカミ男の……オオカミ男の、
魔法でも解けてしまったんでしょうか……。
あっ……いいえ。
なんでも……なんでも、ありません。
画家:
ああ……君かい。
よく来てくれましたね……うん、そうなんです。
すっかり、絵を描く気力がなくなってしまってね。
記憶? ううん、まだ戻っていないんです。
でも……ああ、君も聞いたんですね。
そう、義理の弟が……彼を、友人を殺したって。
遺書によるとね……友人が、
私の妻と子どもを殺した犯人だっていうんです。
頻繁に見舞いに来ていたのは、
私を殺す機会をうかがっていたらしい、と。
君のお陰で、それがわかったと書かれていましたよ。
それで……お礼を伝えてほしい、と。
ああ、絵……か。
どうしてかな。……もう、私の中に月の残骸は見当たらないんです。
あれだけ心の内に潜んでいた憎悪も、苦悩も、
まるで初めから存在しなかったかのように、消えうせてしまいました。
……オオカミ男は死んでしまった。
もう……二度と戻っては来ないんでしょう。
ん、インタビューは終わったのかな。
義兄さん、変わってるでしょう?
君の課題にうまく沿わなかったんじゃ……えっ、そんなことない?
そう……なら、いいんだけどね。
ああ……そう、聞いたんだね、姉さんが死んだこと。
そうだよ。義兄さんは、その現場に居合わせたんだ。
……え? ああ……そうだよね。
ううん、大丈夫。そう思うのも当然だし。
義兄さんが……あの人が、殺したんじゃないか、ってことでしょう。
勿論疑ったし、警察に疑われてもいたよ。
記憶を失ったっていうのは方便で、
自作自演の犯人なんじゃないかって。
今でも、完全に容疑は晴れたわけじゃないけれど、
現場のいろんな状況から考えて、
他に犯人がいる、っていうのが警察の見解らしいんだ。
そうして……捜査が暗礁に乗り始めた頃から、かな。
あの人が……絵を、描き始めたのは。
真っ暗闇にポツリと浮かぶ、まんまるな黄色の円。
そんな月の絵を、何度も、何度も。
……僕はね、義兄さんは犯人じゃないと思ってる。
あの人が描いているのは、消えてしまった記憶の一部、
殺人事件の当日の、なにかしらの記憶の欠片なんだろう。
義兄さんに聞いても、
「わからない」としか返ってこないんだけれど、
僕は……ぜったいにそうだ、と信じてるんだ。
あっ……ごめんね、君にこんな話をしてしまって。
えっ? 義兄さんの友だち?
あの人、ずいぶんと義兄さんと仲がいいみたいでね、
よく見舞いに来てくれるんだよ。それも、毎日のように。
ちょっとぶっきらぼうだけど、いい人だよね。
僕もちょっと、挨拶をしてこようかな。
さて……ん? 君、その胸ポケット……。
妙に膨らんでいるけど、なにか入ってる?
へぇ……茶色い金貨?
珍しいね、どうしたの、それ。
ああ、あの義兄の友だちに?
でもそれ……とても使えないよね。こんな汚れてたら。
いや……汚れじゃないな、これ。
ちょっと焦げてる……? まさか、これ、って……。
あっ……ううん、ごめんごめん。
大丈夫だよ、なんでもないから。ほんとに。
そういえば……君、画家を目指しているんだっけ?
そっか……君ならきっと、いい絵描きになれるよ。
学生:
えっ……あ、えぇと……ボクは、その。
ちょっと前に……あの、画家さんを取材させて頂いた、大学生です。
はい、確かにあの日……画家さんとそのご友人、
それに……義弟さんとも、お話しました。
でも……それ以上のことは、何も。
本当です! だから、あの……。
画家さんの弟さんが……ご友人の方を殺してしまったなんて、
ほんと、今日まで知らなかったんです……!
動機……? そんな、ボクには何も……。
だって、義弟さんは「ぶっきらぼうだけどいい人」って、
あの人のことを話していましたし。
なんでも、義兄さんが事件に巻き込まれてから、
ご友人の方は頻繁に見舞いに来ていた、って言っていましたから。
はい……事件のことは、少しだけ。
えっ……そ、そんな凄惨な、現場だったんですか……?
殴られた上で、火を……?
黒焦げで、いつ亡くなったかもわからない状態って……。
よく……画家さんは生きていましたね。
ああ……運よく救助が間に合ったんですか。
でも……ショックで、記憶が。
それは……ずいぶん、辛い事件だったんですね……。
でも、それと義弟さんがご友人を殺したことに、
なにか関連があるんですか?
えっ……じ、自殺!?
遺書を捜している最中だと……そ、そんな。
…………。
あ……す、すみません、ちょっとその、ショックで。
あ……そうだ。
あの……画家さんは今、どうしているんですか?
ご友人が亡くなって、義理の弟さんまでいなくなって、
今もずっと独りで、月を描き続けているんでしょうか。
えっ……描かない?
めっきり筆をとらなくなってしまった?
そんな……オオカミ男の……オオカミ男の、
魔法でも解けてしまったんでしょうか……。
あっ……いいえ。
なんでも……なんでも、ありません。
画家:
ああ……君かい。
よく来てくれましたね……うん、そうなんです。
すっかり、絵を描く気力がなくなってしまってね。
記憶? ううん、まだ戻っていないんです。
でも……ああ、君も聞いたんですね。
そう、義理の弟が……彼を、友人を殺したって。
遺書によるとね……友人が、
私の妻と子どもを殺した犯人だっていうんです。
頻繁に見舞いに来ていたのは、
私を殺す機会をうかがっていたらしい、と。
君のお陰で、それがわかったと書かれていましたよ。
それで……お礼を伝えてほしい、と。
ああ、絵……か。
どうしてかな。……もう、私の中に月の残骸は見当たらないんです。
あれだけ心の内に潜んでいた憎悪も、苦悩も、
まるで初めから存在しなかったかのように、消えうせてしまいました。
……オオカミ男は死んでしまった。
もう……二度と戻っては来ないんでしょう。
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