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4.23時20分の光①(怖さレベル:★★☆)

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(怖さレベル:★★☆:ふつうに怖い話)


ああ、どうも。
うちの妙な現象のコトを聞いて下さるそうですね。

まったく、どうしてあんなことが起きているのか……
ボクには霊感なんてさっぱり無いもんだと思っていたんですがね。

相談できる相手もロクにいなかったもんで、
助かりましたよ。

というのも、まァ、
年も50才を過ぎた一人もんとくれば、
小さなアパートの一室で自由気ままに暮らしているわけです。

工場に勤めて、夜の七時にはうちへ帰って、
ゲームしたりテレビを見たり、と一般的なモンですよ。

そんなある種、代わり映えしない日々の中、
フッとある日、その妙なモンに気づいたんです。

それは、夜。

ある時間になると、
フッと白い光が窓に映るというもんです。

それも、
キッカリ毎日。

23時20分。

なにせほんの一瞬ですし、
大きさはだいたい握りこぶしくらい。

始めは道を通る車のライトかなにかの反射だと思ってたんですよ。

しかし、それも連日ともなってくれば、
さすがにおかしいと気付きました。

毎日、時間までおんなじとくれば、
近所のガキのイタズラかなにかじゃないか。

もしそうなら、
その正体を暴いてやろうじゃないか、
なんて考えたりして。

単調で、
何もない毎日にどこか飽いていたのかもしれませんね。



そしてその日、
いつもの窓の前でカーテンを全開にして、
予定時間の五分前から、
家の中で今か今かと待っていました。

時間になったら、
こっちから窓を開けて驚かしてやろうと思っていたのです。

23時17分、
18分、
19分――。

時間です。

「……うわっ」

目前で閃光のように光ったそれに、
思わず尻餅をついてしまいました。

その、
光った瞬間。

それは、
ほんの一瞬でありますが、

人の形そのものに見えたのです。

「んな……」

子どものイタズラにしては、
その映った人影は細すぎるような感じがしました。

まさか、幽霊?

オカルト系の現象とは考えていなかった私は、
大いに怯えました。

このアパートに引っ越してきて早二十年、
今までそんな心霊現象などとは無縁な日々を送っていたのです。

慌ててカーテンを閉めたボクは、
その晩、
見間違いかもしれないと自分をなぐさめながらも、
一睡もすることはできませんでした。

しかし、そんな怪奇現象のことを相談できるような
友人はボクにはおりません。

かといって、
会社の同僚にそんなコトを言うのは
はばかられます。

考えたあげく、私はインターネット上の掲示板で、
そのことを相談することにしました。

おおかたの反応は、
ある意味予想通りで、
デタラメだの妄想だのとなじられており、
嘘でないならば証拠を出せと書き連ねてありました。

それを見て、

ああなるほど、
証拠があればいいのだな。

と安易にボクは考え、
例の白い光を撮影してやろうと思ったのです。

そしてその日、
前日と同じく窓辺で時間前に待機し、
デジカメを動画モードにして、件の現象を待ち受けました。

23時17分、
18分、
19分――。

ピコン……ピッ。

「ひぃ……っ」

眩いそれに後ずさりしつつも、
動画自体は無事に撮影が完了しました。

急いでカーテンを閉め、
深呼吸して心臓の鼓動を落ち着けます。

やはり、
例の光は今日も人型のように思えました。

撮影した動画をすぐ確認するかどうか悩み、
しかしどうせ気になって眠れないだろうからと、
覚悟を決めて再生することにしたのです。

ピコン……ピッ。

ほんの一瞬のその光は、
バッチリ撮影されています。

「ん?」

まじまじとそれを見ると、
その人影にどこか既視感を覚えました。

こわごわと、
もう一度再生ボタンを押します。

ピコン……ピッ。

「……あれ?」

その光は、しっかり見れば
横を向いて少々うつむき加減な老人の姿に見えました。

ピコン……ピッ。

「あっ」

三度目の再生で、
ようやく合点がいきました。

この横を向いた人影。

腰の僅かに曲がったやせ型のその姿は、
同じアパートの上の階に住んでいる老婆の姿にそっくりなのです。

「なんであのバァさんが……」

と、
そこまで口に出してハッとしました。

ボクは日中仕事で不在にしてはいるものの、
今までであれば朝や夜にはそれなりに上から物音がしていたはずです。

なのに、そういえばここ最近、
妙に上が静かで、
もしかして里帰りか旅行にでも出ているんではないか、
なんて考えていたところだったのです。

まさか、
――まさか?

思わず部屋から飛び出し、
夜の11時過ぎであることも忘れて、
上の老婆の部屋を目指して駆け上がりました。

「バァさん! バァさん起きてるか!?」

ドンドンと激しく扉を殴打しますが、
まったく何の反応もありません。

「オイオイ……」

本当になにかあったのなら大ごとです。
勝手に扉を開けて良いものか躊躇していると、

「あれ? 103号室の。どうされました?」

と、そこにバァさんの二つ隣の角部屋に
住んでいる大家の弟さんが、
パジャマ姿で顔を出しました。

なんでも、あまりに鬼気迫る叫び声が聞こえたので、
気になって出てきたそうで。

申し訳なく思いつつ、
事情を例の光の部分だけ切り取って伝えました。

「ああ、言われてみれば……あのおばちゃん、
 無愛想でいっつも引きこもってるからな……ちょっと兄さんに聞いてみます」

男性は兄の大家にこころよく確認をとってくれました。

「ああ……そう。
 え、確認したほうがいい? ん……わかった」

通話を終えた彼は、
少々困ったような表情を浮かべて、

「あの……カギが開いてたら、中を見てほしいって言われたので……
 申し訳ないんですが、いっしょに見てもらってもいいですか」
「あ、ええ……わかりました」

なにせ、自分が原因のようなものです。

弟さんの言葉にすぐさま頷き、
老婆の部屋のドアの前に揃って立ちました。

「あの……その、
 万が一のコトがあったら……すぐ警察呼びますので」

どこか諦めたような笑みと共に、
彼はそっとノブに手をかけます。


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