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12.黄色いお守りと青黒い何か②(怖さレベル:★☆☆)
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「良かったぁ。お母さん、
本気で怒ってるんだもん」
一安心という声で、
彼女がそれを拾おうと階段を駆け上がった時です。
――ズリッ。
長いものが引きずられるような、
鈍い音。
それとともに、
ボウっと現れた青黒い影が彼女の足をすくいました。
「え?」
彼女の振り返った目が、
驚愕に大きく見開かれ、
浮かされた足が、
ツルリと段差を滑り――、
「危ない!!」
まさに間一髪。
とっさに伸ばした腕が彼女の手を掴み、
落下するのをすんでのところで留めたのです。
「わっ、あ、ありがとー、みぃちゃん」
「あ、アヤコちゃん、さっきの影……」
「え、影?」
私はあの青黒いなにかのことを口に出しましたが、
彼女は気づかなかったらしく、
逆に首を傾げられてしまいました。
「いや、やっぱなんでもない……お守りもって、帰ろうか」
「そーだね。あー、危なかったぁ」
くったくなく笑う彼女はさきほどの危機など
まるで気にせぬかのようです。
私はアヤコちゃんを急かすようにして、
学校の校門前に戻りました。
「お母さん、お待たせー」
「はいはい、まったく……ごめんね、みぃちゃん、
つき合わせちゃって……家まで送ってこうか」
「あ、いえ……今日、塾があるんです」
「あら、そうだったの。じゃあ、また明日ね。
ほら、アヤコもバイバイしなさい」
「みぃちゃん、バイバーイ!」
助手席から大きく手を振る彼女に別れを告げ、
じゃあ塾へ向かおうかとため息をついた私の視線の先に、
妙なものが映りました。
たった今車が走り去ったその位置に、
なにか黄色いものが落ちているのです。
「……えっ」
拾い上げれば、それはさきほど
友人が確かに持っていたはずの、
あのお守りでした。
私はゾッとして、
慌てて彼女たちの車を探しましたが、
すでに走り去った後、
まったく姿が見当たりません。
ならばと例の子ども用携帯で
彼女の方へ連絡を入れると、
2コールほどしてプツッとつながる音がしました。
『もしもーし、みぃちゃん、どしたー?』
のんびりと気を抜いた声を出す彼女に、
私は慌てて尋ねました。
「あ、アヤコちゃん、お守り忘れたでしょ!」
『え? そんなわけないよ。
だってたしかにランドセルに……え、ウソ』
ここにきて、
初めて彼女の声に恐怖が混じりました。
『ぜったいに入れたのに……どうして……?』
『アヤコ、なにランドセルがちゃがちゃしてるの』
遠くから、
彼女の母の声も聞こえてきます。
『お、お母さ……ラン……ま……り……』
「あ、アヤコちゃん?!」
突然、電波が途切れるかのように
声が断線し始めたのです。
『みぃ……おかし……どう……』
「もしもし? もしもし!」
彼女の戸惑っている気配だけが伝わってきて、
私は両手で携帯を持ち、
必死に彼女に呼びかけようとしましたが、
『――ズリッ』
あの、
何かを引きずるような鈍い音。
と共に。
『ドガッシャァン!! ……プツッ』
「あ、アヤコちゃん!? もしもし!?」
爆音が鼓膜を直撃し、
電話は唐突に切れてしまいました。
と同時に、
遠くからモクモクと黒煙が立ち上るのが見えたのです。
「ま……さか……」
私は血の気の引く感覚を覚えながら、
その煙の方へと向かいました。
現場は――その現場の有様は、
ひどいものでした。
車のボディは見る影もなくひしゃげ、
ぶつかったと思われる電柱が折れて、
車体を真っ二つに引き裂いています。
中にいるはずの二人の姿は見えぬものの、
その様相は嫌な想像を決定的に裏付けてしまったのです。
周辺は集まった野次馬たちによって人垣ができていて、
その隙間に目に入ったその光景は、
今でも決して忘れられません。
運転操作を誤り、
全身を強くうち、死亡。
それが彼女たちの死因です。
お葬式では、
棺の中はついぞ見せてもらえませんでした。
そして、おの葬儀の時に知ったのですが、
例の彼女のいとこのゆっくんというヤンチャ坊主も、
すでに亡くなっていたのだそうです。
それも、
なんと齢九つにして自殺。
爪でのどを掻きむしってという、
壮絶な最期を遂げたのだそうです。
彼女たちは自爆事故として処理され、
私はかけがえのない友人を一人失いました。
あの時の黄色いお守りは、
彼女の妹たちにお返ししようとしましたが、
それは私に持っていてほしいといわれ、
譲り受けることになりました。
あれから二年たち、
五年が過ぎても、
彼女たち一家にそれ以上不幸は起きていません。
二人の犠牲で納得したのか。
それとも、未だ虎視眈々と彼女の一家を
狙っているのでしょうか。
あの、青黒い影――。
あれが諸悪の根源なのでしょう。
なぜ、まだ残っている長男一家ではなく、
分家の三男の子どもである彼女が狙われてしまったのか。
そのうえ、嫁入りした彼女の母までも
道連れにされてしまったのか。
今となっては、なにもわかりません。
が――。
そのゆっくんという、
害を与えて怒らせた当人はともかく、
なんの罪もない友人を奪った、
その神とも呼べぬ化け物。
友人を奪ったその化け物に、
私はいつか復讐するつもりです。
向こうが危害を加えられるのに、
こっちができないなんて考えられませんから。
この黄色いお守りにかけて、
……いつか、必ず。
ぜったいに、
許すつもりはありません。
本気で怒ってるんだもん」
一安心という声で、
彼女がそれを拾おうと階段を駆け上がった時です。
――ズリッ。
長いものが引きずられるような、
鈍い音。
それとともに、
ボウっと現れた青黒い影が彼女の足をすくいました。
「え?」
彼女の振り返った目が、
驚愕に大きく見開かれ、
浮かされた足が、
ツルリと段差を滑り――、
「危ない!!」
まさに間一髪。
とっさに伸ばした腕が彼女の手を掴み、
落下するのをすんでのところで留めたのです。
「わっ、あ、ありがとー、みぃちゃん」
「あ、アヤコちゃん、さっきの影……」
「え、影?」
私はあの青黒いなにかのことを口に出しましたが、
彼女は気づかなかったらしく、
逆に首を傾げられてしまいました。
「いや、やっぱなんでもない……お守りもって、帰ろうか」
「そーだね。あー、危なかったぁ」
くったくなく笑う彼女はさきほどの危機など
まるで気にせぬかのようです。
私はアヤコちゃんを急かすようにして、
学校の校門前に戻りました。
「お母さん、お待たせー」
「はいはい、まったく……ごめんね、みぃちゃん、
つき合わせちゃって……家まで送ってこうか」
「あ、いえ……今日、塾があるんです」
「あら、そうだったの。じゃあ、また明日ね。
ほら、アヤコもバイバイしなさい」
「みぃちゃん、バイバーイ!」
助手席から大きく手を振る彼女に別れを告げ、
じゃあ塾へ向かおうかとため息をついた私の視線の先に、
妙なものが映りました。
たった今車が走り去ったその位置に、
なにか黄色いものが落ちているのです。
「……えっ」
拾い上げれば、それはさきほど
友人が確かに持っていたはずの、
あのお守りでした。
私はゾッとして、
慌てて彼女たちの車を探しましたが、
すでに走り去った後、
まったく姿が見当たりません。
ならばと例の子ども用携帯で
彼女の方へ連絡を入れると、
2コールほどしてプツッとつながる音がしました。
『もしもーし、みぃちゃん、どしたー?』
のんびりと気を抜いた声を出す彼女に、
私は慌てて尋ねました。
「あ、アヤコちゃん、お守り忘れたでしょ!」
『え? そんなわけないよ。
だってたしかにランドセルに……え、ウソ』
ここにきて、
初めて彼女の声に恐怖が混じりました。
『ぜったいに入れたのに……どうして……?』
『アヤコ、なにランドセルがちゃがちゃしてるの』
遠くから、
彼女の母の声も聞こえてきます。
『お、お母さ……ラン……ま……り……』
「あ、アヤコちゃん?!」
突然、電波が途切れるかのように
声が断線し始めたのです。
『みぃ……おかし……どう……』
「もしもし? もしもし!」
彼女の戸惑っている気配だけが伝わってきて、
私は両手で携帯を持ち、
必死に彼女に呼びかけようとしましたが、
『――ズリッ』
あの、
何かを引きずるような鈍い音。
と共に。
『ドガッシャァン!! ……プツッ』
「あ、アヤコちゃん!? もしもし!?」
爆音が鼓膜を直撃し、
電話は唐突に切れてしまいました。
と同時に、
遠くからモクモクと黒煙が立ち上るのが見えたのです。
「ま……さか……」
私は血の気の引く感覚を覚えながら、
その煙の方へと向かいました。
現場は――その現場の有様は、
ひどいものでした。
車のボディは見る影もなくひしゃげ、
ぶつかったと思われる電柱が折れて、
車体を真っ二つに引き裂いています。
中にいるはずの二人の姿は見えぬものの、
その様相は嫌な想像を決定的に裏付けてしまったのです。
周辺は集まった野次馬たちによって人垣ができていて、
その隙間に目に入ったその光景は、
今でも決して忘れられません。
運転操作を誤り、
全身を強くうち、死亡。
それが彼女たちの死因です。
お葬式では、
棺の中はついぞ見せてもらえませんでした。
そして、おの葬儀の時に知ったのですが、
例の彼女のいとこのゆっくんというヤンチャ坊主も、
すでに亡くなっていたのだそうです。
それも、
なんと齢九つにして自殺。
爪でのどを掻きむしってという、
壮絶な最期を遂げたのだそうです。
彼女たちは自爆事故として処理され、
私はかけがえのない友人を一人失いました。
あの時の黄色いお守りは、
彼女の妹たちにお返ししようとしましたが、
それは私に持っていてほしいといわれ、
譲り受けることになりました。
あれから二年たち、
五年が過ぎても、
彼女たち一家にそれ以上不幸は起きていません。
二人の犠牲で納得したのか。
それとも、未だ虎視眈々と彼女の一家を
狙っているのでしょうか。
あの、青黒い影――。
あれが諸悪の根源なのでしょう。
なぜ、まだ残っている長男一家ではなく、
分家の三男の子どもである彼女が狙われてしまったのか。
そのうえ、嫁入りした彼女の母までも
道連れにされてしまったのか。
今となっては、なにもわかりません。
が――。
そのゆっくんという、
害を与えて怒らせた当人はともかく、
なんの罪もない友人を奪った、
その神とも呼べぬ化け物。
友人を奪ったその化け物に、
私はいつか復讐するつもりです。
向こうが危害を加えられるのに、
こっちができないなんて考えられませんから。
この黄色いお守りにかけて、
……いつか、必ず。
ぜったいに、
許すつもりはありません。
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