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12.黄色いお守りと青黒い何か①(怖さレベル:★☆☆)

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(怖さレベル:★☆☆:微ホラー・ほんのり程度)
『10代女性 三好さん(仮名)』

私は昔、
とても仲の良かった友人を一人、
亡くしています。

そう、アレは事故として
処理されてしまいました。

でも……
けっしてアレはただの事故なんかではなかったのです。


その出来事があったのは、
私がまだ小学校六年生の時でした。

その子、アヤコちゃんは、
私のうちから徒歩三分足らずの
場所に住んでいる、いわゆるご近所さんでした。

小学校入学前に引っ越してきた私にとって、
同年代では初めて出来た友だちです。

学校帰り、休日ともに、
互いの家を行き来することも多く、
まさに親友と呼べるような間柄でありました。

その日も、友人ともども彼女の家にお邪魔して、
家庭用ゲーム機で遊んでいる時でした。

いつもニコニコと穏やかな彼女の母が、
尋常でないほど険しい表情を浮かべて部屋に入ってきたのです。

「アヤコ、ちょっと」

そして、
彼女を呼んで連れて行ってしまったのです。

アヤコちゃんはいわゆる美少女というやつで、
幼い頃から変なストーカーや、
付きまといの被害に合うことが多く、
今回もそれに関してのなにかなのだろう、と
私は深く考えませんでした。

一人残されはしましたが、
六年も互いのうちを行き来していれば
勝手知ったるなんとやら、という感じで、
のんびりとゲームの続きに勤しんでいたのです。

しかし、
一時間たち、二時間たって私の帰宅時間になっても、
いっこうに二人は姿を見せません。

かといって、いくらなんでも
なんの挨拶もなしに帰ってしまうのも悪いなぁ、
なんて時計をチラチラ確認していると、

「みぃちゃん、ごめんね」

彼女の母がようやく姿を見せたのです。

「あれ、アヤコちゃんは?」

しかし、そこに友人の姿はありません。

「アヤコはちょっと……大事な用ができちゃってね。
 送っていくから、帰ろうか」

口ごもる彼女の母に詳しく尋ねたいという気持ちはあったものの、
明日になれば学校で会えるしと、
あまり気にもせずにその日は帰宅したのです。


が、しかし。

彼女は翌日、
学校に来ませんでした。

先生が言うには”家の都合”だとかで、
しばらくの間お休みするのだというのです。

私は昨日のあの彼女の母の怒りとも悲しみともいえぬ
暗い表情を思い出し、どことなく不安な気持ちになりました。

学校が終わってもどうにも気になって、
彼女の家へ電話しても、
呼び出し音が鳴るばかりで応答はありません。

ならばと、六年生になってようやく
買ってもらった彼女とおそろいのこども用ケータイで
アヤコちゃんに電話をしても、
やっぱりつながることはありませんでした。


やきもきしつつ、一週間後。

彼女は憔悴した顔で、
午後から学校へ出てきたのです。

「どうしたの? すっごい心配したんだから!」

放課後になって話しかける時間ができたので、
いきまいてそう尋ねれば、
彼女は休み明けとは思えぬ疲れ切った声で、

「ちょっと親戚んちでいろいろあってさぁ……」

と、その詳細を語ってくれたんです。

なんでも、彼女の本家はこの県とは別の、
北陸地方にあるそうなのですが、

あの日、
その本家から呼び出しがあったのだそうです。

彼女の父は三男坊で、
いわゆる分家。

長男が本家の跡を継ぎ、次男も地元で結婚して
それぞれ子どもをもうけているのですが、
なんでも、その子どもたちが事件を起こしてしまったのだというのです。

「いとこが悪さしたらしいんだよね……本家で祀ってる神様に」

長男には子どもが三人いて、女・男・男の姉弟なのですが、
その一番末っ子がかなりのヤンチャ坊主だそうで。

本家の大きな庭に飾ってあるそのご神体に、
悪さをしてしまったらしいのです。

「なんか、よくわかんないんだけど、
 うちのご先祖様が、がんばって沈めた神様だとかで……
 血筋がおんなじあたしたちも危ないんだって」

彼女もまた三姉妹の長女。
父と妹たちとともに、
本家に訪れたのだというのです。

「三日三晩、お寺ん中で読経と、写経っていうのをやらされて、
 ご飯なんて葉っぱとか芋とかばっか。せっかく学校休めるーって思ったのに、
 すっごくつまんなかった!」

そう苦笑いする彼女はいつもと変わりなく、
私はホッと安心して胸をなでおろしました。

「あと、しばらくお母さんが送り迎えだって。
 みぃちゃんといっしょに帰れないの、つまんないなー」

小学校六年で、親が送り迎えしてくれることなど
めったにありません。

特にうちは両親共働きで、
家には誰もいないのが当たり前だったので、
ちょっとうらやましく思ったものです。

「ねえねえ、アヤコちゃんちで祀ってるのってなんなの?」
「んーとね……なんか、ウロコがいっぱいついてる神様だって!」
「ウロコ……魚?」
「よくわかんないけど、いとこのゆっくん、
 その神様祀ってる祠にサッカーボールぶっつけたんだってー」

今思い返せばたいそうバチあたりですが、
小学校の私たちは、そんなコトで祟られるというのが理解できず、
笑い話のように語らっていました。

「そのゆっくんって子、大丈夫なの?」
「んー、こないだは会えなかったから。
 たぶん、叱られてどっか閉じ込められてるんじゃないかなぁ」

なんて、彼女の母の迎えを待つ間、
校門前でぐだぐだと話し込んでいると、
パッパッとクラクションが鳴らされました。

「アヤコ、お守り失くしてない?」

車の窓から顔を覗かせた彼女の母は、
いつものおだやかな表情で声をかけてきました。

お守り? と私が疑問に思っていると、

「もちろん、持ってるよー……って、アレ?」

ランドセルの中をゴソゴソと探っているアヤコちゃんに、
彼女の母の表情が鬼面に変わりました。

「アヤコ! まさかホントに失くしたんじゃないでしょうね!」
「もー、たぶん教室に置いてきただけだってば。
 ちょっと取りに行ってくる」

両手で耳をふさぐように渋面をさらした彼女は、
拗ねた声でそんなことを言いながら校舎に戻っていきます。

「あ、アヤコちゃん、私も行く!」
「えー、みぃちゃんいいの? ありがと!」

拗ねた彼女の顔が笑顔に変わって、
私もホッとしながら後をついて下駄箱を通り過ぎます。

「んー……机の中に入れたっけなぁ」

首をひねりながら階段を上がる彼女に、
お守りとは何かを聞くと、

「お寺でもらったんだー。
 なんか、守ってくれる大事なものなんだってー」

と内容に反してかなり軽い調子で言うのです

私は大丈夫なんだろうかと不安に思ったものの、
彼女本人がへっちゃらな顔をしているので、
深く考えませんでした。

夕焼けに照らされる朱の校舎の中、
六年の教室のある四階の階段にさしかかったときです。

「あ、あれ!」

彼女の指さしたその先、
階段の一番上の踊り場に、
黄色いお守りが落ちていたのです。

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