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21.秋祭りのお面③(怖さレベル:★★★)
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「オイ、お前、どっから」
「はぁ? トイレ行くっつったろ。
もう駐車場ついてるかと思って走って追っかけてきたんだよ!
でも、こんなトコで油売ってるなんてなぁ」
そう呆れたようにため息をつく宮田は、
とてもウソをついているようには見えません。
「え……だってお前、さっきからそっちに」
「ハァ?」
慌てて仮面の消えた曲がり角を覗くも、
その道の先は、
ただの行き止まりでしかありませんでした。
「え……じゃ……さっきの……」
「オイオイ、どーしたんだよ」
キョトンとした表情を浮かべた宮田が、
同じように曲がり角の先を覗いています。
「……なあ宮田。さっきの……
姪っ子に買ってやったっていうお面、もってるか?」
「お面? ああ、あるけど」
ヒョイ、と差し出された紙袋を検分するも、
当然ながら、開封した様子はありませんでした。
それでは、
さっきのは?
「――さっさと帰るぞ」
「ん? おう」
イヤな汗が流れるのを感じつつ、
オレは慌てて車に乗り込んで帰途につきました。
「つーか、マジでなにがあったんだよ」
助手席に乗った宮田が、
不満たらたらの顔で問いかけてきました。
さきほどから何を話しかけられても生返事ばかりのこちらに、
疑問が増すばかりだったのでしょう。
「あー……信じてもらえるか、わからねぇけど。
……変なモン、見ちまって」
夜の道路は祭りの帰り客か、
それなりに車の台数が出ています。
左車線でゆっくり走行しながら、
さきほどのできごとを話して聞かせれば、
「……あー……変質者、だよな、ふつうに考えれば」
と、宮田は腕を組んで難しい表情で呻きました。
「まぁ、そうだろうな。でも……
なにが目的だったんだろうな。強盗でもしようとしたのかな」
「……なぁ、幽霊って可能性もあるんじゃねぇか」
と、宮田は重い表情で、
考えたくなかった一言を言い放ちました。
「キャラもんの仮面をつけた幽霊、か?」
「いや、だからさ……お前、そいつのことオレかと思ったんだろ?
……オレがあんとき声かけなきゃ、
あの行き止まりの中に連れてかれたんじゃねぇか」
道路のネオンがキラキラと通り過ぎていきます。
冷えた夜道は、どこか不気味に
ゾワゾワと背筋を撫でていきました。
「い……いやいや、まさか」
「まあ……わかんねぇけどさ。
無事に帰ってこられたんだし、あんま気にすんなよ」
結局お互いに、これから酒盛りをする気にもなれず、
解散することに話がまとまりました。
しばらく沈黙のまま車を走らせ、
キキッ、と宮田の家の前に着けました。
「今日はありがとな、んじゃまた、会社で」
「ああ、気をつけてな」
家の中に消えていくヤツの姿を見送り、
詰めていた息を吐きました。
あのお面が幽霊だったかも、
なんてイヤなことを言ってくれたものです。
オレは現実逃避するようにブツブツと文句を呟きつつ、
車のギアをドライブへ切り替えました。
と、その時。
「ん?」
チラ、とバックミラーに光った何か。
うっすらと仄白いそれに、
子どもか、と目を凝らした瞬間、
血の気が引きました。
夜闇の中にぽっかり浮かぶ白い面。
「ウ、ソだ」
無意識で漏れた声は、ひどく薄っぺらく響いて、
ハンドルを持ったてのひらが冷や汗で震えます。
住宅街の道路。
電柱と街灯の立ち並ぶその下に浮かぶその面は、
重力をまったく無視して、
そこに存在しているのです。
まるで、
こちらにそれを知らしめるかのように。
『連れてかれたんじゃねぇか』
という、宮田の声が脳内で木霊しました。
アレの目的――
オレを、連れていくこと?
それに思い至った時、
ブワッと全身から汗が吹き出しました。
「……ッ」
オレは小刻みに揺れる身体を叱咤し、
パーキングからドライブにギアを代え、
慌ててその場を離れました。
(ついてくるな、ついてくるなよ……!)
心の中で念仏のようにひたすらくり返し、
わき目もふらずに一直線で自宅へと逃げ帰りました。
車庫に飛び込んで、
恐る恐る見たバックミラー。
「……はあ」
幸い、
何も映っていません。
心の底から安堵のため息が漏れました。
(連れていくつもりじゃ、なかったのか)
運転席で脱力した身体を横たえつつ、
オレは呆然とそんなことを思いました。
それから――
オレに、変なコトは起こっていません。
でも、その後……
後味の悪いオチがついてしまいまして。
アイツ……宮田。
あの可愛らしいお面、
姪っ子の為だって購入してましたよね。
……なんでもあの日、
その姪っ子、
亡くなっちまったらしいんですよ。
あの祭りの直前の時間、
車に轢かれて。
大好きなあのキャラクターグッズを
身に着けた、まま。
……今になって思うんですが。
あの時オレの前に現れたアレは、
本当にオレを連れていこうとしたんでしょうか。
アレは、遊んでほしいって子どもの、
小さなイタズラだったんじゃないか、
って今なら思うんです。
答えなんてどこにもないし、
もう決してわからないままでしょう。
でも……オレは、アレが
悪意のあるモノじゃなかったと。
ただの自己満足かもしれないけれど、
そう、思っています。
「はぁ? トイレ行くっつったろ。
もう駐車場ついてるかと思って走って追っかけてきたんだよ!
でも、こんなトコで油売ってるなんてなぁ」
そう呆れたようにため息をつく宮田は、
とてもウソをついているようには見えません。
「え……だってお前、さっきからそっちに」
「ハァ?」
慌てて仮面の消えた曲がり角を覗くも、
その道の先は、
ただの行き止まりでしかありませんでした。
「え……じゃ……さっきの……」
「オイオイ、どーしたんだよ」
キョトンとした表情を浮かべた宮田が、
同じように曲がり角の先を覗いています。
「……なあ宮田。さっきの……
姪っ子に買ってやったっていうお面、もってるか?」
「お面? ああ、あるけど」
ヒョイ、と差し出された紙袋を検分するも、
当然ながら、開封した様子はありませんでした。
それでは、
さっきのは?
「――さっさと帰るぞ」
「ん? おう」
イヤな汗が流れるのを感じつつ、
オレは慌てて車に乗り込んで帰途につきました。
「つーか、マジでなにがあったんだよ」
助手席に乗った宮田が、
不満たらたらの顔で問いかけてきました。
さきほどから何を話しかけられても生返事ばかりのこちらに、
疑問が増すばかりだったのでしょう。
「あー……信じてもらえるか、わからねぇけど。
……変なモン、見ちまって」
夜の道路は祭りの帰り客か、
それなりに車の台数が出ています。
左車線でゆっくり走行しながら、
さきほどのできごとを話して聞かせれば、
「……あー……変質者、だよな、ふつうに考えれば」
と、宮田は腕を組んで難しい表情で呻きました。
「まぁ、そうだろうな。でも……
なにが目的だったんだろうな。強盗でもしようとしたのかな」
「……なぁ、幽霊って可能性もあるんじゃねぇか」
と、宮田は重い表情で、
考えたくなかった一言を言い放ちました。
「キャラもんの仮面をつけた幽霊、か?」
「いや、だからさ……お前、そいつのことオレかと思ったんだろ?
……オレがあんとき声かけなきゃ、
あの行き止まりの中に連れてかれたんじゃねぇか」
道路のネオンがキラキラと通り過ぎていきます。
冷えた夜道は、どこか不気味に
ゾワゾワと背筋を撫でていきました。
「い……いやいや、まさか」
「まあ……わかんねぇけどさ。
無事に帰ってこられたんだし、あんま気にすんなよ」
結局お互いに、これから酒盛りをする気にもなれず、
解散することに話がまとまりました。
しばらく沈黙のまま車を走らせ、
キキッ、と宮田の家の前に着けました。
「今日はありがとな、んじゃまた、会社で」
「ああ、気をつけてな」
家の中に消えていくヤツの姿を見送り、
詰めていた息を吐きました。
あのお面が幽霊だったかも、
なんてイヤなことを言ってくれたものです。
オレは現実逃避するようにブツブツと文句を呟きつつ、
車のギアをドライブへ切り替えました。
と、その時。
「ん?」
チラ、とバックミラーに光った何か。
うっすらと仄白いそれに、
子どもか、と目を凝らした瞬間、
血の気が引きました。
夜闇の中にぽっかり浮かぶ白い面。
「ウ、ソだ」
無意識で漏れた声は、ひどく薄っぺらく響いて、
ハンドルを持ったてのひらが冷や汗で震えます。
住宅街の道路。
電柱と街灯の立ち並ぶその下に浮かぶその面は、
重力をまったく無視して、
そこに存在しているのです。
まるで、
こちらにそれを知らしめるかのように。
『連れてかれたんじゃねぇか』
という、宮田の声が脳内で木霊しました。
アレの目的――
オレを、連れていくこと?
それに思い至った時、
ブワッと全身から汗が吹き出しました。
「……ッ」
オレは小刻みに揺れる身体を叱咤し、
パーキングからドライブにギアを代え、
慌ててその場を離れました。
(ついてくるな、ついてくるなよ……!)
心の中で念仏のようにひたすらくり返し、
わき目もふらずに一直線で自宅へと逃げ帰りました。
車庫に飛び込んで、
恐る恐る見たバックミラー。
「……はあ」
幸い、
何も映っていません。
心の底から安堵のため息が漏れました。
(連れていくつもりじゃ、なかったのか)
運転席で脱力した身体を横たえつつ、
オレは呆然とそんなことを思いました。
それから――
オレに、変なコトは起こっていません。
でも、その後……
後味の悪いオチがついてしまいまして。
アイツ……宮田。
あの可愛らしいお面、
姪っ子の為だって購入してましたよね。
……なんでもあの日、
その姪っ子、
亡くなっちまったらしいんですよ。
あの祭りの直前の時間、
車に轢かれて。
大好きなあのキャラクターグッズを
身に着けた、まま。
……今になって思うんですが。
あの時オレの前に現れたアレは、
本当にオレを連れていこうとしたんでしょうか。
アレは、遊んでほしいって子どもの、
小さなイタズラだったんじゃないか、
って今なら思うんです。
答えなんてどこにもないし、
もう決してわからないままでしょう。
でも……オレは、アレが
悪意のあるモノじゃなかったと。
ただの自己満足かもしれないけれど、
そう、思っています。
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