68 / 415
31.首くくりの桜②(怖さレベル:★★★)
しおりを挟む
キキィーッ
「永島、お待たせー」
「いやー悪ぃ悪ぃ」
ブレーキ音を鳴らし、
岡と小板橋が、
そろって自転車で現れたのです。
「あ……お、おぉ」
「オイオイ、どうしたんだよ。寝てたのか?」
僕は恐怖を消化できず、
深夜ゆえにか妙にハイテンションの二人に
しどろもどろで返事をしました。
「い、いや……別に」
「そーか? あ、こんばんはー」
と、岡がいつの間にやら
横を通った老婆にペコリとあいさつします。
「お、オイ」
「ん? なんだよ永島」
思わず袖をつかむも、
岡はきょとんとしています。
老婆は曲がった腰そのままに、
返事も返さず、
スーッと歩いて行ってしまいました。
「お前、見知らぬバアさんによく挨拶できるな……」
と、小板橋も感心したように腕を組んでいます。
「えー、どうってことないだろ。だってあのおばあちゃん、
ふつうに足あったし、幽霊じゃねぇだろ」
「……裸足だったけどな」
「裸足ィ? ……徘徊老人かなぁ」
二人がまったく怖がっていないコトに、
自分自身が気恥ずかしくなりつつ、
僕は固まっていた身体をほぐすように自転車に飛び乗りました。
「バアさんのことはおいといて……行くだろ、首くくり」
「おー、なんせメインだしな!」
「たまにさぁ、先客がいるらしんだよな……
雰囲気壊れるから、誰もいないといいんだけどなー」
などと、各自勝手なことをベラベラとしゃべりつつ、
僕たちは山のふもとにある、
例の児童公園に向けて自転車を漕ぎました。
「……おぉ」
先にたどり着いた小板橋が、
桜を見上げて感嘆の声を上げました。
ライトアップ用の照明の取りつけられたその大樹は、
赤々と輝く花びらを一斉に開かせて、
目の覚めるような荘厳さです。
形ばかりの”この木での自殺禁止”という薄ボケた看板が、
存在感もなく足元に突き刺さっていました。
「スゲェな……首くくり、っていうけど、めっちゃキレイ」
その風景画のような光景は、
夜の黒と花びらの赤とのコントラストで、
いっそう妖艶に映りました。
「なんか、怖いって感じしねぇよな……」
岡が、ひたすらに見惚れたように
その木を見上げています。
たしかにこの光景を見ていると、
”首くくりの桜”というその曰くそのものが、
この木を美しくたらしめているかのごとく、
奇妙な錯覚を覚えるのです。
そうして三人とも、
しばらくは時を忘れたかのように、
呆然とその舞い散る桜を見上げていました。
「……帰るか」
と、小板橋のこぼしたその一言に、
ハッと幻想から覚めて瞬きをしました。
すっかり見惚れていたのは岡も同じだったようで、
彼も目を覚ますようにフルフルと首を振っています。
「……なぁ」
置いておいた自転車に乗って、
帰る準備を整えていた時、
未だどこかボーっとした表情の岡が言いました。
「オレさぁ……死ぬなら、この桜んトコで死にてぇなぁ」
「……は?」
僕は唐突なその一言に、
ギョッとして岡を凝視しました。
「あー……わかるわぁ。この桜の下でさぁ、
風に吹かれて……いいよなぁ」
と、先に自転車にまたがっていた小板橋までも、
そんな風に同意の声を漏らすのです。
「お、オイオイ……二人とも、冗談だろ?」
僕は、この二人がふざけて
そんなことを言っているのだろうと、
掠れる声を振り絞って笑いました。
しかし。
「は? 冗談じゃねぇって。
この木にさぁ、ぶらさがって……
花びらに包まれて……幸せだと思わないか?」
陶酔したように話す岡の表情は、
とても正気の者のそれではありません。
僕はゾッとして、
一歩二歩、
その場を後ずさりました。
「この木の一部になるんだぜ? いいよなぁ……
なんで今日、ロープ持ってこなかったのかなぁ……」
そして、小板橋までも狂ったコトを言いながら、
自転車から降りてふらふらと
桜の木に近寄っていくのです。
「おっ、オイ、バカ!」
僕は慌てて小板橋の肩に手を置きますが、
「邪魔すんなって。なぁ、岡も行くだろ?」
と、ぼんやりした表情のまま、
僕の手を払い落として岡の方を見つめるのです。
(やばい、なんか二人ともおかしい……!)
言動も、表情に至るまで、
いつもの二人とは違うのです。
僕は導かれるように桜に近づく二人を引き留めようと、
それぞれの腕をつかんだのですが、
考えられぬほどの力で、逆に僕が引きずられる始末です。
「おいっ……ふざけんなよ、
お前ら目ぇ覚ませっ……!」
蹴りつけてでも止めるか、
とズリズリと砂をまき散らしながら考えていたその時。
ペタペタペタ
「……あ?」
後ろから、足音。
まるでプールサイドを裸足で歩いているかのような、
どこか湿り気を感じる、あの。
ペタペタペタ
その足音は、一定の間隔をあけて、
ゆっくりとこちらに近づいてきています。
僕の脳裏に浮かんだのは、
さきほどすれ違ったあの腰の曲がった裸足の老婆。
ずっと、
ついてきていた?
そしてまさか――呪われた?
僕の脳内に、
くしゃくしゃの髪を振り乱して歩いてくる
イヤな映像がグルグルと回ります。
前方には首くくりの桜。
後方には得体のしれぬ老婆。
極限までの恐怖と混乱で、
乾ききった唇から
ガチガチと奥歯の合わさる音がこぼれます。
>>
「永島、お待たせー」
「いやー悪ぃ悪ぃ」
ブレーキ音を鳴らし、
岡と小板橋が、
そろって自転車で現れたのです。
「あ……お、おぉ」
「オイオイ、どうしたんだよ。寝てたのか?」
僕は恐怖を消化できず、
深夜ゆえにか妙にハイテンションの二人に
しどろもどろで返事をしました。
「い、いや……別に」
「そーか? あ、こんばんはー」
と、岡がいつの間にやら
横を通った老婆にペコリとあいさつします。
「お、オイ」
「ん? なんだよ永島」
思わず袖をつかむも、
岡はきょとんとしています。
老婆は曲がった腰そのままに、
返事も返さず、
スーッと歩いて行ってしまいました。
「お前、見知らぬバアさんによく挨拶できるな……」
と、小板橋も感心したように腕を組んでいます。
「えー、どうってことないだろ。だってあのおばあちゃん、
ふつうに足あったし、幽霊じゃねぇだろ」
「……裸足だったけどな」
「裸足ィ? ……徘徊老人かなぁ」
二人がまったく怖がっていないコトに、
自分自身が気恥ずかしくなりつつ、
僕は固まっていた身体をほぐすように自転車に飛び乗りました。
「バアさんのことはおいといて……行くだろ、首くくり」
「おー、なんせメインだしな!」
「たまにさぁ、先客がいるらしんだよな……
雰囲気壊れるから、誰もいないといいんだけどなー」
などと、各自勝手なことをベラベラとしゃべりつつ、
僕たちは山のふもとにある、
例の児童公園に向けて自転車を漕ぎました。
「……おぉ」
先にたどり着いた小板橋が、
桜を見上げて感嘆の声を上げました。
ライトアップ用の照明の取りつけられたその大樹は、
赤々と輝く花びらを一斉に開かせて、
目の覚めるような荘厳さです。
形ばかりの”この木での自殺禁止”という薄ボケた看板が、
存在感もなく足元に突き刺さっていました。
「スゲェな……首くくり、っていうけど、めっちゃキレイ」
その風景画のような光景は、
夜の黒と花びらの赤とのコントラストで、
いっそう妖艶に映りました。
「なんか、怖いって感じしねぇよな……」
岡が、ひたすらに見惚れたように
その木を見上げています。
たしかにこの光景を見ていると、
”首くくりの桜”というその曰くそのものが、
この木を美しくたらしめているかのごとく、
奇妙な錯覚を覚えるのです。
そうして三人とも、
しばらくは時を忘れたかのように、
呆然とその舞い散る桜を見上げていました。
「……帰るか」
と、小板橋のこぼしたその一言に、
ハッと幻想から覚めて瞬きをしました。
すっかり見惚れていたのは岡も同じだったようで、
彼も目を覚ますようにフルフルと首を振っています。
「……なぁ」
置いておいた自転車に乗って、
帰る準備を整えていた時、
未だどこかボーっとした表情の岡が言いました。
「オレさぁ……死ぬなら、この桜んトコで死にてぇなぁ」
「……は?」
僕は唐突なその一言に、
ギョッとして岡を凝視しました。
「あー……わかるわぁ。この桜の下でさぁ、
風に吹かれて……いいよなぁ」
と、先に自転車にまたがっていた小板橋までも、
そんな風に同意の声を漏らすのです。
「お、オイオイ……二人とも、冗談だろ?」
僕は、この二人がふざけて
そんなことを言っているのだろうと、
掠れる声を振り絞って笑いました。
しかし。
「は? 冗談じゃねぇって。
この木にさぁ、ぶらさがって……
花びらに包まれて……幸せだと思わないか?」
陶酔したように話す岡の表情は、
とても正気の者のそれではありません。
僕はゾッとして、
一歩二歩、
その場を後ずさりました。
「この木の一部になるんだぜ? いいよなぁ……
なんで今日、ロープ持ってこなかったのかなぁ……」
そして、小板橋までも狂ったコトを言いながら、
自転車から降りてふらふらと
桜の木に近寄っていくのです。
「おっ、オイ、バカ!」
僕は慌てて小板橋の肩に手を置きますが、
「邪魔すんなって。なぁ、岡も行くだろ?」
と、ぼんやりした表情のまま、
僕の手を払い落として岡の方を見つめるのです。
(やばい、なんか二人ともおかしい……!)
言動も、表情に至るまで、
いつもの二人とは違うのです。
僕は導かれるように桜に近づく二人を引き留めようと、
それぞれの腕をつかんだのですが、
考えられぬほどの力で、逆に僕が引きずられる始末です。
「おいっ……ふざけんなよ、
お前ら目ぇ覚ませっ……!」
蹴りつけてでも止めるか、
とズリズリと砂をまき散らしながら考えていたその時。
ペタペタペタ
「……あ?」
後ろから、足音。
まるでプールサイドを裸足で歩いているかのような、
どこか湿り気を感じる、あの。
ペタペタペタ
その足音は、一定の間隔をあけて、
ゆっくりとこちらに近づいてきています。
僕の脳裏に浮かんだのは、
さきほどすれ違ったあの腰の曲がった裸足の老婆。
ずっと、
ついてきていた?
そしてまさか――呪われた?
僕の脳内に、
くしゃくしゃの髪を振り乱して歩いてくる
イヤな映像がグルグルと回ります。
前方には首くくりの桜。
後方には得体のしれぬ老婆。
極限までの恐怖と混乱で、
乾ききった唇から
ガチガチと奥歯の合わさる音がこぼれます。
>>
0
あなたにおすすめの小説
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
それなりに怖い話。
只野誠
ホラー
これは創作です。
実際に起きた出来事はございません。創作です。事実ではございません。創作です創作です創作です。
本当に、実際に起きた話ではございません。
なので、安心して読むことができます。
オムニバス形式なので、どの章から読んでも問題ありません。
不定期に章を追加していきます。
2026/1/2:『そうしき』の章を追加。2026/1/9の朝4時頃より公開開始予定。
2026/1/1:『いえい』の章を追加。2026/1/8の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/31:『たこあげ』の章を追加。2026/1/7の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/30:『ねんがじょう』の章を追加。2026/1/6の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/29:『ふるいゆうじん』の章を追加。2026/1/5の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/28:『ふゆやすみ』の章を追加。2026/1/4の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/27:『ことしのえと』の章を追加。2026/1/3の朝8時頃より公開開始予定。
※こちらの作品は、小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで同時に掲載しています。
百の話を語り終えたなら
コテット
ホラー
「百の怪談を語り終えると、なにが起こるか——ご存じですか?」
これは、ある町に住む“記録係”が集め続けた百の怪談をめぐる物語。
誰もが語りたがらない話。語った者が姿を消した話。語られていないはずの話。
日常の隙間に、確かに存在した恐怖が静かに記録されていく。
そして百話目の夜、最後の“語り手”の正体が暴かれるとき——
あなたは、もう後戻りできない。
■1話完結の百物語形式
■じわじわ滲む怪異と、ラストで背筋が凍るオチ
■後半から“語られていない怪談”が増えはじめる違和感
最後の一話を読んだとき、
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
百物語 厄災
嵐山ノキ
ホラー
怪談の百物語です。一話一話は長くありませんのでお好きなときにお読みください。渾身の仕掛けも盛り込んでおり、最後まで読むと驚くべき何かが提示されます。
小説家になろう、エブリスタにも投稿しています。
(ほぼ)1分で読める怖い話
涼宮さん
ホラー
ほぼ1分で読める怖い話!
【ホラー・ミステリーでTOP10入りありがとうございます!】
1分で読めないのもあるけどね
主人公はそれぞれ別という設定です
フィクションの話やノンフィクションの話も…。
サクサク読めて楽しい!(矛盾してる)
⚠︎この物語で出てくる場所は実在する場所とは全く関係御座いません
⚠︎他の人の作品と酷似している場合はお知らせください
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる