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50.バーに住み着く女①(怖さレベル:★★☆)
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(怖さレベル:★★☆:ふつうに怖い話)
『20代男性 白石さん(仮)』
あれはそう、確か、会社の送別会が解散した後の、
最後のちょっとした飲み会の時の出来事です。
その日、定年を迎えた社員数名と、
来月から都内の営業所へ異動になる社員の送別会が開催されていました。
一次会、二次会と人数はどんどん減り、
自然解散の流れとなったその後。
俺は都内の営業所へ異動となる先輩ともう少し話したくて、
最後に数名で飲もうという提案をしました。
結局、俺と先輩合わせて四名ほどの人数が集まり、
その先輩のお気に入りのバーがある、というので、
我々はアルコールでほろよい気分で彼についていくことになりました。
この先輩は三十代半ばで、気配りもよくできる、
とても仕事のできる人でした。
今回の異動も、その手腕を買われての栄転。
俺と同じ部署の人で、かなり尊敬をしていた人物でした。
そして、ついてきたうちの一人はやはり同じ部署の後輩。
コイツも俺と同じく、先輩にはかなり世話になっていた一人です。
そして最後の一人。
この一人が少々厄介で、沢村という名前で、
このメンバーでは唯一女の子なのですが、
いわゆる不思議ちゃんで、客先でトラブルを起こしたり、
ふつうではありえないミスを連発したり、
社内ではトラブルメーカー扱いされている子でありました。
どうやら異動する先輩に好意を寄せているような態度は前々からあったので、
今日こうしてついてきた時も、やっぱり、と思ったものでした。
わずかに気が重くなったものの、まぁ最後だし、
と四人そろって、そのバーへと向かいました。
「ここ、オレの学生ん時の友だちがやってるんだよ」
だいぶいい感じに酔いの回った先輩が、
テーブル席にやってきたマスターに陽気に話しかけました。
「よお、今日は後輩たち連れてきたよ」
「オイオイ、ちゃんとお前が先輩やれてるのかよ?」
先輩と気さくに話すその人は、
一見彼よりもぐっと年上に見えました。
口ひげを生やし、僅かに日焼けした、
ダンディという言葉の似合う男性です。
先輩と同世代なのか……と恐縮していると、
傍らに座っていた例の女後輩の沢村が、
ポーっとマスターに見惚れていることに気付きました。
先輩に気があったんじゃないのかよ、と内心ツッコミを入れつつ、
勧められるがままに飲み物を頼んでいると、
先輩がニヤニヤと笑みを浮かべていることに気付きました。
「……先輩、どうしたんです?」
俺が思わず尋ねると、先輩は更に笑みを深くして、
カウンターに戻ったマスターに問いかけました。
「ハハッ、いや、ここに来たの久々でさ。
なぁ……アレ、まだ出るわけ?」
「アレ、ッスか?」
後輩が、先輩の含みのある発言に首を傾げています。
「お前なぁ……新規の客がいるトコで。まぁ、いいけどさ」
マスターは苦笑いを浮かべた後、
わけのわかっていないこちら三人に向きなおり、
「えっと……こいつが言ってんのは、なんつーか、お化けの話でな」
「お……お化け?」
この、男らしくて落ち着きのあるマスターからは
とても連想のされぬ言葉に、俺たちはポカンと口を開きました。
「ほら、カウンター席見てみろよ。今日は俺たち以外客いないからアレだけど、
あの一番端の席。……あそこ、どんだけ混んでても誰も座らねぇんだよ」
先輩の示す先を見れば、ただ普通の席が一つ、ポツンと存在するのみ。
外観からは、他と違うトクベツさは感じません。
「っつーのも、あそこが特等席だからなんだよな」
と、先輩がマスターにチラっと目配せを送りました。
「特等席……まぁ、間違いじゃないけど」
マスターも、そんな話の割には気を害する様子もなく頷いています。
「え……それ、お化けが座ってる、っていうんですか?」
「まぁ、ね。座ってるんだって……女の子の幽霊が」
マスターが微笑みを浮かべながら、酒瓶を取り出しました。
「開店当初から、ずっといるらしいんだよね。……見えない人が大半、
ていうか俺も見えないんだけど……たまにね、言われるんだ」
「へぇ~」
俺はあいまいに頷きました。
幽霊や神の類を信じていないわけではありませんが、
こうもあけすけに言われると何かウソくさくも感じられてしまいます。
俺はさらりとそれを流すつもりで、
用意されたツマミに箸をつけ始めました。
しかし、
「じ、実は私、霊感があって! ここに入った時から、
すっごく寒気を感じてて……今のお話聞いて、やっぱりって思ったんです!」
と、沢村が不意に割り込んできたのです。
(おいおい、マジか……?)
俺が半信半疑で彼女の方を見ると、皆の注目を集めて興奮したのか、
まくしたてるように言葉を続けました。
「その人、ジーっと俯いて座ってて、なんかスゴくうらめしそーにしてるんです!
とっても怖くってぇ……」
なんて言いつつ、上目遣いでマスターにチラチラと視線を送っています。
マスターは特に怯えた様子も見せず、フンフンと頷いていました。
>>
『20代男性 白石さん(仮)』
あれはそう、確か、会社の送別会が解散した後の、
最後のちょっとした飲み会の時の出来事です。
その日、定年を迎えた社員数名と、
来月から都内の営業所へ異動になる社員の送別会が開催されていました。
一次会、二次会と人数はどんどん減り、
自然解散の流れとなったその後。
俺は都内の営業所へ異動となる先輩ともう少し話したくて、
最後に数名で飲もうという提案をしました。
結局、俺と先輩合わせて四名ほどの人数が集まり、
その先輩のお気に入りのバーがある、というので、
我々はアルコールでほろよい気分で彼についていくことになりました。
この先輩は三十代半ばで、気配りもよくできる、
とても仕事のできる人でした。
今回の異動も、その手腕を買われての栄転。
俺と同じ部署の人で、かなり尊敬をしていた人物でした。
そして、ついてきたうちの一人はやはり同じ部署の後輩。
コイツも俺と同じく、先輩にはかなり世話になっていた一人です。
そして最後の一人。
この一人が少々厄介で、沢村という名前で、
このメンバーでは唯一女の子なのですが、
いわゆる不思議ちゃんで、客先でトラブルを起こしたり、
ふつうではありえないミスを連発したり、
社内ではトラブルメーカー扱いされている子でありました。
どうやら異動する先輩に好意を寄せているような態度は前々からあったので、
今日こうしてついてきた時も、やっぱり、と思ったものでした。
わずかに気が重くなったものの、まぁ最後だし、
と四人そろって、そのバーへと向かいました。
「ここ、オレの学生ん時の友だちがやってるんだよ」
だいぶいい感じに酔いの回った先輩が、
テーブル席にやってきたマスターに陽気に話しかけました。
「よお、今日は後輩たち連れてきたよ」
「オイオイ、ちゃんとお前が先輩やれてるのかよ?」
先輩と気さくに話すその人は、
一見彼よりもぐっと年上に見えました。
口ひげを生やし、僅かに日焼けした、
ダンディという言葉の似合う男性です。
先輩と同世代なのか……と恐縮していると、
傍らに座っていた例の女後輩の沢村が、
ポーっとマスターに見惚れていることに気付きました。
先輩に気があったんじゃないのかよ、と内心ツッコミを入れつつ、
勧められるがままに飲み物を頼んでいると、
先輩がニヤニヤと笑みを浮かべていることに気付きました。
「……先輩、どうしたんです?」
俺が思わず尋ねると、先輩は更に笑みを深くして、
カウンターに戻ったマスターに問いかけました。
「ハハッ、いや、ここに来たの久々でさ。
なぁ……アレ、まだ出るわけ?」
「アレ、ッスか?」
後輩が、先輩の含みのある発言に首を傾げています。
「お前なぁ……新規の客がいるトコで。まぁ、いいけどさ」
マスターは苦笑いを浮かべた後、
わけのわかっていないこちら三人に向きなおり、
「えっと……こいつが言ってんのは、なんつーか、お化けの話でな」
「お……お化け?」
この、男らしくて落ち着きのあるマスターからは
とても連想のされぬ言葉に、俺たちはポカンと口を開きました。
「ほら、カウンター席見てみろよ。今日は俺たち以外客いないからアレだけど、
あの一番端の席。……あそこ、どんだけ混んでても誰も座らねぇんだよ」
先輩の示す先を見れば、ただ普通の席が一つ、ポツンと存在するのみ。
外観からは、他と違うトクベツさは感じません。
「っつーのも、あそこが特等席だからなんだよな」
と、先輩がマスターにチラっと目配せを送りました。
「特等席……まぁ、間違いじゃないけど」
マスターも、そんな話の割には気を害する様子もなく頷いています。
「え……それ、お化けが座ってる、っていうんですか?」
「まぁ、ね。座ってるんだって……女の子の幽霊が」
マスターが微笑みを浮かべながら、酒瓶を取り出しました。
「開店当初から、ずっといるらしいんだよね。……見えない人が大半、
ていうか俺も見えないんだけど……たまにね、言われるんだ」
「へぇ~」
俺はあいまいに頷きました。
幽霊や神の類を信じていないわけではありませんが、
こうもあけすけに言われると何かウソくさくも感じられてしまいます。
俺はさらりとそれを流すつもりで、
用意されたツマミに箸をつけ始めました。
しかし、
「じ、実は私、霊感があって! ここに入った時から、
すっごく寒気を感じてて……今のお話聞いて、やっぱりって思ったんです!」
と、沢村が不意に割り込んできたのです。
(おいおい、マジか……?)
俺が半信半疑で彼女の方を見ると、皆の注目を集めて興奮したのか、
まくしたてるように言葉を続けました。
「その人、ジーっと俯いて座ってて、なんかスゴくうらめしそーにしてるんです!
とっても怖くってぇ……」
なんて言いつつ、上目遣いでマスターにチラチラと視線を送っています。
マスターは特に怯えた様子も見せず、フンフンと頷いていました。
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