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68.真夜中のパーキングエリア①(怖さレベル:★★★)
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(怖さレベル:★★★:旧2ch 洒落怖くらいの話)
あれは、社会人になったばかりの頃。
人生初の車を手に入れて、
友人たちとあちこち出かけまくっていた頃の話です。
高校を卒業して、進学を選ばず就職し、
金と自由を手に入れたオレは、
同じように就職した友人たちと休みのたびに車で旅行していました。
といっても、社会人一年目の給料では豪遊なぞできるはずもなく、
夜は車中泊、ということが非常に多かったのです。
その日も、朝から友人三人と連れ立って、
高速に乗って海へ行き、泳いだり、食べ歩きしたり、また泳いだり……
なんてことをくりかえしていれば、すっかり日も暮れています。
宿代を節約するために車中で寝泊まり、
というのはすでに友人たちも慣れたもので、
それぞれネックピローだとか、クッションだとか、準備までバッチリです。
「やっぱ、海って良いよなぁ……」
高速のパーキングエリアから見える地平線をうっとり眺めながら、
友人の一人、泉がしみじみと呟きました。
「うちんトコの海は濁ってるからなぁ。泳ぐならこういうトコが良いわ」
もう一人の友人、佐々木も同意を返しています。
彼の言う通り、うちの地元にも海はあったのですが、
いつも濁流のごとく汚れていて、夜などは
どこか拭いきれない恐怖を感じるような、そんな様子だったのです。
「オレ、ちょっとトイレ行ってくるわ」
すでに日も落ち、わずかばかりの照明器具で照らされる車。
大型トラックが数台チラホラと存在するくらいで、
トイレと自販機のみの簡素なパーキングエリアです。
サービスエリアまで行けばもう少し人影もあるのでしょうが、
逆にトイレなどが混まなくて良いと、
最近はよくこういった場所で夜を明かしていました。
「いってらっしゃい~」
友人二人はまだ大丈夫、というので、オレは一人、
さっさとトイレの方へ向かいました。
年季を感じさせる、褪せたタイルの床は、
それでも清掃員の努力ゆえか、目立つ汚れはありません。
「……誰もいねぇ、な」
予想通りひと気のない小便器の並びに陣取り、
用を足し終えて手を洗っていた時です。
キィー……バタン
個室の扉の方から、物音がしました。
(あー……いたんだな、人)
おそらくはトラックの運転手だろうと、
さして気にせず手の雫を払っていると、
キィー……バタン
またも、個室のドアがきしむ音。
(……あれ?)
オレはそれに違和感を覚え、首を傾げました。
手洗い場はトイレの入り口にあり、ここを通らないと当然、
中へ入ることも、外へ出ることもできません。
だというのに、個室から続けて二回開いた音がしたのに、
一向に手洗い場へ人がやってくる様子がないのです。
(……何人かでまとめて出てくんのか?)
知り合い同士、話にでも夢中になっているのだろうと結論付け、
さっさと車に戻ろうとした、そのタイミングで。
キィー……バタン
キィー……バタン
続けざまに三、四度目の扉の音が鳴りました。
(ず……ずいぶん、多いな)
外に停まっている車の台数的に、それほど人はいないと思っていたのに、
珍しいなぁ、なんて間の抜けた感想を浮かべていたオレの考えは、
すぐさま破られました。
キィー……バタン
キキィー……バタン
何度も何度も。
キィー……バタン
ギィー……バタッ
何度もドアの開け閉めの音が、途切れることなく鳴り始めました。
「なっ……なん……ッ」
現状が理解できずに硬直したおれを嘲笑うかのように。
その音は、次第にどんどん、激しくなっていきます。
ギィー……バタッ
ギギッ……ガタガタッ
姿すら見えない、何者かの癇癪のような。
ガタガタと、まるでトイレ全体が揺れていると錯覚するかのような、
その異様な振動と音。
「ぅ、うわあぁっ!」
オレは思わず情けない悲鳴を上げつつ、
ほうほうの体でトイレを飛び出しました。
駐車場へ出ると、オレはわき目もふらず、
一心に自分の車の方へ飛びつきました。
「……んあ? どしたんだよ……血相かえてさ」
車中に身体を押し込むように逃げ込むと、
助手席で背中をそらした佐々木が、半分寝ぼけた調子で顔を上げました。
「そっ……い、いや……なんでもねーよ」
そのぼんやりした顔を目にすると、
今までの焦燥感と張りつめていた緊張が途端に霧散したのを感じました。
「そーか? 変なヤツにでもトイレで絡まれたか?」
「変なヤツ……まぁ、確かにそんな感じだったな……」
すでに寝入っている様子の泉を起こさぬようコソコソ会話し、
「どーする? 次のトコに移動するか?」
そう尋ねてきた佐々木に、オレは少し考えこみました。
当然、ここで再び尿意を催したら、あのトイレに行かざるをえません。
さっきのは確かに現実にあったことで、
もしかしたら何かの故障とか、きちんと確認すれば
説明のつく現象なのかもしれませんが、とても再び訪れたいとは思えません。
「……そーだな。ちょっと面倒だけど、動くわ」
「オッケー。ま、ドコでも変なヤツって湧くもんなぁ」
すっかり難癖をつけられたとカン違いしている佐々木に苦笑だけ返し、
オレがハンドルを握った、その時。
ドン!
大きく車体が揺れました。
>>
あれは、社会人になったばかりの頃。
人生初の車を手に入れて、
友人たちとあちこち出かけまくっていた頃の話です。
高校を卒業して、進学を選ばず就職し、
金と自由を手に入れたオレは、
同じように就職した友人たちと休みのたびに車で旅行していました。
といっても、社会人一年目の給料では豪遊なぞできるはずもなく、
夜は車中泊、ということが非常に多かったのです。
その日も、朝から友人三人と連れ立って、
高速に乗って海へ行き、泳いだり、食べ歩きしたり、また泳いだり……
なんてことをくりかえしていれば、すっかり日も暮れています。
宿代を節約するために車中で寝泊まり、
というのはすでに友人たちも慣れたもので、
それぞれネックピローだとか、クッションだとか、準備までバッチリです。
「やっぱ、海って良いよなぁ……」
高速のパーキングエリアから見える地平線をうっとり眺めながら、
友人の一人、泉がしみじみと呟きました。
「うちんトコの海は濁ってるからなぁ。泳ぐならこういうトコが良いわ」
もう一人の友人、佐々木も同意を返しています。
彼の言う通り、うちの地元にも海はあったのですが、
いつも濁流のごとく汚れていて、夜などは
どこか拭いきれない恐怖を感じるような、そんな様子だったのです。
「オレ、ちょっとトイレ行ってくるわ」
すでに日も落ち、わずかばかりの照明器具で照らされる車。
大型トラックが数台チラホラと存在するくらいで、
トイレと自販機のみの簡素なパーキングエリアです。
サービスエリアまで行けばもう少し人影もあるのでしょうが、
逆にトイレなどが混まなくて良いと、
最近はよくこういった場所で夜を明かしていました。
「いってらっしゃい~」
友人二人はまだ大丈夫、というので、オレは一人、
さっさとトイレの方へ向かいました。
年季を感じさせる、褪せたタイルの床は、
それでも清掃員の努力ゆえか、目立つ汚れはありません。
「……誰もいねぇ、な」
予想通りひと気のない小便器の並びに陣取り、
用を足し終えて手を洗っていた時です。
キィー……バタン
個室の扉の方から、物音がしました。
(あー……いたんだな、人)
おそらくはトラックの運転手だろうと、
さして気にせず手の雫を払っていると、
キィー……バタン
またも、個室のドアがきしむ音。
(……あれ?)
オレはそれに違和感を覚え、首を傾げました。
手洗い場はトイレの入り口にあり、ここを通らないと当然、
中へ入ることも、外へ出ることもできません。
だというのに、個室から続けて二回開いた音がしたのに、
一向に手洗い場へ人がやってくる様子がないのです。
(……何人かでまとめて出てくんのか?)
知り合い同士、話にでも夢中になっているのだろうと結論付け、
さっさと車に戻ろうとした、そのタイミングで。
キィー……バタン
キィー……バタン
続けざまに三、四度目の扉の音が鳴りました。
(ず……ずいぶん、多いな)
外に停まっている車の台数的に、それほど人はいないと思っていたのに、
珍しいなぁ、なんて間の抜けた感想を浮かべていたオレの考えは、
すぐさま破られました。
キィー……バタン
キキィー……バタン
何度も何度も。
キィー……バタン
ギィー……バタッ
何度もドアの開け閉めの音が、途切れることなく鳴り始めました。
「なっ……なん……ッ」
現状が理解できずに硬直したおれを嘲笑うかのように。
その音は、次第にどんどん、激しくなっていきます。
ギィー……バタッ
ギギッ……ガタガタッ
姿すら見えない、何者かの癇癪のような。
ガタガタと、まるでトイレ全体が揺れていると錯覚するかのような、
その異様な振動と音。
「ぅ、うわあぁっ!」
オレは思わず情けない悲鳴を上げつつ、
ほうほうの体でトイレを飛び出しました。
駐車場へ出ると、オレはわき目もふらず、
一心に自分の車の方へ飛びつきました。
「……んあ? どしたんだよ……血相かえてさ」
車中に身体を押し込むように逃げ込むと、
助手席で背中をそらした佐々木が、半分寝ぼけた調子で顔を上げました。
「そっ……い、いや……なんでもねーよ」
そのぼんやりした顔を目にすると、
今までの焦燥感と張りつめていた緊張が途端に霧散したのを感じました。
「そーか? 変なヤツにでもトイレで絡まれたか?」
「変なヤツ……まぁ、確かにそんな感じだったな……」
すでに寝入っている様子の泉を起こさぬようコソコソ会話し、
「どーする? 次のトコに移動するか?」
そう尋ねてきた佐々木に、オレは少し考えこみました。
当然、ここで再び尿意を催したら、あのトイレに行かざるをえません。
さっきのは確かに現実にあったことで、
もしかしたら何かの故障とか、きちんと確認すれば
説明のつく現象なのかもしれませんが、とても再び訪れたいとは思えません。
「……そーだな。ちょっと面倒だけど、動くわ」
「オッケー。ま、ドコでも変なヤツって湧くもんなぁ」
すっかり難癖をつけられたとカン違いしている佐々木に苦笑だけ返し、
オレがハンドルを握った、その時。
ドン!
大きく車体が揺れました。
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