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69.交霊術の失敗②(怖さレベル:★★☆)
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「う……そ、そうね。きっと何か条件が足りなかったか……
もしくは、私に霊が恐れをなして逃げたに違いないわ」
案外強気な彼女は、ㇰッと悔し気にゆがんだ口元を引き締めて、
強く拳を握りしめています。
相変わらずの前向き思考だと、私があきれるやら感心するやらで、
卓上に置いておいた10円玉を回収しようとそれに指を触れた瞬間です。
ヒヤリ、と。
刺すほどの冷気が指先を襲いました。
「っ、痛ッ……!」
まさに、痛覚を感じるほどの冷たさ。
思わず手を引っ込めると、
ショウちゃんの訝しげな視線がこちらに向きました。
「なに、どうしたの?」
「あ、うん……10円玉、しまおうと思ってさ……」
今の冷気はなんだったのだろう、と
私は眉を潜めつつ目前の彼女に笑いかけようとして、
その背後のモノに、ピキリ、と静止しました。
夕焼けの差し込む教室。
その中央で、彼女と向かい合わせであった私は、
廊下に背を向ける形で座っていました。
つまり、顔を上げると、
必然的にショウちゃんを通り越し、ベランダの方を見ることになります。
その、窓ガラスの外。
べランダの位置に、一人の女性が立っています。
「ひ……ぃ、っ……」
私の喉から、掠れた呻き声が上がりました。
その女性の様相。
水をたっぷりと含んだかのように、ドロドロに濡れた長髪。
海藻を彷彿とさせる、張りついた前髪で隠れた顔から
唯一覗くのは、歯並びの悪いギザついた口腔。
かなりの力が込められているのか、白くにごっている、
ペタリ、とガラスに貼りつけられた両の手のひら。
そして、学生服とは似ても似つかない、
占い師めいた、紫の民族風の衣装――。
「タカちゃん? どうしたの?」
「あ……だ、ダメ……っ」
呆然自失状態の私の態度を不審に思ったらしく、
ショウちゃんは首を傾げ、自分の背後――
あの窓ガラスの方へ振り返ってしまいました。
――シン、と。
痛いほどの、静寂。
「……なんだ。なにもいないじゃない」
そんなさなか、真っ先に口を開いたのは彼女でした。
「変な反応するから、まさか幽霊でも出たのかと思ったのに……つまんないの」
「え……あ……?」
まちがいなく、彼女はあの女性と向き合っているのに。
薄いガラス一枚を隔てて、正に幽霊然とした、
湿ったような容貌の女性。
よくよく見れば、窓に張り付いた手も顔も、
生者とは思えぬほど青白く、本来であればあるはずの影もありません。
間違いなく、この世、ならざるモノ。
「もー。こっくりさんが来ないからって、
ビックリさせようって魂胆? その手には乗らないからね!」
クルリ、と再びそれに背を向けてこちらに向きなおるショウちゃん。
そんな彼女を、ペッタリと前髪が貼りついたそれの首が、
のぞき込もうとするかのように傾けられています。
値踏みするように、まるで、興味でもあるかのように。
その首の動きは、まるで爬虫類を連想させるような。
「あ……あ……」
「もーっ、まだやってるの? ……それとも、幻覚?
熱中症にでもなっちゃった?」
そんな彼女の言葉に、私はハッと目をしばたかせました。
そうか、これは幻覚だ。
霊感があると豪語するショウちゃんに見えずして、
私にだけ見えるなんてコトがあるわけがない。
そう思ったものの、目に入る光景はあまりにも生々しく。
「……う」
更に、その女は唯一露出している口の端をぐい、と引き上げ、
ニタリ、とその端からドロッと赤い血を垂れ流しました。
「もー、こっくりさんも失敗に終わったし、帰るよ!」
全くそれが目に入らぬ彼女は、机の上の例の紙を、
無造作にヒュッと持ち上げました。
コトリ、とその上から10円玉が転がり落ち――。
ゴォオン
重い音。
まるで、年末に耳にする除夜の鐘のような音が、
あたり一帯に響き渡ったのです。
「な、なに、今の」
そして、それは彼女にも聞こえたようでした。
「な……何だろうね」
しかし、私にも原因などわかりません。
恐怖と混乱に染まった頭で、
音に気を取られていた意識をふとベランダに戻すと、
「……アレ?」
あれほどくっきりと存在を露にしていた女幽霊は消えていました。
「もーっ、なんだったの」
ぷりぷりと己の思うままに進まぬ状況に
怒り気味のショウちゃんを慰めることすら忘れ、
私はただ、それのいなくなったベランダの向こうを
ひたすら眺めることしかできませんでした。
あんなコトが起きたその後。
あれだけ霊が見える見える言っていたショウちゃんは、
それに懲りたのかめっきりと幽霊のことを口に出さなくなり、
すっかり平和になったと喜んでいたのはつかの間。
なんと、私自身が妙なモノが見えるようになってしまいました。
アレがトリガーであったかのように、ふとした時に覗く、
明らかに人ではない何か。
そしてそれには、必ずあの、ゴォンという鐘の音も付随しています。
果たして、ただの幻覚なのか。
それとも、本当に――あれらは、霊的な存在なのか。
そんな、私の体験談は、
またの機会があれば、お話しさせていただきたいと思います。
もしくは、私に霊が恐れをなして逃げたに違いないわ」
案外強気な彼女は、ㇰッと悔し気にゆがんだ口元を引き締めて、
強く拳を握りしめています。
相変わらずの前向き思考だと、私があきれるやら感心するやらで、
卓上に置いておいた10円玉を回収しようとそれに指を触れた瞬間です。
ヒヤリ、と。
刺すほどの冷気が指先を襲いました。
「っ、痛ッ……!」
まさに、痛覚を感じるほどの冷たさ。
思わず手を引っ込めると、
ショウちゃんの訝しげな視線がこちらに向きました。
「なに、どうしたの?」
「あ、うん……10円玉、しまおうと思ってさ……」
今の冷気はなんだったのだろう、と
私は眉を潜めつつ目前の彼女に笑いかけようとして、
その背後のモノに、ピキリ、と静止しました。
夕焼けの差し込む教室。
その中央で、彼女と向かい合わせであった私は、
廊下に背を向ける形で座っていました。
つまり、顔を上げると、
必然的にショウちゃんを通り越し、ベランダの方を見ることになります。
その、窓ガラスの外。
べランダの位置に、一人の女性が立っています。
「ひ……ぃ、っ……」
私の喉から、掠れた呻き声が上がりました。
その女性の様相。
水をたっぷりと含んだかのように、ドロドロに濡れた長髪。
海藻を彷彿とさせる、張りついた前髪で隠れた顔から
唯一覗くのは、歯並びの悪いギザついた口腔。
かなりの力が込められているのか、白くにごっている、
ペタリ、とガラスに貼りつけられた両の手のひら。
そして、学生服とは似ても似つかない、
占い師めいた、紫の民族風の衣装――。
「タカちゃん? どうしたの?」
「あ……だ、ダメ……っ」
呆然自失状態の私の態度を不審に思ったらしく、
ショウちゃんは首を傾げ、自分の背後――
あの窓ガラスの方へ振り返ってしまいました。
――シン、と。
痛いほどの、静寂。
「……なんだ。なにもいないじゃない」
そんなさなか、真っ先に口を開いたのは彼女でした。
「変な反応するから、まさか幽霊でも出たのかと思ったのに……つまんないの」
「え……あ……?」
まちがいなく、彼女はあの女性と向き合っているのに。
薄いガラス一枚を隔てて、正に幽霊然とした、
湿ったような容貌の女性。
よくよく見れば、窓に張り付いた手も顔も、
生者とは思えぬほど青白く、本来であればあるはずの影もありません。
間違いなく、この世、ならざるモノ。
「もー。こっくりさんが来ないからって、
ビックリさせようって魂胆? その手には乗らないからね!」
クルリ、と再びそれに背を向けてこちらに向きなおるショウちゃん。
そんな彼女を、ペッタリと前髪が貼りついたそれの首が、
のぞき込もうとするかのように傾けられています。
値踏みするように、まるで、興味でもあるかのように。
その首の動きは、まるで爬虫類を連想させるような。
「あ……あ……」
「もーっ、まだやってるの? ……それとも、幻覚?
熱中症にでもなっちゃった?」
そんな彼女の言葉に、私はハッと目をしばたかせました。
そうか、これは幻覚だ。
霊感があると豪語するショウちゃんに見えずして、
私にだけ見えるなんてコトがあるわけがない。
そう思ったものの、目に入る光景はあまりにも生々しく。
「……う」
更に、その女は唯一露出している口の端をぐい、と引き上げ、
ニタリ、とその端からドロッと赤い血を垂れ流しました。
「もー、こっくりさんも失敗に終わったし、帰るよ!」
全くそれが目に入らぬ彼女は、机の上の例の紙を、
無造作にヒュッと持ち上げました。
コトリ、とその上から10円玉が転がり落ち――。
ゴォオン
重い音。
まるで、年末に耳にする除夜の鐘のような音が、
あたり一帯に響き渡ったのです。
「な、なに、今の」
そして、それは彼女にも聞こえたようでした。
「な……何だろうね」
しかし、私にも原因などわかりません。
恐怖と混乱に染まった頭で、
音に気を取られていた意識をふとベランダに戻すと、
「……アレ?」
あれほどくっきりと存在を露にしていた女幽霊は消えていました。
「もーっ、なんだったの」
ぷりぷりと己の思うままに進まぬ状況に
怒り気味のショウちゃんを慰めることすら忘れ、
私はただ、それのいなくなったベランダの向こうを
ひたすら眺めることしかできませんでした。
あんなコトが起きたその後。
あれだけ霊が見える見える言っていたショウちゃんは、
それに懲りたのかめっきりと幽霊のことを口に出さなくなり、
すっかり平和になったと喜んでいたのはつかの間。
なんと、私自身が妙なモノが見えるようになってしまいました。
アレがトリガーであったかのように、ふとした時に覗く、
明らかに人ではない何か。
そしてそれには、必ずあの、ゴォンという鐘の音も付随しています。
果たして、ただの幻覚なのか。
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またの機会があれば、お話しさせていただきたいと思います。
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