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78.廃病院からの着信③(怖さレベル:★☆☆)
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「……ここ、ね」
高速道路を経由して、約一時間半。
たどり着いたその場所は、確かに未だ営業しているとは冗談でも言えぬほど、
真っ黒くススけた建物が、今なおそのまま存在していました。
「ほら、ヨシヒロ。持ってきたお花を」
「う、うん……」
トランクに積んでおいた生花を、息子に運ばせます。
「あ、お、おばさん……私たちは……」
「あぁ、ごめんね。ヨシヒロを手伝ってやって。私は先に置く場所を探すから」
あの後、昨日、ここの医者を訪れたというサークル仲間とどうにか連絡をつけ、
運よく都合のあった二人が、共についてきてくれているのです。
話を聞けば、やはり彼らの携帯にも異様なほどの着信が入っており、
なんとか逃れたいと、藁にもすがる思いで同行してくれたようでした。
都合の合わない他のメンバーは、
後日改めて訪れるという話に落ち着いたのだとか。
「…………」
黒こげの建物を前にして、私はなんとも言えない
寂寥感とともに一帯を歩き回りました。
まるで、つい昨日火事が起きたばかり、と聞いても
不思議ではないくらい、焼けた柱も屋根の骨組みも、
そのままの姿で残っています。
「母さん?」
「あ、お花ね。……そうね、このあたりでいいかな」
通行の邪魔にならなくて、一
目もさほど気にならない、入口の門の開き部分。
そこに薄いビニールを敷いて息子たちに花を供えさせました。
「すみませんでした……」
「騒いじゃって、ごめんなさい」
彼らも、心から反省しているようでしっかりと両手を合わせています。
私もその場に膝をついて、そっと胸中で祈りました。
(ご迷惑をおかけして申し訳ございませんでした。
……どうぞ、彼らを許してやってください)
シン、となんの物音もしないその場所は、
歓迎とも拒絶ともつかない、不思議な雰囲気を宿しています。
(もし、お怒りが収まらなければ……彼らではなく、どうか私に)
直接的に関係していない私の携帯に着信が入ったのは、
彼らをどうにかしろという暗示か、そ
れとも逆に更に引き込もうとしたこの病院の意思なのか。
「……ごめんなさい」
ポツリ、と最後に深々と息子が頭を下げれば、
ガラッ
不意に目前の家屋が音を立てました。
「え、なに……?」
私たち四人が呆然としているなか、
ガラッ……ガラガラ……
今まで、あれほどしっかりと立っていた黒こげの建物が、
激しい分解音を鳴らして崩れていったのです。
「え、え、なにこれ!?」
「けっ、警察に電話したほうがいいの!?」
皆が混乱し、どうすればいいやらとあわあわと周囲を見回していると、
丁度通行人らしきお爺さんが散歩しているところに出くわしました。
「あ、す、すみません! と、突然うちが壊れて、あの」
「ん? ……あ、あんたら。もしかしてそこの病院の?」
そのお爺さんは、こちらの取り乱し具合と、
目前の建造物の残骸を見比べて、訳知り顔で頷きました。
「気にせんでええ。……崩れたのを見たんだな? じゃあ大丈夫だ」
「え……?」
その老人の言っている意味が理解できず、皆そろって首を傾げると、
「そこんち、もうとっくに更地なんだよ。だけど、たまにあんたらみたく、
無いはずの病院を見ちまう奴がいるんだ。でも、今壊れたのを見たんだろう?
あるべき姿に戻ったってことは、もう、大丈夫だよ」
と、何てことないかのようにサラッと告げて、
そのままどこぞへと姿を消してしまいました。
残された私たちは、たった今耳にしたあまりにも不可解な現状に、
ただただた唖然と顔を見合わせることしかできませんでした。
あのお爺さんの方った話によれば、
すでに何も無いはずの、あの白来屋歯科医院の場所。
そこにススけた建物の姿を見てしまったこと自体、
異常だったということなのでしょう。
確かに、数年前に火事になった建物が、
今なおその姿をそのまま残しているなど、
普通であれば考えられないことでした。
花を供え、謝罪もしたことで、
冷やかしではないと許してもらえたということなのでしょう。
……ただ、一つだけ。
あの、息子と同じサークルの、一緒に肝試しにいった数人。
後できちんと謝罪に行ったメンバーは別として、
ただの携帯の不調だと笑い飛ばして、何もせずに放置した人がいたようで。
彼、元々素行が悪い子だったようなんですが……その後、
すぐに大学を辞めてしまったそうなんです。
ウワサでは、あくどい人と絡んでしまって、
地元に戻らざるを得なくなった、と。
それも……制裁で、口の中の歯をすべて抜き取られてしまった、だとか……。
いえ……これは、あくまでウワサでしかありません。
ただ、呪いというものが存在するのだとしたら……
これこそ、歯科医院の呪いなのか、とも思ってしまうんです。
あれから、私の携帯はもちろん、息子の携帯にも、
あの病院からの着信が入ることはありません。
高速道路を経由して、約一時間半。
たどり着いたその場所は、確かに未だ営業しているとは冗談でも言えぬほど、
真っ黒くススけた建物が、今なおそのまま存在していました。
「ほら、ヨシヒロ。持ってきたお花を」
「う、うん……」
トランクに積んでおいた生花を、息子に運ばせます。
「あ、お、おばさん……私たちは……」
「あぁ、ごめんね。ヨシヒロを手伝ってやって。私は先に置く場所を探すから」
あの後、昨日、ここの医者を訪れたというサークル仲間とどうにか連絡をつけ、
運よく都合のあった二人が、共についてきてくれているのです。
話を聞けば、やはり彼らの携帯にも異様なほどの着信が入っており、
なんとか逃れたいと、藁にもすがる思いで同行してくれたようでした。
都合の合わない他のメンバーは、
後日改めて訪れるという話に落ち着いたのだとか。
「…………」
黒こげの建物を前にして、私はなんとも言えない
寂寥感とともに一帯を歩き回りました。
まるで、つい昨日火事が起きたばかり、と聞いても
不思議ではないくらい、焼けた柱も屋根の骨組みも、
そのままの姿で残っています。
「母さん?」
「あ、お花ね。……そうね、このあたりでいいかな」
通行の邪魔にならなくて、一
目もさほど気にならない、入口の門の開き部分。
そこに薄いビニールを敷いて息子たちに花を供えさせました。
「すみませんでした……」
「騒いじゃって、ごめんなさい」
彼らも、心から反省しているようでしっかりと両手を合わせています。
私もその場に膝をついて、そっと胸中で祈りました。
(ご迷惑をおかけして申し訳ございませんでした。
……どうぞ、彼らを許してやってください)
シン、となんの物音もしないその場所は、
歓迎とも拒絶ともつかない、不思議な雰囲気を宿しています。
(もし、お怒りが収まらなければ……彼らではなく、どうか私に)
直接的に関係していない私の携帯に着信が入ったのは、
彼らをどうにかしろという暗示か、そ
れとも逆に更に引き込もうとしたこの病院の意思なのか。
「……ごめんなさい」
ポツリ、と最後に深々と息子が頭を下げれば、
ガラッ
不意に目前の家屋が音を立てました。
「え、なに……?」
私たち四人が呆然としているなか、
ガラッ……ガラガラ……
今まで、あれほどしっかりと立っていた黒こげの建物が、
激しい分解音を鳴らして崩れていったのです。
「え、え、なにこれ!?」
「けっ、警察に電話したほうがいいの!?」
皆が混乱し、どうすればいいやらとあわあわと周囲を見回していると、
丁度通行人らしきお爺さんが散歩しているところに出くわしました。
「あ、す、すみません! と、突然うちが壊れて、あの」
「ん? ……あ、あんたら。もしかしてそこの病院の?」
そのお爺さんは、こちらの取り乱し具合と、
目前の建造物の残骸を見比べて、訳知り顔で頷きました。
「気にせんでええ。……崩れたのを見たんだな? じゃあ大丈夫だ」
「え……?」
その老人の言っている意味が理解できず、皆そろって首を傾げると、
「そこんち、もうとっくに更地なんだよ。だけど、たまにあんたらみたく、
無いはずの病院を見ちまう奴がいるんだ。でも、今壊れたのを見たんだろう?
あるべき姿に戻ったってことは、もう、大丈夫だよ」
と、何てことないかのようにサラッと告げて、
そのままどこぞへと姿を消してしまいました。
残された私たちは、たった今耳にしたあまりにも不可解な現状に、
ただただた唖然と顔を見合わせることしかできませんでした。
あのお爺さんの方った話によれば、
すでに何も無いはずの、あの白来屋歯科医院の場所。
そこにススけた建物の姿を見てしまったこと自体、
異常だったということなのでしょう。
確かに、数年前に火事になった建物が、
今なおその姿をそのまま残しているなど、
普通であれば考えられないことでした。
花を供え、謝罪もしたことで、
冷やかしではないと許してもらえたということなのでしょう。
……ただ、一つだけ。
あの、息子と同じサークルの、一緒に肝試しにいった数人。
後できちんと謝罪に行ったメンバーは別として、
ただの携帯の不調だと笑い飛ばして、何もせずに放置した人がいたようで。
彼、元々素行が悪い子だったようなんですが……その後、
すぐに大学を辞めてしまったそうなんです。
ウワサでは、あくどい人と絡んでしまって、
地元に戻らざるを得なくなった、と。
それも……制裁で、口の中の歯をすべて抜き取られてしまった、だとか……。
いえ……これは、あくまでウワサでしかありません。
ただ、呪いというものが存在するのだとしたら……
これこそ、歯科医院の呪いなのか、とも思ってしまうんです。
あれから、私の携帯はもちろん、息子の携帯にも、
あの病院からの着信が入ることはありません。
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