【電子書籍化】ホラー短編集・ある怖い話の記録~旧 2ch 洒落にならない怖い話風 現代ホラー~

榊シロ

文字の大きさ
308 / 415

121.大沼公園②(怖さレベル:★★☆)

しおりを挟む
「……ん~……?」

夜。

完全に飲み会の後と化したごっちゃな部屋のなか、
私はふと目を覚ましました。

周囲にはてのひらで雑につぶしたと思われる空き缶、
菓子袋は酔った勢いでビリビリに破かれ、周囲に散乱しています。

(……の、飲み過ぎた)

頭の奥はガンガンと痛みを訴え、はきだす息にも酒気を感じます。

喉がいがらっぽく、なんとなくまぶたにも重さを感じて、
私は手近にあったミネラルウォーターのペットボトルをがぶ飲みしました。

ひと心地つき、リビングでひっくり返っていた体を起こせば、
友人もとなりで大の字になってグースカと眠りこけています。

(あー……頭いたい。それに、ちょっとは片づけとかないと)

重たい頭を左右にゆすると、なおグラリと脳がきしむ感覚。
パチパチとなんどか目をしばたかせ、ふーっと深く息をはきだしました。

「はあ……今、何時……?」

深く考えずに、彼女のベッドの上のデジタル時計に目をやると、
表示されていたのは『AM2:00』の表記。

(うわっ……見なきゃよかった)

午前2時など、いかにも幽霊が出るといわんばかりの丑三つ時。

シン、となんの物音もしない静まり返った室内や、
カーテンの向こうの夜の道路、電気の消えた廊下の奥など、
意識を始めると、あちこちが恐怖を煽る対象のように思えてきます。

「……やだなぁ」

中途半端に体を起こしてしまったせいか、
眠気はすでに遥か彼方へ消え去っていました。

この部屋にテレビやラジオはなく、気を紛らわせるには自分のスマホくらいですが、
それも酒を酌み交わすうちのドコへ放ったやら、手元に見当たりません。

「かんべんしてよ……」

少し涙目になりつつ、ガサゴソと散乱したお菓子の袋をかき分けていると、

「…………」
「…………」

(……人の声?)

ざわざわと、遠くから話し声らしきものが聞こえてきました。

(窓の外っぽい……公園?)

くぐもった、複数人のにぎやかなしゃべり声。

なにを言い合っているのかはわかりませんが、
その楽しそうな笑い声は、家の中まで聞こえてきます。

(あー……肝試しに来た人たちだかな)

友人の言っていた『夜の治安はビミョーに悪くって』
という台詞を思い出しました。

(でも……よかった。誰かいるんだな)

今までの、耳が痛いほどの静寂に比べれば、
多少さわがしくても怒りは湧いてきません。

むしろ、キャハハハ、という独特のかん高い笑い声すら、
気をやすらげるための材料のように思えて来る始末です。

「あ~……もう、起きてよっかな」

散らばったゴミを集め、缶とビンをそれぞれビニール袋におしこめても、
眠気はいっこうに戻ってきません。

ちらりと視線を向けた窓。
薄く開いたカーテンの隙間から見える空は、まっ暗です。

声はうっすらと聞こえるものの、アパートの柵の向こうにある公園は、
照明すらも落とされて、ただただ暗い闇が広がるばかり。

(まったく、よく肝試しなんて行く気になるよねぇ……
 呪われたらとか、不審者がいたらとか……考えないのかなぁ)

怖いもの好きではあるものの、根っからのおくびょうである自分には、
肝試しという危険に自らとびこんでいく行為は、まったく理解できなかったのです。

キャハハ……
……んだよ、オイ……

(……それにしても、さわがしいな)

彼らはいったいなにがそんなに面白いやら、
いまだワイワイとはしゃぎ続けていました。

換気のために空けた窓の間から、より鮮明に声が聞こえてきます。

(ちょっと外……気になるなぁ)

あまりにも外が楽しそうだからでしょうか。

すこし。ほんの少し。
その様子を、確認したくなったのです。

一度そう考えると、ソワソワして、居ても立っても居られません。

私はそっと息を殺して、公園側の窓へ近づくと、
ゆっくりとカーテンの隙間に目を寄せました。

「……ねーっ……」
「……あ……だから~……」

彼らの会話が続く方向に、そっと目をこらします。

(んー? 暗い、なぁ)

窓に近づけば、かろうじて星明かりやアパートの照明で、
うっすらと公園のなかが見えてきます。

しかし、木がうっそうと生い茂る公園の中、
ウロウロと徘徊しているであろう彼らの姿は見当たりません。

(……公園。不気味だなぁ)

夜の公園。

木々が一定間隔で生い茂り、土の上に細く影が落ちています。
歩道のアスファルトに映る電柱や家の影は、無機質でどこか冷たささえ感じました。

ときおり吹きつけた風が葉っぱをぶわりと揺らして、
ザワザワと繊維のこすれる音が不安を煽ります。

サワッ……

窓の外で、ひらりと枯れ葉が舞い落ちます。
わずかな喧騒と、木々のざわめきの共演。

深夜の闇深い世界で、場違いのように明るい若者たちの声は、
ひどくミスマッチに聞こえました。

(元気だなぁ……あっ、あの集団がそうか)

公園に入りこむ照明の光に照らされて、
笑い声の主たちが姿を現しました。

(いち、に……四人か)

遠目に見えた人数を数え、あきれ気味に首を横に振りました。

ずっと見ていても仕方がないし、
部屋の片づけに戻ろうかなぁ、と窓の桟に手をかけた時。

ふっと、違和感に気づきました。

(なんか……今の人たち、見覚えがあるような……)

若い四人組の肝試し客。
チラリと視界に入った風貌に、感じる既視感。

アルコールに浸されてにぶい脳内をどうにかぐるりと巡らせて――
ハッ、と気付きました。

「……ここに来る途中の」

マナの家へ向かう途中、ワイワイと肝試しの話をしていた大学生たち。
彼らの着用していた服装に、そっくりなのです。

(はー……妙な縁、ってのはあるなぁ)

まさか、偶然通りすがった面々の姿を、再び見ることになるなんて。

彼らは肝試しを終えたのか、アパートに近い公園の通路をとって、
これから出口の方へと向かうところのようでした。

(あれだけ平然としゃべってるってことは、
 なんにも起きなかったってコトなんだろーな)

暗い公園のなか、へっちゃらな様子でふらふら歩いている姿は、
とても恐怖に襲われているとは思えません。

結局、ウワサはウワサか、と私は窓から離れました。

そして、睡魔が再びおとずれないかと、
なまあくびをしつつ、時計へと目を向けた時。

(はー……夜中の二時二十分か。……え、二時、二十分!?)

肌の表面に鳥肌がぞわっと広がりました。
気づきたくない事実に、気づいてしまったから。

今が、二時二十分。
私が、彼らが公園へ向かうのを見たのは、夜の八時頃。

その間の、約六時間半。
まさか彼らは、あの公園内にいたのでしょうか?

「…………っ」

コンビニやカラオケなどの、
時間をつぶせるような施設はこの辺りにはありません。

もし、一度入って帰ったのだとして、再びこんな時間にやってきたのか?
それともやはり、ずっと今まで公園のなかにいたのか?

いや――そもそも彼らは、同一人物なのか?

「…………」

私は窓の方を、とても振り返れなくなっていました。

一番まともな展開としては、
あの時間に行って、なにも起きなかったから、
また深夜に再度おとずれた、というのがありえそうな理由です。

しかし、一度行ってなにも起きなかった心霊スポットに、
わざわざ同じメンバーを集めて同日訪れる、なんてことあるのでしょうか?

さきほどの沈黙に対する恐怖とは別種の、
じりじりと心の奥底を浸食するような暗い恐怖がせまってきます。

(……彼らは、なに?)

ただの学生の肝試し客。
本当に――それだけ、なのでしょうか?

「…………っ」

窓を背にした私の耳には、彼らのにぎやかな声が聞こえています。
バカ笑い、手をたたく音、靴が小石をけ飛ばす音。

そして、その合間に――不思議な音が、聞こえてきました。

ざわざわと、雑音のように聞こえる彼らの声。
夜の風に揺れる木々のざわめき。
そして、ぴちゃぴちゃ、としたたる水の音。

>>
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

少し怖いホラー短編集(文字数500以下)

仙 岳美
ホラー
文字数500以下のショート集です、難しく無いので気楽にどうぞ。

それなりに怖い話。

只野誠
ホラー
これは創作です。 実際に起きた出来事はございません。創作です。事実ではございません。創作です創作です創作です。 本当に、実際に起きた話ではございません。 なので、安心して読むことができます。 オムニバス形式なので、どの章から読んでも問題ありません。 不定期に章を追加していきます。 2026/1/2:『そうしき』の章を追加。2026/1/9の朝4時頃より公開開始予定。 2026/1/1:『いえい』の章を追加。2026/1/8の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/31:『たこあげ』の章を追加。2026/1/7の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/30:『ねんがじょう』の章を追加。2026/1/6の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/29:『ふるいゆうじん』の章を追加。2026/1/5の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/28:『ふゆやすみ』の章を追加。2026/1/4の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/27:『ことしのえと』の章を追加。2026/1/3の朝8時頃より公開開始予定。 ※こちらの作品は、小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで同時に掲載しています。

百の話を語り終えたなら

コテット
ホラー
「百の怪談を語り終えると、なにが起こるか——ご存じですか?」 これは、ある町に住む“記録係”が集め続けた百の怪談をめぐる物語。 誰もが語りたがらない話。語った者が姿を消した話。語られていないはずの話。 日常の隙間に、確かに存在した恐怖が静かに記録されていく。 そして百話目の夜、最後の“語り手”の正体が暴かれるとき—— あなたは、もう後戻りできない。 ■1話完結の百物語形式 ■じわじわ滲む怪異と、ラストで背筋が凍るオチ ■後半から“語られていない怪談”が増えはじめる違和感 最後の一話を読んだとき、

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

百物語 厄災

嵐山ノキ
ホラー
怪談の百物語です。一話一話は長くありませんのでお好きなときにお読みください。渾身の仕掛けも盛り込んでおり、最後まで読むと驚くべき何かが提示されます。 小説家になろう、エブリスタにも投稿しています。

(ほぼ)1分で読める怖い話

涼宮さん
ホラー
ほぼ1分で読める怖い話! 【ホラー・ミステリーでTOP10入りありがとうございます!】 1分で読めないのもあるけどね 主人公はそれぞれ別という設定です フィクションの話やノンフィクションの話も…。 サクサク読めて楽しい!(矛盾してる) ⚠︎この物語で出てくる場所は実在する場所とは全く関係御座いません ⚠︎他の人の作品と酷似している場合はお知らせください

処理中です...