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125.井戸の怪異3①(怖さレベル:★★★)
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(怖さレベル:★★★:旧2ch 洒落怖くらいの話)
『20代男性 野上様(仮)』
……バカなコトしたなぁ、って思ってますよ。
若気の至りというか、怖いもの知らずだった、というか。
丁度、他の新卒の巌と小戸木と意気投合して、
あのハードな研修を揃って乗り越えられたっていう連帯感、
仲間意識みたいなものがあって。
特に巌は少々気が強くて、先輩になめられてたまるか、
って食って掛かるようなところもあったし、
小戸木もそんな巌によく同調していましたし。
俺だって、大学卒業したばっかのまだ学生気分で、
そんな二人にヘーコラくっついていたんだから、まぁ同じようなモンでしたけれど。
ヒィヒィ言いながら五日間の恐ろしい研修が終わって、最終日。
小戸木が確か、言いだしっぺだったと思います。
「あの井戸、調べてみようぜ」って。
それは初日から俺たち三人の中じゃ、ずっと話題になっていた場所。
だって、合宿所の裏に、あんないかにも何か封じてます、
みたいなモンがあったら気になるでしょう?
おまけに、簡単には開けられないよう、板で目張りされている、
いかにも古びた過去の産物。
ただ枯れて使ってない、ってだけなら、
さっさと壊すなり潰すなりすりゃあいいものを、わざわざ残してるってのも気になる。
それで、中途組の二人を誘っても色よい返事がなかった為、
三人でさっそくそこに向かうことにしたのです。
「うわっ……雰囲気あるなー」
巌が、ニヤニヤと合宿所の外を見回しました。
建物を出た外は広い草原となっていて、常夜灯の刺さった道筋をたどれば、
外の便所に辿りつくようになっています。
問題の井戸はそこからぐるりと合宿所の壁側にそって、
俺たちの寝泊まりしている大広間の裏側へ出なければなりません。
「あっ明かり……携帯しかねェや」
小戸木が液晶を操ってライトをONにしました。懐
中電灯よりも数倍頼りないおぼろげな光は、
いよいよ肝試しに向かうという気持ちを盛り上げます。
「つーかさ……これ、三人揃って行ってもしょうがないだろ?
一人ずつ行ってこねぇか?」
そう提案したのは俺でした。
肝試しなら、三人で行ったら意味がありません。
その言葉に巌はすぐ頷いたものの、小戸木は一瞬、
ためらうように目を左右にキョロキョロと動かしました。
「じ……順番、どうすんだよ」
「ジャンケンで良くねぇ? 勝った順」
巌が、横からダルそうに答えました。
「どーせなにも出ねぇって! せいぜい野生動物がいいトコだろ?」
「ー……まぁな! そりゃそうだよな」
巌の笑い声に、小戸木も緊張をほぐすように笑っています。
「さ、じゃあ行くぞー? じゃーんけんー……」
「……お、そうくるか」
「うわっ……マジか?」
結局、小戸木、自分、巌の順番。
あっという間に決まった順番通り、
それぞれ井戸に向かうことになったのです。
「は~……たしかに雰囲気はヤバかったな~」
一番手の小戸木が、ニヤニヤしながら戻ってきました。
「約束通り、井戸んとこ、ちょっとイジってきたぜ。次はお前だなぁ」
ポン、と肩を叩かれ、俺は頷きました。
ちゃんと回ったことを証明するために、
井戸のところに印を残しておく、という話になっていたのです。
そして、次は俺が向かう版です。
「……じゃ、行ってくるわ」
「気をつけろよ」
「腰抜かすなよ~」
好き勝手言う二人の声援は無視しつつ、
携帯を片手に歩を進めていきます。
四月の夜。青々としげる草は、
一歩進むごとにザクザクと葉ずれの音を大きくします。
「あっ……くそっ」
携帯のライトに引き寄せられたか、
小さな虫がブンブンと顔の周りに集い、
手で振り払ってもまとわりついてくるかのようです。
森の中に響く、聞きなれないこもった鳥の声。
うす暗い視界の先で、ふわっとなにかが揺れ、
ビクリと身をひきつらせてよく見れば、ただの木の枝だった――
なんてことを数回くりかえした後、
ようやく目的の井戸の傍へと近づいてきました。
「……あれ、か?」
ぼうっと、夜闇に浮かび上がる白っぽい井戸らしきもの。
正面からみれば、いっそ四角形にすらみえるそれは、
やはり上部ががっちりと木版で覆われていました。
(……これか)
冷たい石造りの井戸。
ポツン、とこの場に存在するそれは、確かに重い存在感を感じさせます。
携帯のほのかな明かりで照らし出されると、
その無機質な石の建造物が妙にそら恐ろしく、ぶきみに思えてくるのです。
表面にはびっしりと乾いたコケがへばりつき、
木の板も風雨に長年さらされていたためか、
紫色に変色しているような有様。
「……うへェ」
いっきに重たくなった足を、それでも仕方なく井戸に向けます。
ぼうっと夜闇に浮かぶように存在するそれ。
脳内にかつて一世を風靡したホラー映画の映像が、
リアルにフラッシュバックしました。
「……ん?」
と、こわごわと井戸に近づいた視界の中に、
ふと違和感が浮かびました。
(……フタ、おかしくないか?)
木で覆われた板の上部。
そのわずかな端が壊れたか壊されたかで、剥がれて落ちているのです。
まるで、無理やり、むしり取ったかのように――。
(おいおい、巌のやつ……目印、ってこれかよ)
いくらなんでもバチ当たりすぎる、と引きつつ、
足元にパラパラと落ちているその木目を拾い、
気持ち程度に穴の上を塞ぎました。
「ったく……バレたらどうするんだよ」
ここ五日間の地獄の特訓が脳内に思い起こされ、
俺は苦笑いしつつ井戸から一歩、二歩と下がりました。
(よし、もういいだろ。さっさと帰って小戸木と代わろう)
俺が井戸の雰囲気にのまれつつ、
さっさとその場を逃げ去ろうとした、時。
コーン……
こもったような、鈍い音が空間に響きました。
>>
『20代男性 野上様(仮)』
……バカなコトしたなぁ、って思ってますよ。
若気の至りというか、怖いもの知らずだった、というか。
丁度、他の新卒の巌と小戸木と意気投合して、
あのハードな研修を揃って乗り越えられたっていう連帯感、
仲間意識みたいなものがあって。
特に巌は少々気が強くて、先輩になめられてたまるか、
って食って掛かるようなところもあったし、
小戸木もそんな巌によく同調していましたし。
俺だって、大学卒業したばっかのまだ学生気分で、
そんな二人にヘーコラくっついていたんだから、まぁ同じようなモンでしたけれど。
ヒィヒィ言いながら五日間の恐ろしい研修が終わって、最終日。
小戸木が確か、言いだしっぺだったと思います。
「あの井戸、調べてみようぜ」って。
それは初日から俺たち三人の中じゃ、ずっと話題になっていた場所。
だって、合宿所の裏に、あんないかにも何か封じてます、
みたいなモンがあったら気になるでしょう?
おまけに、簡単には開けられないよう、板で目張りされている、
いかにも古びた過去の産物。
ただ枯れて使ってない、ってだけなら、
さっさと壊すなり潰すなりすりゃあいいものを、わざわざ残してるってのも気になる。
それで、中途組の二人を誘っても色よい返事がなかった為、
三人でさっそくそこに向かうことにしたのです。
「うわっ……雰囲気あるなー」
巌が、ニヤニヤと合宿所の外を見回しました。
建物を出た外は広い草原となっていて、常夜灯の刺さった道筋をたどれば、
外の便所に辿りつくようになっています。
問題の井戸はそこからぐるりと合宿所の壁側にそって、
俺たちの寝泊まりしている大広間の裏側へ出なければなりません。
「あっ明かり……携帯しかねェや」
小戸木が液晶を操ってライトをONにしました。懐
中電灯よりも数倍頼りないおぼろげな光は、
いよいよ肝試しに向かうという気持ちを盛り上げます。
「つーかさ……これ、三人揃って行ってもしょうがないだろ?
一人ずつ行ってこねぇか?」
そう提案したのは俺でした。
肝試しなら、三人で行ったら意味がありません。
その言葉に巌はすぐ頷いたものの、小戸木は一瞬、
ためらうように目を左右にキョロキョロと動かしました。
「じ……順番、どうすんだよ」
「ジャンケンで良くねぇ? 勝った順」
巌が、横からダルそうに答えました。
「どーせなにも出ねぇって! せいぜい野生動物がいいトコだろ?」
「ー……まぁな! そりゃそうだよな」
巌の笑い声に、小戸木も緊張をほぐすように笑っています。
「さ、じゃあ行くぞー? じゃーんけんー……」
「……お、そうくるか」
「うわっ……マジか?」
結局、小戸木、自分、巌の順番。
あっという間に決まった順番通り、
それぞれ井戸に向かうことになったのです。
「は~……たしかに雰囲気はヤバかったな~」
一番手の小戸木が、ニヤニヤしながら戻ってきました。
「約束通り、井戸んとこ、ちょっとイジってきたぜ。次はお前だなぁ」
ポン、と肩を叩かれ、俺は頷きました。
ちゃんと回ったことを証明するために、
井戸のところに印を残しておく、という話になっていたのです。
そして、次は俺が向かう版です。
「……じゃ、行ってくるわ」
「気をつけろよ」
「腰抜かすなよ~」
好き勝手言う二人の声援は無視しつつ、
携帯を片手に歩を進めていきます。
四月の夜。青々としげる草は、
一歩進むごとにザクザクと葉ずれの音を大きくします。
「あっ……くそっ」
携帯のライトに引き寄せられたか、
小さな虫がブンブンと顔の周りに集い、
手で振り払ってもまとわりついてくるかのようです。
森の中に響く、聞きなれないこもった鳥の声。
うす暗い視界の先で、ふわっとなにかが揺れ、
ビクリと身をひきつらせてよく見れば、ただの木の枝だった――
なんてことを数回くりかえした後、
ようやく目的の井戸の傍へと近づいてきました。
「……あれ、か?」
ぼうっと、夜闇に浮かび上がる白っぽい井戸らしきもの。
正面からみれば、いっそ四角形にすらみえるそれは、
やはり上部ががっちりと木版で覆われていました。
(……これか)
冷たい石造りの井戸。
ポツン、とこの場に存在するそれは、確かに重い存在感を感じさせます。
携帯のほのかな明かりで照らし出されると、
その無機質な石の建造物が妙にそら恐ろしく、ぶきみに思えてくるのです。
表面にはびっしりと乾いたコケがへばりつき、
木の板も風雨に長年さらされていたためか、
紫色に変色しているような有様。
「……うへェ」
いっきに重たくなった足を、それでも仕方なく井戸に向けます。
ぼうっと夜闇に浮かぶように存在するそれ。
脳内にかつて一世を風靡したホラー映画の映像が、
リアルにフラッシュバックしました。
「……ん?」
と、こわごわと井戸に近づいた視界の中に、
ふと違和感が浮かびました。
(……フタ、おかしくないか?)
木で覆われた板の上部。
そのわずかな端が壊れたか壊されたかで、剥がれて落ちているのです。
まるで、無理やり、むしり取ったかのように――。
(おいおい、巌のやつ……目印、ってこれかよ)
いくらなんでもバチ当たりすぎる、と引きつつ、
足元にパラパラと落ちているその木目を拾い、
気持ち程度に穴の上を塞ぎました。
「ったく……バレたらどうするんだよ」
ここ五日間の地獄の特訓が脳内に思い起こされ、
俺は苦笑いしつつ井戸から一歩、二歩と下がりました。
(よし、もういいだろ。さっさと帰って小戸木と代わろう)
俺が井戸の雰囲気にのまれつつ、
さっさとその場を逃げ去ろうとした、時。
コーン……
こもったような、鈍い音が空間に響きました。
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