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136.理科室の人体模型・裏④(怖さレベル:★★★)
しおりを挟むまるで、マネキン。
いや、人形のような、そんな。
「せっ……せん、せい……?」
「あ……ああ、すまない。いや、はは、悪いな。臭いって言ったか? もし薬品でもこぼれちまってたら大変だ。ちょっと見て確認してくるかなぁ」
先生は、どこか上滑りするような乾いた笑みを浮かべて、
サッと立ち上がりました。
「則本、お前はどうする?」
「あ……お、オレ、荷物置いてきちゃったんです、けど」
「ハハッ、おっちょこちょいなヤツだな。いっしょに来るか?」
先生はいつもどおりの明るい口調で、
オレに問いかけてきました。
携帯とカバン、置き勉強の道具一式。
全部、そのまま理科室に置き去り状態です。
だから、取りに行かなくちゃいけない。
理性では、そう、わかっているんです、が。
「お、オレ……ちょっと、頭が痛くて。ここで待ってていいッスか?」
「ほお、珍しいな。わかったよ、荷物あったら持ってきてやるから」
「……お願いしまーす」
オレは、自分の恐怖を優先しました。
正直、先生ひとりで理科準備室へ行ってもらうのは悪い気もしたんですが、
直前にイロイロ体験しすぎて、体が震えて、とても一緒に向かえるような気分じゃなかったんです。
副担任はオレに軽く手を上げると、そのまま職員室を出ていきました。
残されたオレに、知り合いの先生が声をかけてきてくれたり、
偶然職員室に来たクラスメイトとのんびり話をしたりしているうちに、
気分もなんとなく落ち着いてきたんです。
そうそう、その時に気づいたんですよ。
アレだけびっしょりと濡れていた両手から、
いつの間にか、すっかり濡れた痕跡が消えていたのを。
乾いた、にしては赤い液体の痕もない。
痛みも傷口もないし、いったいなんだったんだか。
それから三十分ほど、職員室で待ち続けていたんです、が。
なかなか、先生は戻ってきませんでした。
三十分が過ぎ、一時間に迫ろうか、という頃、
オレはいい加減、焦ってきました。
(お、遅ぇ……!! いくらなんでも……!!)
行って帰ってだけなら、十分もかからない距離です。
それなのに、どうしてこんなにも時間がかかっているのか。
「あ、あのっ!」
オレはつい、近くの席で授業要項かなにかを作成していた、
見知った体育の先生に声をかけました。
「あん? なんだ、則本か。どうした」
「え、えっと! うちの副担任の先生、理科準備室に荷物取りに行くって言って、全然返ってこないんですよ……!!」
「あー、そういえば……職員室から出てってだいぶ経つよなぁ。まだ戻ってこないのか」
「そうなんです! もう一時間くらい経つし、ちょっと心配で」
オレが神妙な表情で言うと、体育の先生は気前よく立ち上がった。
「一時間か……たしかに時間がかかりすぎてるな。よし、ちょっと身に行ってみるか」
「あっ……お、オレも行きます!」
さすがに今回は、恐怖よりも心配が勝りました。
(理科準備室で、ゼッタイ、なにかがあったんだ)
オレは震える足を叱咤しながら、
体育の先生と連れ立って、理科室へと向かいました。
「あれっ」
向かった先、理科室の扉はキッチリと閉まっています。
「おーい、ここにいるかー? ……ん?」
と、体育の先生が理科室の扉を開けようと手をかけたものの、
そこは、ガチッ、と引っ掛かって、冷たくオレたちを拒みました。
「おかしいな……カギがかかってるが」
「えっ……じ、じゃあ、うちの副担任はどこに……」
「うーん……理科室へ行く、って言ってたんだよな?」
「ハイ、それは間違いなく」
先生が何度ガチャガチャしても、
ドアはまったく開く様子はありません。
「入れ違いになったのかもなぁ」
「でも……階段でもすれ違いませんでしたし」
「たしかに……うーん。じゃあ、トイレとか……」
と、体育の先生が腕を組んでうなっていた時です。
プゥン、とオレの鼻を、妙な臭いがつきました。
(この、変な臭い……あの時の!)
オレはハッとして、臭いのする方――
廊下から直につながっている、理科準備室に目を向けました。
「先生! もしかして、こっちにいるかも」
「お? ああ、準備室の方か」
体育の先生は、組んでいた腕をほどいて、
準備室の扉へと手をかけました。
そして、
ガラッ
すんなり、そちらのドアは開いたんです。
「おお。こっちは開いてるな。おーい、誰か……うわっ」
と、しかし。
先生は、その場でうわっと上半身をのけぞらせました。
「え、どうし……うっわ!!」
おそるおそる後ろから中を覗き込んだオレは、
悲鳴を上げてしりもちをつきました。
だって、そこは。
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