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144.冬のビニールハウス②(怖さレベル:★★☆)
しおりを挟むそして、ビニールハウスで影を見てからしばらく。
もう雪もすっかり解けて、春も半ばの季節です。
おれは退職から半年が過ぎ、
職業訓練校に通いつつ、新しい仕事を探していました。
まだコレぞ、というものは見つからないものの、
前職でやられたメンタルも改善してきて、
体力づくりにでも精を出すか、なんて思えてきた頃です。
その日はちょうど、なんの予定もない日でした。
おれはササッとジャージに着替え、
ランニングしに出かけることにしたんです。
だいたい十五分ほど走ったところで、
おれはいったん、休憩で立ち止まりました。
なまった体は、その程度の運動でもすっかりクタクタです。
ランニングをやめて、ゆるいウォーキングをしつつ、
おれはいつの間にか、ビニールハウスが立ち並ぶ畑の方までやってきていました。
のんびり歩いていると、突然。
右の手首からひじにかけて、
急に鳥肌がバーッて広がってきたんです。
「うわっ……なんだよこれ……!」
なんせ、もう春先で別に寒くもないし、
今まで走ったり歩いたりしていたから、むしろ汗をかいているくらいです。
でも、立ち止まっても鳥肌は引かないし、
ぞわぞわと背筋まで震えてくるしで、おれはちょっとしたパニックです。
とにかく早くうちに帰ろうと、
速足で歩きだそうとしたときです。
視界の端に、立ち並ぶビニールハウスが目に入ったのは。
そういえば、数か月前にあそこで獣っぽいのがいたんだっけ、
と、なんとなく思い出していると、
ドサッ、バリバリッ
と、ビニールハウスの中から、なにかが壊されたかのような
激しい音と、黒い影が見えました。
影は、人間の子どもくらいのサイズ。
ごそごそと、半透明のビニールハウスの中で、
もぞもぞと動いています。
(まさか……熊!?)
この辺りでは、サルやシカの目撃情報は日常茶飯事。
熊はほとんど見かけないものの、
昨今の山事情を考えれば、現れても不思議ではありません。
まだ鳥肌のやまない右手で携帯電話を取り出して、
消防か警察か、どっちに電話をかければいいんだろうとアタフタしている、と。
ビリッ……!
ビニールハウスの一部が破け、
黒い影がうごめいていた場所が、わずかにあらわになりました。
「……え、っ……!?」
おれの手から、携帯電話がすべり落ちました。
ビニールが破け、あらわになった骨組みと黒い影。
それは、想定していた熊ではなかったのです。
ゴソゴソッ――バリバリッ
ビニールハウスの中。
土の上で、中の枯れた作物やビニールを損壊させているモノ――いや、物体。
それは、人間の子どもほどの大きさの、
古びたお地蔵様だったんです。
そう、あの、よく首に赤い布を巻いている、お地蔵様です。
信じられないでしょう?
おれも、何度も目をこすりました。
でも、ガコンガコンと石の体を揺すって、
ビニールハウスの骨組みや、土、作物をつぶしているのは、
間違いなく、あのお地蔵様なのです。
表情はまったくの『無』であるものの、
その荒々しい動きはあきらかに『怒』の感情を含んでいました。
まったく理解ができない目の前のありさまに、
おれは茫然自失状態で、ポカンと大口を開けて固まりました。
――お地蔵様が、なんで?
というか、今見ている現象は、なんなんだ??
ゴソゴソッ――バリバリバリッ
激しい音を響かせて、ビニールハウスを壊していくお地蔵様。
もしかして、地蔵の形をした機械だろうか。
いや、それともなにかのイタズラ? ドッキリ? と周囲を見回してみても、
操っている人影も、撮影スタッフの姿もありません。
いや、それどころか。
周囲は、異様なほどシンと静まり返っています。
田舎であれば、虫や鳥の鳴き声が必ずどこかからきこえてきます。
それなのに、ここは完全なる無音。
なんだか、ヤバイ。
引かない鳥肌の原因は、十中八九コレでしょう。
早くこの場から離れなければ。
おれは震える足を叱咤して、
土の上に落ちた携帯電話を拾い上げた、その時でした。
ゴソゴソ……ピタッ
ひたすらビニールハウスの中を荒らしていたお地蔵様たちが、
おれが携帯を拾い上げた瞬間、パタッと動きを止めたんです。
(ば……バレた……?)
おれが、彼らの所業を見ていたことを。
ほんのわずかに、物音を立ててしまったことを。
冷や汗がドッと噴き出して、
しゃがんだ中腰の姿勢のまま、おれは動けなくなりました。
どうしよう。このまま、なりふり構わず逃げてしまおうか。
それとも、お地蔵様たちが動きを再開するまでは、様子を見た方が……?
と、グルグルと脳内で考えている、と。
ゴソゴソッ……グルンッ
「ひっ……!?」
地蔵の首が、ぐんにゃりと百八十度回りました。
つまり、おれと、バッチリ目があってしまったんです。
その、石造りの、なんとも無機質な表情!!
なんの感情もない、いうなればアルカイックスマイルを浮かべた顔は、
だからこそ、この上ない不気味さと恐怖を感じます。
「あ……ああ……っ」
おれは、つかんだ携帯電話を両手で握り、フラフラと後ずさりました。
――見つかった。見つかってしまった!!
お地蔵様にバレてしまった!!
おれが恐怖で体を硬直させている目の前で、
お地蔵様は、ジィッとこちらを見て動きません。
あれほど飛び跳ねていた体はピタッと静止し、
気色悪いほど静かに。
(今のうちなら、逃げられるかも……!!)
『アレ』が止まっている間に、一刻も早くこの場所から離れなければ。
おれは携帯を握ったまま、クルッとその場から背を向けて、
勢いよく走りだそうとして――
「っ、痛ッ!!」
少し走ったところで、なにかにつまづいてスッ転びました。
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