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153.中古の洗濯機②(怖さレベル:★★☆)
しおりを挟むそうしないと、急に沸き上がってきた恐怖で、
心臓が飛び出してしまいそうでしたから。
それでも、やっぱり怖いのには変わりないので、
おれは洗濯機のコンセントを引き抜くと、
部屋に戻って布団をかぶり、朝まで震えながら過ごしました。
その次の日。
おれが大学で講義を受けていると、兄からメッセージが送られてきました。
『洗濯機のコンセントお前抜いた? 急に使えなくなっててビビったんだけど』
と。
そういえば、昨夜コンセントを抜いた後、そのままにしていました。
いや、そもそも、兄にはあの洗濯機の異常を知らせていなかったんです。
『あ、悪い。なんか故障したっぽくて抜いといた。っていうか、中に赤いスカート入ってたけど、あれ彼女の?』
『スカートなんて知らねぇし。それに、コンセントさしたらふつうに使えたぞ』
『え、中に入ってたスカートどうした?』
『スカート? おれが見たときはからっぽだったけど』
話がかみ合わないというか、なにか変です。
オレは講義が終わったタイミングですぐに退室して、
兄に電話をかけました。
『お? なんだ、どうした?』
「いや、さっきの話だけど。……なあ兄貴、洗濯機開けたとき、中ほんとにからっぽだった?」
『ウソついてどうすんだよ。スカートなんて入っちゃいなかったぞ』
当然ながら、なにか隠している様子ではありません。
なんだか不安になってきて、思わず声を潜めました。
「あの洗濯機さぁ……まさか、曰くつき……とかじゃないよな?」
『はあ? 曰く?』
「兄貴は知らねぇだろうけど、最近あれ、夜中に突然動き出すんだよ。昨日までで三日連続だぜ? おかしいって」
『まぁ機械だし、調子悪けりゃそういうこともあるだろ……考えすぎだって!』
と、兄はおれの心配をゲラゲラと笑い飛ばしました。
あまりに笑われるものだから、おれもなんだか、恥ずかしくなってきました。
確かに、幽霊の姿を見たわけでもありません。
それに、赤いスカートだって、おれが寝ぼけてみたのかもしれないし。
釈然としなさを感じつつも、
おれは洗濯機のことはもう考えないようにして、
これから向かうバイトへと、気持ちを切り替えました。
自宅へ戻ると、珍しく、兄がいました。
「お~お帰り。洗濯機、なんてことねぇぞ」
居間でダラダラしていた兄は、脱衣所を指さしました。
「ちょうど今も洗濯してるけど、問題なく動いてるしな」
「ちょうど……って、昼も洗濯してなかった?」
「いや~、だいぶ溜まってたからまとめてやってる」
と、兄はケラケラ笑いつつ、スマホを眺めています。
脱衣所を覗くと、すでに洗濯機は止まっていました。
「洗濯、終わってるみたいだけど」
「あー、今いいとこだから、テキトーにカゴに出しといて」
「はいはい……」
兄はスマホに夢中らしく、こっちに来る様子はありません。
しょうがねぇなぁ、と呆れつつ、
兄の洗濯物を取り出そうとした時でした。
――そう、取り出そうと、したんです。
「……ぎゃあッ!!」
洗濯機のフタを開けた瞬間、おれは後ろに飛びのきました。
だって――中に。
男物の下着やシャツに混ざって――あの、赤いスカートが、見えたんです。
「っ、な、え……っ!?」
洗面台にぶつけた背中をおそるおそる戻して、
再び、そーっと洗濯物の中をのぞき込みました。
――ある。
間違いなく、昨日見たのと同じ赤いスカートが。
「おい、なんだよ? 変な悲鳴上げて」
「……あ、兄貴……」
悲鳴につられたのか、兄が横からひょっこりと顔を出しました。
オレは表情を引きつらせつつ、洗濯物の中を指さしたんです。
「あ、あれ……な、中、見ろよ……!」
「中ぁ?」
兄は訝しげな顔で洗濯槽の中をゆっくりとのぞき、うわっ、と小さく声を上げました。
「んだよこれ……赤い……スカート? なんでこんなもんが」
「は、話しただろ、昨日! 夜、中に入ってたって……!!」
「はぁ? ……お前なぁ。おれを脅かすために、こんなモン仕込んだのか?」
「……そんなわけねぇだろうが!!」
疑いの視線を向けられて、
おれは思わず、本気で兄に殴り掛かりました。
「おっ、じ、冗談だっての! 悪かったって!!」
オレの怒りっぷりに兄も考えを改めたらしく、
マジメな顔をして、洗濯機の中のスカートをつまみ上げました。
「やっぱ元カノの……ってワケでもねぇな。見たことないし」
「なぁ……この洗濯機ってゆずってもらったヤツだろ? 前の持ち主の、とか……」
「あー……これ、知り合いのリサイクルショップやってるやつから、格安で買ったヤツだったなぁ……」
なんともいえない顔で黙り込んだ兄と、
さらに複雑な感情で黙ったオレの間には、
濡れた赤いスカートがあります。
さすがに、気味が悪すぎる。
オレがイヤイヤビニール袋にスカートを押し込んでいると、
兄はどこかへと電話をかけ始めました。
「……あー、悪い。なあ、前そっちで洗濯機買ったじゃん? あ、そうそう……かなり型式が古い……アレってさ、前の持ち主って女だった? ……あー……そっか。じゃ、わかんねぇってことで……あ、いやいや、なんでも。ありがとな」
どうやら、リサイクルショップの知り合いとやらに連絡をつけていたようです。
通話が終わったのを見計らって、どうだった? と聞いたものの、
「いやー……なんかあいつも、オークションかなんかで落としたヤツらしくて、前の持ち主についてはわかんねぇらしいんだわ」
と、結局なにもわからず終いです。
でも、このまま使い続けるなんて、正直、気味が悪い。
明日はちょうど土曜日。
電気屋にいって、新しい洗濯機を見てこよう、と兄が言い出したので、
オレはブンブンと首を振って頷きました。
とりあえず今の洗濯機はコンセントを抜いておくことにして、
ビニール袋に入れたスカートもベランダに出しておいて、
オレたちは何事もなかったかのように、その日は眠りにつきました。
……ゴウン、ゴウン……
(……あ、れ……?)
横になっているオレの耳に、ふと、ここ数日聞きなれた音が聞こえました。
「……またかよ……」
これで三日連続じゃねぇか、と、あきれ気分で起き上がろうとして、あ、と気づきました。
――コンセント、抜いておいたはずだよな?
じゃあ、今。聞こえているコレは、なんなのか。
幻聴? それとも、もしかしたら兄が、コンセントを刺しなおした?
(いや……そんなわけない……刺しなおす意味ないし……)
じゃあ、やっぱり幻聴?
それともまさか、霊的ななにか、とか――。
「……っ!?」
オレが、上半身を起こそうとした瞬間でした。
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