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160.廊下にあるもの①(怖さレベル:★★☆)
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(怖さレベル:★★☆:ふつうに怖い話)
あれは、私が仕事の繁忙期でヘロヘロになっていた頃でした。
システム系の業務だった為、納期が近づくと、午前様は日常茶飯事。
終電を逃してタクシー帰宅もしょっちゅうで、
今思い返すと、労働基準法に余裕で違反してるレベルの忙しさでした。
給料はちゃんと出ていたので、まだマシでしたけど。
そんなだから、家に帰ってきてもただ寝て起きるだけ。
ひとり暮らしだったので、部屋は荒れに荒れ放題です。
たまに連絡をくれる母には心配かけないように、
仕事のことは、ほとんど話してはいませんでした。
とはいえ、都会でひとり暮らししている娘が気になるのか、
いつも、色々な食料品などを仕送りしてはくれていたんですけど。
その日も、私は深夜二時を過ぎてようやく家に辿りつきました。
正直、こんな時間に家に帰るくらいなら、
通勤時間も考えて、職場で寝泊まりしたいくらいですが、
まだ新人である私が、会社の仮眠室を使う権限はありません。
次の日、というか、本日の朝にはまた会社に行くのか、と思うと憂鬱になりつつ、
重たい足取りで荷物を玄関に置くと、ノロノロとリビングへ移動しようとしました。
カコンッ
「……ん?」
靴下の足が、硬いものを蹴り飛ばしました。
のっそりと下に視線を向けると、廊下の隅になにか小さなものが転がっていました。
(明日の朝、片付ければいいや……)
でも、私にはそれを確認する元気もなく、
シャワーすら浴びず、着の身着のまま、ベッドの上に倒れ込んだのでした。
次の日の朝。
布団の誘惑をなんとか跳ねのけて、
シャワーを浴びて目を覚ましているとき、
ふと、昨夜のことを思い出したんです。
(そういえばなんか蹴ったけど……アレ、なんだったんだろう)
浴室から出て、廊下をザッと見回しても、
蹴飛ばしたらしき物体は、どこにもありません。
家に発生する虫を脳内でいくつか思い浮かべましたが、
足にぶつかった感触は、硬いものでした。
鉄ほど固くもなく、トイレットペーパーのように軽くもない感じ。
虫だったら、もっとぐにゃっとしているでしょうし――。
「……まあいいか」
疲れ切っていた私には、なんだかわからないものにかまけている心の余裕も、
時間もなかったんです。
玄関に置き去りだったカバンを肩に背負うと、
そのまま、朝ごはんも食べずに会社に向かいました。
(ハア、疲れた……)
自宅のドアを開けて、目に入った時計の時刻にため息をつきました。
もはや、明け方といえる午前五時。
うっすらと日が差し込むカーテンを閉めて、
私はノロノロと重い足取りで、寝室へと向かいました。
(転職しようかなぁ……)
いくら給料が良いとはいえ、それにしたって体の負担が大きすぎる。
ボーっとそんなことを考えつつ廊下を進むと、
コンッ
「……あれ?」
また、なにか硬いものが足にぶつかりました。
二日連続となると、さすがに気にかかります。
私は廊下の明かりをつけて、蹴り飛ばしたものへ視線を向けました。
「……うわっ!」
思わぬものが視線に入り、その場でドサッと尻もちをつきました。
廊下の隅に転がっていたのは、木彫りのこけしだったんです。
白い照明に照らされて、ぼんやりとこちらを見る茶色い顔。
女性をかたどったおかっぱ頭と目が合って、ゾワッ、と鳥肌が立ちました。
「ひ、う……く、ゲホゲホッ」
あまりの恐ろしさに呼吸が止まっていたせいか、
私は思わず、せき込みました。
喉がヒューヒューと鳴って、目には涙。
常軌を逸した恐怖に、半ば過呼吸状態です。
ヤバイ、どうしよう、怖い。
頭の中にはそんな言葉が渦巻いて、ベッドの上で身を震わせることしかできません。
すると、直後。
ギシッ……ギッ……バタバタン!
突然、目の前で激しい足音がして、ドアがつよく閉まりました。
「ゲホッ……え、なに……??」
ビックリした衝撃で過呼吸が収まり、
目をゴシゴシとこすると、もう、カーテンの向こうにこけしの姿はありませんでした。
ベッドから降りて、おそるおそる廊下を確認してみても、その姿はありません。
そして、やっぱり、部屋のカギは開いたままでした。
(うちから出てった……? でも、なんで……?)
ホッと一安心しつつも、脳内はハテナでいっぱいです。
でも、いなくなってくれたなら、都合がいい。
私はしっかりと部屋のカギを閉めると、
念のため、部屋の入り口に盛り塩を置いて、そのまま二度寝することにしました。
>>
あれは、私が仕事の繁忙期でヘロヘロになっていた頃でした。
システム系の業務だった為、納期が近づくと、午前様は日常茶飯事。
終電を逃してタクシー帰宅もしょっちゅうで、
今思い返すと、労働基準法に余裕で違反してるレベルの忙しさでした。
給料はちゃんと出ていたので、まだマシでしたけど。
そんなだから、家に帰ってきてもただ寝て起きるだけ。
ひとり暮らしだったので、部屋は荒れに荒れ放題です。
たまに連絡をくれる母には心配かけないように、
仕事のことは、ほとんど話してはいませんでした。
とはいえ、都会でひとり暮らししている娘が気になるのか、
いつも、色々な食料品などを仕送りしてはくれていたんですけど。
その日も、私は深夜二時を過ぎてようやく家に辿りつきました。
正直、こんな時間に家に帰るくらいなら、
通勤時間も考えて、職場で寝泊まりしたいくらいですが、
まだ新人である私が、会社の仮眠室を使う権限はありません。
次の日、というか、本日の朝にはまた会社に行くのか、と思うと憂鬱になりつつ、
重たい足取りで荷物を玄関に置くと、ノロノロとリビングへ移動しようとしました。
カコンッ
「……ん?」
靴下の足が、硬いものを蹴り飛ばしました。
のっそりと下に視線を向けると、廊下の隅になにか小さなものが転がっていました。
(明日の朝、片付ければいいや……)
でも、私にはそれを確認する元気もなく、
シャワーすら浴びず、着の身着のまま、ベッドの上に倒れ込んだのでした。
次の日の朝。
布団の誘惑をなんとか跳ねのけて、
シャワーを浴びて目を覚ましているとき、
ふと、昨夜のことを思い出したんです。
(そういえばなんか蹴ったけど……アレ、なんだったんだろう)
浴室から出て、廊下をザッと見回しても、
蹴飛ばしたらしき物体は、どこにもありません。
家に発生する虫を脳内でいくつか思い浮かべましたが、
足にぶつかった感触は、硬いものでした。
鉄ほど固くもなく、トイレットペーパーのように軽くもない感じ。
虫だったら、もっとぐにゃっとしているでしょうし――。
「……まあいいか」
疲れ切っていた私には、なんだかわからないものにかまけている心の余裕も、
時間もなかったんです。
玄関に置き去りだったカバンを肩に背負うと、
そのまま、朝ごはんも食べずに会社に向かいました。
(ハア、疲れた……)
自宅のドアを開けて、目に入った時計の時刻にため息をつきました。
もはや、明け方といえる午前五時。
うっすらと日が差し込むカーテンを閉めて、
私はノロノロと重い足取りで、寝室へと向かいました。
(転職しようかなぁ……)
いくら給料が良いとはいえ、それにしたって体の負担が大きすぎる。
ボーっとそんなことを考えつつ廊下を進むと、
コンッ
「……あれ?」
また、なにか硬いものが足にぶつかりました。
二日連続となると、さすがに気にかかります。
私は廊下の明かりをつけて、蹴り飛ばしたものへ視線を向けました。
「……うわっ!」
思わぬものが視線に入り、その場でドサッと尻もちをつきました。
廊下の隅に転がっていたのは、木彫りのこけしだったんです。
白い照明に照らされて、ぼんやりとこちらを見る茶色い顔。
女性をかたどったおかっぱ頭と目が合って、ゾワッ、と鳥肌が立ちました。
「ひ、う……く、ゲホゲホッ」
あまりの恐ろしさに呼吸が止まっていたせいか、
私は思わず、せき込みました。
喉がヒューヒューと鳴って、目には涙。
常軌を逸した恐怖に、半ば過呼吸状態です。
ヤバイ、どうしよう、怖い。
頭の中にはそんな言葉が渦巻いて、ベッドの上で身を震わせることしかできません。
すると、直後。
ギシッ……ギッ……バタバタン!
突然、目の前で激しい足音がして、ドアがつよく閉まりました。
「ゲホッ……え、なに……??」
ビックリした衝撃で過呼吸が収まり、
目をゴシゴシとこすると、もう、カーテンの向こうにこけしの姿はありませんでした。
ベッドから降りて、おそるおそる廊下を確認してみても、その姿はありません。
そして、やっぱり、部屋のカギは開いたままでした。
(うちから出てった……? でも、なんで……?)
ホッと一安心しつつも、脳内はハテナでいっぱいです。
でも、いなくなってくれたなら、都合がいい。
私はしっかりと部屋のカギを閉めると、
念のため、部屋の入り口に盛り塩を置いて、そのまま二度寝することにしました。
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