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転生、悪役令嬢に

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鏡を見て驚いた。そこにいるのは私ではないが、よく知る人物だった。

やたら自己主張の強い金色の髪に、いかにも気の強そうな鋭い目つき。

彼女の名はクリスティーナ・ゲバーゼ。私がプレイしていたゲームに出てくる悪役令嬢だ。

第一王子の許嫁でありながら、シナリオの最後で国外追放されたりして、メインヒロインから立場を奪われることになる。

などと他人事のように考えてみたが、今鏡に映るクリスティーナは、私の思うように動いている。

髪に触れようと思ったら手が動くし、頬を鏡に映そうと思ったら顔の向きが変わる。

まるで私がクリスティーナになったようだ。

さて、そんなことがあり得るのかと言う話だが、あり得るもなにも、実際にそうなっている。

よりにもよって悪役令嬢への転生。ゲームのストーリー通りに進むのならば、明るい未来はない。

しばらく悩んだ後に気がついた。これはチャンスだ。

だって私はつい数分前まで死のうとしていたのだ。買ってきたロープで輪っかを作り、天井から吊るしたところだった。

明るい未来なんてない。それは現世とは変わらない。だったら華々しく散ればいい。

せっかくゲームの登場人物に転生したのだ。シナリオ通りにハッピーエンドを迎えたらいい。

そうすれば悪役令嬢の私は、バッドエンドを迎えることができる。

「よし、シナリオ通りに進めよう」

そう決意した時、ドアがノックされた。

「クリスティーナ様、身だしなみのお手伝いでお伺いしました」

「ありが…入りなさい」

思わずありがとうと言いかけて、慌てて言葉を呑み込んだ。
クリスティーナは感謝などしない。どこまでも高飛車で、自己中心的でなくてはならない。

ならないのだが…これが難しい。
そもそもとして、性格が間逆すぎる。

生きるのがうまくいかなくて、死を選ぶぐらいに私は自己主張が苦手だ。

自分の意見よりも相手の意見に合わせてしまいがちだ。

だから入ってきた侍女に驚かれてしまった。

「どうかなされたのですか?…あ、いえ、何でもございませんか」

何をしたかって大したことではない。自分で服を脱いで、服を着せてもらったあとには、自分で髪を整えただけだ。

女の子なら普通のことだと思ったが、クリスティーナは違ったようだ。自分でできることも他人任せ。

そんなシナリオがいくつかあったのを思い出したのは、身だしなみを整え終わってからだった。
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