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牢獄と魔女と告白

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それからどれだけの時間を過ごしたのか分からない。
薄暗い牢獄は静かで、まるで時間が止まったかのようだ。

この感覚を私は知っている。
外に出られなくなり、毎日部屋に引きこもり、ゲームをしていた時と同じ感覚だ。

まるでこの世界には自分しかいないように感じ、孤独感に押し潰されそうになる。

そう考えると、今いる場所は私にピッタリだ。

そうだ、これでよかったはずではないか。
だって私は、バッドエンドを迎えるためにここにいるのだ。

このまま進めば、間違いなくクリスティーナにとってのバッドエンド。
王子と結ばれることはなく、最悪の未来が待っている。

それは私が望んだ未来と同じはずだ。

なのに私は……泣いていた。
涙が目から溢れ出し、止めることができない。

手で何度も目をこするが、涙は全く止まらない。

私は王子に嫌われたのだ。勝手に好かれていると思い込んでいただけで、実は好かれてはいなかったのだ。

一度は期待してしまったせいか、心にポッカリと穴が空いたようで、胸が痛い。

いや、痛いと思っているだけで、実は何も感じていない。感情がどこかに行ってしまい、ただ涙だけが流れ続けている。

トントンと音がして、誰かが近づいていくる。どうやら食事の時間のようだ。
投獄されたとは言え、それなりの扱いをしてくれているようで、しっかり食事は運ばれてくる。

「今日のご飯はなにかしら……」

ふと顔を挙げると、私のいる牢屋の前には、男の人とは違うシルエットがあった。

「クリスティーナ様、お迎えに来ました」
「アリスさん……? どうして?」
「詳しいお話は後です。私の一緒に逃げましょう」
「逃げるってどういう……キャッ」

クリスの手から光が放たれ、牢屋の入り口が音もなく消え去った。

「このままではクリスティーナ様は処刑されてしまいます」
「処刑? それはまたどうして?」
「クリスティーナが魔女であると疑いがかかっているからです」

魔女とは、この世界を滅ぼすとされる存在のことである。

ゲームのメインルートでも出てきて、アリスに取り憑いて王子を殺そうとする。

取り憑かれるのはアリスだけではない。ルートによっては、クリスティーナも取り憑かれる。

ただ取り憑かれるだけではなく、クリスティーナ自身が魔女になるルートも存在する。

「私が魔女……間違ってはいないわね」

自嘲気味に言う私の手を、アリスは握った。

「そんなのは間違っています! クリスティーナ様は魔女ではありません!」
「そんな慰めなんて結構ですよ……」
「慰めなんかじゃありません! だって魔女は……」

私に触れるクリスの手が、小刻みに震えている。そこからは嫌でも伝わってくる。
アリスが何かに恐怖していることが。

「魔女は……私の中にいるんです!」
「そんなことは……」

ないとは言えない。アリスが魔女に取り憑かれるルートは確かに存在するからだ。

だが……もしそうだとしても、明らかに早すぎる。
ゲームの中では、魔女の登場は早くても中盤以降。今はルート分岐どころか、まだプロローグの途中だ。
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