魔力を失ってもいいんですか?パーティーを追い出された魔力回路師は気ままに生きる

夜納木ナヤ

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精霊を食らうモノ

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「ちょっと何よあれ!?」

 エイラは俺に抱かれたまま、声を上げた。

 黒い物体は細長く、まるで蛇のようだ。
 コネも初対面のようだし、使い魔ではなさそうだ。

「フェアリーイーター。お主らで言うところのS級モンスターじゃな」
「フェアリーイーター…精霊を食べるの?」
「だな」
「だったら倒さないと!精霊が襲われるわ!」

 まだ耳が痛むようで、手で抑えながらも、睨みつけた。

「倒すのは同感だ…っと、」

 飛んできた水弾をよけた。
 どうやらエイラの宿している精霊の魔力に反応しているようだ。

「ミキヤよ。ワシの助けは必要か?」
「そうだな…」

 勝てなくはないだろうが、どうせなら楽して勝ちたい。

「せっかくだ、実験したい玩具はあるか?」
「ほっほっほ、乗せるのが上手いのう。よかろう、ワシお手製の魔具を貸してやろう」

 コネは空間を切り開くと、手を突っ込んだ。

「さあ出てくるのじゃ!破壊の腕輪!」

 ビー玉ぐらいの大きさの機械をに取ると、投げつけて来た。

「ったく、ほんとに扱いが雑だな…コネクト」

 こいつは発動前の魔具だ。
 魔力を流すと、本来の姿を取り戻す。

「小手か」

 とりあえず腕にはめると、何かの発射口がついていることに気が付いた。 

「そいつは威力が高すぎてのう。試す相手がいなくて困っておったのじゃ」
「そいつは楽しみだ。それで使い方は」
「発射と言えばビームが出るぞ」
「なんとも単純なことで」

 そうこうしているうちにフェアリーテールはエイラを食らおうと口を開けた。
 俺は前に立つと、小手を構える。

「発射」

 ズドドドドと物凄い轟音と共に森が揺れる。
 放たれたビームはフェアリーイーターの頭を貫き、尻尾まで貫通した。

「こいつは凄いな」
「はっはっは。いい威力じゃろ?」
「ああ」
「じゃがひとつだけ欠点があってのう、一度撃ったらしばらくは使えないのじゃ」
「そういうことは先に言え!」

 使い終えた魔具を、コネに向かって投げつけた。

 フェアリーイーターはボロボロになりながらも、水中に逃げて行った。

「さっきので倒せたら楽だったんだがな」

 だが問題ない。
 あれだけ傷を負っていれば、あとは殴れば終わるだろ。

「チューニン…おい、なんだよあれ」

 森から伝わってくるフェアリーイーターの体が修復していく。
 そして、後ろで悲鳴が上がった。

「きゃああああああああああああ」

 エイラは耳を抑えた。

「まさか、魔力を食っているのか?」
「苦しい…苦しいよ…はあ、はあ…」

 エイラの呼吸が激しくなる頃には、フェアリーイーターの体は完全に復活していた。

「こいつはまあ、なかなかなお手並みで」

 また一からやり直しか。
 森の魔力がある限り、永遠に回復し続けそうだな。

 その度にエイラは苦しみ続ける。
 いや、見えていないだけで精霊だって苦しんでいるはずだ。

 「ねえ、魔力回路師」
「なんだ」
「精霊を苦しめているのはあのモンスターなのよね」
「だろうな」
「じゃあ、私も戦う。いえ、戦わせて」
「あまり得策とは思えないな」

 モンスターの狙いはエイラだ。
 彼女が前に出るのは、餌が自ら突っ込んでいくようなものだ。

「それでも、ただ見ているだけなんて嫌よ」

 強い決意が伝わってくる。
 ったく、そんな目をされたら断れないじゃねえか。

「今までに回路を作ったことはあるか」
「ないわ。魔力屋には断られたいし、たまたま出会った魔力回路師にやってもらおうとしたことはあったけど、服を脱げって言われたからぶん殴ってさよならしたわ」

 それで散々魔力回路師の悪口を言っていたのか。
 あいつ基準で判断するのはやめてほしいものだ。

「そいつは賢明だ。ちなみにその魔力回路師は多分、エイラには回路を作れなかったぞ」
「嘘でしょ!?」
「そんなセクハラまがいの発言をするやつは1人しかいない。そいつは大雑把で細かい作業が苦手なんだよ。だが俺は違う」

 相手の状態に合わせて回路を作り分けることが出来る。
 
「1つだけ聞いておく。っと、邪魔だな」

 エイラを抱き抱えると、フェアリーイーターの攻撃をよけた。

「はっきり言う。死ぬかもしれないぞ」
「やるわ」

 エイラの目に迷いはなかった。
 何が彼女をそこまで掻き立てるのか分からない。

 精霊に助けてもらった恩返しのつもりか?

 そういうのは、嫌いじゃない。

「オーケー。コネ、少し時間を稼いでくれ」
「まったくお主は、ワシは魔王様の部下であってミキヤの部下ではないぞ」
「魔王の部下なんて、思ってもいないことを」

 俺は木陰に移動すると、エイラを立たせ、肩に手を当てた。

「ちょ、ちょっと、何するの」
「回路を作る。ちょっと目を閉じててくれ」
「え…まったく、魔力回路師はやっぱり変態なのね」

 エイラはおとなしく目を閉じる。そしてなぜか顔を赤らめると、唇を突き出して来た。

「コネクト」

 エイラの魔力は特殊だ。
 彼女の中には2人分、2種類の魔力がある。
 そして1つは、決して触れてはいけない精霊の力。

 普通に回路を作れば、全身に精霊の力が流れ込み、寿命が縮む。
 下手すれば数秒で死ぬことだってあり得る。

 軽く受けちまったけど思った以上に大事だな。

 右耳の周囲に何重もの魔力の壁を作った。
 これでしばらくは持ちこたえられるはずだ。

 あとはいつも通り、回路を作る。
 エイラの戦い方は知らない。
 だったら戦闘中に合わせるだけだ。

「終わったぞ」
「え?」

 ピクピクと唇を震わせながら、潤んだ目を向けてくる。

「キスは?」
「しないぞ」
「え?だって、魔力回路師は不埒なことをしないと回路を作れないんでしょ?」
「どんな偏見だよ…ほら、行くぞ」

 コネに合図を送ると、撤退していった。

「ワシの手を煩わせたのじゃ。面白いものを見せてくれよ」
「だそうだ」
「ちょっと、それ私に言ってるの!?」
「大丈夫だ」

 そう言うと、エイラの耳元に口を近づける。

「勝てばそれでいい」
「わ、わかった…」

 なぜか顔を赤らめるエイラだった。 
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