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第2章~ヴァルキリーを連れ出せ~

遅くなりましたが加護の試練を執り行います

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 そんなこんなでやってきたのは町から少し離れた場所にある草原だ。出てくるモンスターはスライムぐらいで、危険はないはずだ。

「それで改めて、なんで戦えなんていい出したし」

 相変わらずそっぽを向いたままではあったが、物腰は柔らかくなっている。もうひと押し、と言ったところだろうか。

「改めて俺はカリンと契約したい」
「別に解除するつもりはないし」
「そ、それでも、もういちどきちんとしておきたい」

 カリンが身近な存在すぎてヴァルキリーだと忘れていた。こんなことはもう二度あってはいけない。
 俺自身への戒めとして、一度戦っておく必要があった。

「そ、そこまで言うなら……分かったし。けど、もしウチが勝ったらどうする?」
「それは……」

 考えてなかった。契約を解除するつもりがないと言ってくれた以上、好きなところに行っていいなんて言えない。そんなことをしたら今度こそブチギレかねない。

「言うことを一つ聞くとかでどうだろうか?」
「まじで!?あ……」

 思いっきり目が合って、カリンは気まずそうに目をそらした。想像以上の反応だ。

「出来る範囲でだけどな。それで、勝敗はどうやって決めるんだ?」
「ウチが満足するまで立っていたらヤマトっちの勝ちだし」

 なんとも曖昧な条件だ。つまり、俺が攻撃をすべて捌き切ればいいのか?

「それじゃあ準備するし」

 その言葉を合図にしたように、カリンの手の中には丸い光が現れる。金色の、カリンの髪の色のように眩しい光は形を変え、一本の剣が姿を現した。

「試練の剣、レーヴァテイン。この剣の前ではどんな魔法も無意味になるし」
「つまり、純粋な剣での戦いになると」
「そうだし」

 そいつは困った。魔法による補助に期待していたのだ。
 なにせ俺は剣なんて握ったことはない。

「やるしかないか」

 ミサからもらった剣の鞘を抜いていく。すると、きれいに反っていて、片側だけが綺麗に磨き上げられた刃が見えてきた。
 これは剣ではない、刀だ。久しぶりに見た…と言っても昔行った刀剣博物で見たぐらいだ。少なくとも、この世界に来てからは見ていない。

「なにそれ、はじめて見るし」

 カリンは興味深々だ。やはり、この世界に刀は存在しないらしい。
 それもそうか。ヴァルキリーが侍の話を好むぐらいだ。

 まて、じゃあミサはなんで刀なんて持っていたんだ?

「早く構えるし」

 そうだった。今は余計なことを考えている場合ではない。カリンを満足させるのが第一優先だ。
 
 俺の前に立ちはだかるのはヴァルキリー、シュヴェルトライテ。剣を構える姿は美しく、一ミリのスキも見られない。
 対する俺は、完全な初心者だ。両手で刀を持ったが、肩や肘に力が入りまくっているのが自分でもわかる。傍から見たらスキだらけに違いない。

「いくし」

 カリンは金色の髪をなびかせながら、ダンスのように軽やかなステップで近づいてくる。剣先が動き、一瞬で見えなくなった。
 次の瞬間、刀は剣で弾かれ、俺は3歩ほど後退した。

「へーやるじゃん」
 
 カリンはなぜか楽しそうだ。今度は右にステップを踏むと、視界から消えた。
 カキン。目よりも早く、耳が情報を伝えてきた。また刀が、剣で弾かれた。

 いや、おかしい。なんで俺の正面にあった刀が右から来た攻撃を食らっているんだ?

 今度は左からカリンの剣が来る。そして俺は、正面から刀で受け止めた。

「なにそれぇ、動きは素人以下なのに全部反応してるぅ、まじうけるー」

 心底この状況を楽しんでいる様だった。まさかこれが、加護の力なのか?
 そういえばクランに来たばかりの奴が話しているのを聞いたことがある。剣なんて握ったことがなかったのに、体が勝手に動いていた、と。

「ヤマトっちー、受けてばっかりじゃつまらないっしょ。攻めてくるし」
「安い挑発だな」

 けどあえて乗ってやる。攻めたい。そう思うだけで、頭に情報が流れてくる。
 刀の使い方、カリンが構えから何をしようとしているのか、どのタイミングで動くのがいいのか。

「いくぞカリン!」
「ヤマトっち来るし!!」

 それから俺たちは、時間が経つのも忘れて刃を交え続けた。体は思ったよりも疲れていて、体を草原に投げ出すと、太陽が沈みかけていることに気が付いた。

「やるじゃんヤマトっち」

 カリンは言いながら。俺の隣に大の字になった。

「あーあ、こんなところを見られたら怒らちゃうし」

 満足した顔を浮かべながら、カレンは目を閉じた。草原の風が俺たちの間を吹き抜け、疲れた体を癒していく。
 いっそこのまま眠ってしまって…って、それじゃあダメだ!

「カリン、行くぞ」

 勢いよく立ち上がると、何事かという顔をしながら、カリンもゆっくりと立ち上がった。俺はすかさず膝裏に手を当てると、そのまま抱き抱えた。

「え?え?なに?」
「フライ」

 状況を理解できずにいるカリンを無視して、俺はそのまま飛び上がった。来たときは綺麗な緑だった草原は、太陽に照らされて赤く染まっていた。

「さっきは悪かったな。今度はゆっくり空の旅をしよう」
「ヤマトっち、まさか昼間のこと気にして…」
「そんなところかな」

 カリンの顔は夕日に照らされて赤く染まる。綺麗だ。前世にいそうな見た目なのに、芸能人やアイドルよりもずっと可愛い。思えば当たり前のことか。だって彼女は、ヴァルキリー……女神なのだから。
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