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火の国のクエスト
炎の女剣士5
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「見てくる」
リナはそう言い残すと、石を追いかけていく。
「おい、待て!」
俺が止める頃には、姿は見えなくなっていた。
「先輩、私たちは大丈夫です」
ミキの言葉にはエミリも頷く。
「まったく世話が焼けるわねえ。ちゃっちゃと連れ帰って来なさい!」
エミリに言われちゃお終いだな。最年長も形無しだ。
「ありがとう。ふたりとも、先に戻っていてくれ」
2人にそう告げると、俺は駆け出した。
いくつになっても変わらない、泣き虫のところへ。
あまり離れられていると困ると思ったが、彼女は存外に近くにいた。
「すまないな」
声をかけると、不満そうに睨まれた。
「先輩は意地悪だ」
膝を抱えて、一人うずくまるのは、クラン・スイレンの3人の女の子の最年長、リナだった。
「怖かったんだぞ。もし私の炎で2人が死んでしまったらと思ったら」
「でもそうならなかっただろ?」
「そうだが……そうじゃない!」
駄々っ子の頭を静かに撫でる。髪留めは遷都中に飛んでいってしまい、いつもは撫でるのを邪魔してくるポニーテールはそこにはない。頭の先から首元の隅々まで触れることが出来、首元には出来立てのキスマークまであった。
「本当に怖かったんだからな」
「ああ」
震える体を、うしろから抱きしめた。
いつも頼り甲斐のある背中も、この時ばかりは弱々しい。
しばらくそうしていると、リナはポツリと言った。
「こんな姿、2人に見られたら何と言い訳しようか」
「そんなものはいらないさ」
「だといいんだがな」
俺をリナのところに送り出したのは2人だ。今更文句を言うこともないだろう。
「エミリは気にしないさ。というか、想像すらしていないんじゃないか。ミキは、そうだな……あんまり遅いと心配で泣いてしまうかもな」
「そうか、ミキを泣かせるのは気が引けるな」
「エミリはいいのかよ」
「気にしないのだろう?」
かなり気にしていたけどな。
なんてことは、リナも分かっているはずだ。
「2人のことを心配するのもいいけどさ、自分も大事にしてくれよ」
「分かっている。分かっているさ」
「ここには俺たちしかいないんだ。今ぐらいは甘えてくれてもいいんだぞ?」
「ありがとう」
「それから……あとは何だろうな」
普段は弱いところを見せないリナに言葉をかけられる機会なんてあまりない。
伝えたいことはたくさんある。
そのはずなのに、その場になってみると言葉がでない。
歯がゆく思っていると、地面が光り出した。
「マグマかっ!?」
まだ生きていたのか!?
本体はどこだっ!?
開眼しようとすると、手を止められた。
「違うぞ先輩。よく見てくれ」
小さな光がいくつも舞っている。
見たこともないくらい優しくて、温かな光だ。
「ホタルだよ」
リナは立ち上がると、その光を見つめる。
悲しくて、優しくて、嬉しそうな顔をしながら。
体に張り付くようなじめじめした風が通り抜け、解けたままの髪を揺らす。
「綺麗だ」
思わず口にすると、リナは振り向いた。
「ああ、綺麗だな」
その笑顔は子供のように無邪気で、思わず見とれてしまった。
しばらくホタルを見ていると、1ヶ所を中心に集まっていることが分かった。
どうやらそこには、さっきの石が落ちているようだ。
「あの石は壊した方がいいのだろうか?」
残しておきたい。リナの意志がはっきりと伝わってきた。
それには俺も同意だ。
「ホタルは火の妖精の使いなんだよな?」
「そう言われているな」
「だったら、壊しちまったら皆が悲しむんじゃないか?」
石を壊したらホタルが来なくなった。
そうなったら寂しいじゃないか。
「けれど、またモンスターが現れたらどうすれば……」
「これは俺の推測だけどさ、その石には火の加護があるんじゃないか?」
ホタルは今も、石の上を飛び交っている。
火の精霊の使いだとしたら、主の近くにいようとするのは自然なことだ。
「だとしたら、邪気さえたまらないようにすれば大丈夫だと思うぞ」
「そうか、よかった」
リナはホッと息を吐くと、ホタルに背を向けた。
「もういいのか?」
「ああ、あまり待たせても悪いだろう?」
リナは髪に触れると、髪を後ろで纏め始める。みるみるうちにうなじが見えてきて、困った顔を浮かべると辺りを見渡した。
「お探しのものはこれかな?」
差し出したのは、大きなハートのついた髪留めだ。
戦闘中に落ちたのを、ここに来る途中で拾ってきたのだ。
「ありがとう」
リナは受けとると、ポニーテール作りを再開する。袖からチラッと脇がみえて、思わず視線をそらした。
「出来たぞ」
目をそらした一瞬の間に、いつものリナがそこにいた。
「またこれで、お姉ちゃんが出来るな」
「意地が悪いな先輩も」
真っ赤なハートの髪留めが、黒い髪の上で揺れた。感情の昂りを抑える加護付きの髪留めだ。
ハート型にする必要はなかったのだが、ミキとエミリが譲らなかった。どうせなら可愛い方がいいと。
「お姉ちゃんに疲れたら、いつでも外してくれていいからな」
「心配はいらないさ。お姉ちゃんをするのは慣れているし、好きだからな。それに、あの二人は素直で良い子達だ」
ポニーテールが揺れる横に俺は立つ。
「あの石だけどな、定期的に邪気を払う必要があると俺は思っている。期間はまだ分からないが、とりあえずは半年ぐらいで様子を見たい」
「それはまさか……」
俺の言わんとしていることに気がついたようで、リナは喜びを隠しきれない。
「半年後、また来よう。みんなでホタルを見にな」
火の国は感情を昂らせる。普段あまり感情を出さないリナにとっては、いい発散の機会になるだろう。
「先輩……その、ありがとう」
細かい理由はともあれ、真実はひとつだ。喜ぶ顔が見られるならそれでいい。
リナはそう言い残すと、石を追いかけていく。
「おい、待て!」
俺が止める頃には、姿は見えなくなっていた。
「先輩、私たちは大丈夫です」
ミキの言葉にはエミリも頷く。
「まったく世話が焼けるわねえ。ちゃっちゃと連れ帰って来なさい!」
エミリに言われちゃお終いだな。最年長も形無しだ。
「ありがとう。ふたりとも、先に戻っていてくれ」
2人にそう告げると、俺は駆け出した。
いくつになっても変わらない、泣き虫のところへ。
あまり離れられていると困ると思ったが、彼女は存外に近くにいた。
「すまないな」
声をかけると、不満そうに睨まれた。
「先輩は意地悪だ」
膝を抱えて、一人うずくまるのは、クラン・スイレンの3人の女の子の最年長、リナだった。
「怖かったんだぞ。もし私の炎で2人が死んでしまったらと思ったら」
「でもそうならなかっただろ?」
「そうだが……そうじゃない!」
駄々っ子の頭を静かに撫でる。髪留めは遷都中に飛んでいってしまい、いつもは撫でるのを邪魔してくるポニーテールはそこにはない。頭の先から首元の隅々まで触れることが出来、首元には出来立てのキスマークまであった。
「本当に怖かったんだからな」
「ああ」
震える体を、うしろから抱きしめた。
いつも頼り甲斐のある背中も、この時ばかりは弱々しい。
しばらくそうしていると、リナはポツリと言った。
「こんな姿、2人に見られたら何と言い訳しようか」
「そんなものはいらないさ」
「だといいんだがな」
俺をリナのところに送り出したのは2人だ。今更文句を言うこともないだろう。
「エミリは気にしないさ。というか、想像すらしていないんじゃないか。ミキは、そうだな……あんまり遅いと心配で泣いてしまうかもな」
「そうか、ミキを泣かせるのは気が引けるな」
「エミリはいいのかよ」
「気にしないのだろう?」
かなり気にしていたけどな。
なんてことは、リナも分かっているはずだ。
「2人のことを心配するのもいいけどさ、自分も大事にしてくれよ」
「分かっている。分かっているさ」
「ここには俺たちしかいないんだ。今ぐらいは甘えてくれてもいいんだぞ?」
「ありがとう」
「それから……あとは何だろうな」
普段は弱いところを見せないリナに言葉をかけられる機会なんてあまりない。
伝えたいことはたくさんある。
そのはずなのに、その場になってみると言葉がでない。
歯がゆく思っていると、地面が光り出した。
「マグマかっ!?」
まだ生きていたのか!?
本体はどこだっ!?
開眼しようとすると、手を止められた。
「違うぞ先輩。よく見てくれ」
小さな光がいくつも舞っている。
見たこともないくらい優しくて、温かな光だ。
「ホタルだよ」
リナは立ち上がると、その光を見つめる。
悲しくて、優しくて、嬉しそうな顔をしながら。
体に張り付くようなじめじめした風が通り抜け、解けたままの髪を揺らす。
「綺麗だ」
思わず口にすると、リナは振り向いた。
「ああ、綺麗だな」
その笑顔は子供のように無邪気で、思わず見とれてしまった。
しばらくホタルを見ていると、1ヶ所を中心に集まっていることが分かった。
どうやらそこには、さっきの石が落ちているようだ。
「あの石は壊した方がいいのだろうか?」
残しておきたい。リナの意志がはっきりと伝わってきた。
それには俺も同意だ。
「ホタルは火の妖精の使いなんだよな?」
「そう言われているな」
「だったら、壊しちまったら皆が悲しむんじゃないか?」
石を壊したらホタルが来なくなった。
そうなったら寂しいじゃないか。
「けれど、またモンスターが現れたらどうすれば……」
「これは俺の推測だけどさ、その石には火の加護があるんじゃないか?」
ホタルは今も、石の上を飛び交っている。
火の精霊の使いだとしたら、主の近くにいようとするのは自然なことだ。
「だとしたら、邪気さえたまらないようにすれば大丈夫だと思うぞ」
「そうか、よかった」
リナはホッと息を吐くと、ホタルに背を向けた。
「もういいのか?」
「ああ、あまり待たせても悪いだろう?」
リナは髪に触れると、髪を後ろで纏め始める。みるみるうちにうなじが見えてきて、困った顔を浮かべると辺りを見渡した。
「お探しのものはこれかな?」
差し出したのは、大きなハートのついた髪留めだ。
戦闘中に落ちたのを、ここに来る途中で拾ってきたのだ。
「ありがとう」
リナは受けとると、ポニーテール作りを再開する。袖からチラッと脇がみえて、思わず視線をそらした。
「出来たぞ」
目をそらした一瞬の間に、いつものリナがそこにいた。
「またこれで、お姉ちゃんが出来るな」
「意地が悪いな先輩も」
真っ赤なハートの髪留めが、黒い髪の上で揺れた。感情の昂りを抑える加護付きの髪留めだ。
ハート型にする必要はなかったのだが、ミキとエミリが譲らなかった。どうせなら可愛い方がいいと。
「お姉ちゃんに疲れたら、いつでも外してくれていいからな」
「心配はいらないさ。お姉ちゃんをするのは慣れているし、好きだからな。それに、あの二人は素直で良い子達だ」
ポニーテールが揺れる横に俺は立つ。
「あの石だけどな、定期的に邪気を払う必要があると俺は思っている。期間はまだ分からないが、とりあえずは半年ぐらいで様子を見たい」
「それはまさか……」
俺の言わんとしていることに気がついたようで、リナは喜びを隠しきれない。
「半年後、また来よう。みんなでホタルを見にな」
火の国は感情を昂らせる。普段あまり感情を出さないリナにとっては、いい発散の機会になるだろう。
「先輩……その、ありがとう」
細かい理由はともあれ、真実はひとつだ。喜ぶ顔が見られるならそれでいい。
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