長年のスレ違い

scarlet

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第一章

入学式

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学校のホームページの最初に堂々と載せられていて、校門前に美しく咲いている満開の桜。

その花びらは、風が吹くたびに地面にひらりと落ちて校門周辺には人だかりが出来始めていた。

こんな普段見ないような光景を見るのは今日で2回目。

私こと、一ノ瀬葵依は今日から中学2年生になる。

春休み明けで、久しぶりに校門に足を踏み入れた。

いろんな人に何度も見れてる気がするけど、いつの間にか、何か変なことしたかな?

学校に着く前からも人だかりを通り過ぎるたびに、私の方に何人か振り返っていた。

確か、中学校の入学式の時もそうだった気がする。

……とりあえず、あんまり人に見られないように、なるべく人気はさけながらクラス替え表を見よう。
でも、それには結構遠回りをしないといけない。

さっき向けていた方向とは別の、逆方向に足を進めた。

「葵依!」

突然後ろから、いつもの優しい香りに一瞬で包まれる。

さらさらの黒髪は肩にかからないくらいまであって、スラリとしている手足は少し日焼けしている。

そんな美香ちゃん事、星野美香はいつもの万編な…太陽みたいな笑顔を私に見せてくれた。

「美香ちゃん!クラス替え、ど、どうしよ…」

春休みに入る前からずっと気になって仕方がなかった。

美香ちゃんと同じクラスじゃないと、1年間新しいクラスで生きていけそうにない気がして…

美香ちゃんとは春休み中に何回か遊んだけど、制服姿で会うのは久しぶりで、新鮮な気持ちになったりする。

「中学生なんだから、私以外にも友達つくりなよー」

そう言って呆れながらも真っ直ぐに私を見てくれる。

その言葉通り、私には美香ちゃん以外に友達はいない。

昔からの引っ込み思案な性格から、自分でみんなみたいに友達を作ったり出来ない。

自分から話しかけることなんてもってのほか。

そんな未熟な私とは全く違って、美香ちゃんはサバサバしてて、明るく社交的。

運動神経がとっても良く、リーダーシップもとれるため、去年の体育大会で大活躍をしていた。

友達もたくさん周りにいて……でも、仲のいい人だけじゃなく、積極的にいろんな人に話しかけている。

それに、女子だけっていう限定をつくらずに、男子とも女子みたいに気軽に話している。

中学1年生になって1ヶ月が経っても、まともに友達もいなかった私は、クラスで完全にぼっちになっていた。

移動教室や昼休みとかで、学校生活は基本一人で居た私に、美香ちゃんだけは笑顔で明るく話しかけてくれた。

そんな特別扱いとかじゃなくて、周りのクラスメートと同じように、私にも接してくれた。

同じ音楽の趣味で意気投合して、よく話しているうちに「クラスメート」から「友達」に変わっていった。

自分の意見をハッキリと最後まで言える美香ちゃんは、同級生や先輩、先生からもすっごく信頼されている。

声をかけられた時からそんな美香ちゃんに憧れている。

美香ちゃんは私にとって大切な存在だから…

「葵依、まだそんなこと言ってんのか?」

その「葵依」という言葉に、鼓動がトクンと高鳴って、パチパチと炭酸が弾けたような感じがしてきた。

ちょっとした声だけでも、誰か言ったとかそんなのあたり前のようにすぐにでもわかる。
姿を見なくても。

そっと期待するように後ろを振り返る。

トクントクンといつも通りになりかけていた鼓動が、だんだんと高鳴り始めていた。

やっぱり!

一瞬で顔が赤くなってしまったのが感覚で分かった。

春風に揺られている、さらさらで綺麗な髪質の青い髪。

どこか真っ直ぐで揺るぎない、大きな瞳。

思わず見とれてしまいそうなぐらい、かっこ良かった。

「翼くん!」

翼くんこと、幼なじみの岡本翼くんは私の好きな人。

周りまで思わず元気にさせるその明るさは、真夏の太陽みたいにすっごく輝いて見える。

スポーツ少年団のサッカーチームに入っている翼くん。

そこでの厳しくて大変な練習が終わっても、1人で家の近くの公園で涼しげな夜にいつも練習している。

自主練習をしている事に気がついた時、そんな人1倍に頑張るその姿勢がふと私の目に焼き付いていた。

それから急に意識するようになって、いつの間にかいつも通りの言葉や仕草にも鼓動が高鳴っていた。

いつもあたり前のように話していた身近な会話も、話している間は鼓動の高鳴りが止まらくなっていた。

そっか。翼くんのことが好きなんだ…って、気づいた。

いつ好きになったのかそんなのよく覚えていなくて、自然と好きになっていたんだと思う。

今まであたり前のように隣りに居た、翼くんのこと。

でも、翼くんは学年関係なくモテるから、私なんかじゃ簡単に意識してもらえなさそう。

だけど、「幼なじみ」っていう関係は変わらないって思うと、自分だけが特別って感じて嬉しくなる。

みんなとは少し違った関係で、他の人よりは近い存在。

そんな些細なことでも私にはもう十分。

「はよ」

「お、おはよう」

自然に挨拶出来たかな?と、不安な気持ちになって、思わず下を向いてしまった。

やっぱり翼くんは私にとって特別なさ存在で、話している間は頭が真っ白になってしまう。

ここまで男の子として意識してなかった頃は、こんなことになっていなかったのにな…

前は自分から話しかけることが普通だったのに、今は向こうから話しかけられるのを待つだけ。

「葵依は何組?私、2組だけど」

さっきまで考えていた事から我に返ってみると、美香ちゃんが私に対して首を傾げていた。

美香ちゃん2組!?

目の前に貼ってあるクラス替え表から名前を見つけ出すために、とりあえず2組のところにさっと目を通す。

新しい2組の名簿に私の名前がない?

見間違えじゃないかと、目をこすって見てみたけど、2組には「一ノ瀬葵依」という自分の名前がない。

現実だから、ちゃんと受け止めないといけない。
けど、美香ちゃんと違うクラスなんて、これからどうなるんだろ。

あの時みたいにクラスでまた1人になるのかな?って、不安が次々にこみ上げてくる。

そんな中無理やり気持ちをきり変えさせて、1組から順番に名前の名簿を見ていったら、時間はかかったけど自分の名前を見つけることができた。

「7組」

美香ちゃんと離れてしまった。
2組と7組では合同体育のクラスも違うし、教室の階も違う。

そんな事を考えていると、気持ちをきり変えさせたはずなのに、落ち込むことしか出来なかった。

美香ちゃんの部活は他の部活よりも休日は特に忙しい。今だって2人でまともに遊べていないのに…話す時間も更に減るなんて。

神様は本当に意地悪。
今年のおみくじは「大吉」で「恋愛」は、将来幸福になる。って、書いてあったのにな。

「あ、3組だ。俺」

え!翼くんとも離れてしまったの?
今まで小学校の時からずっと同じクラスだったのに。

近くに居すぎて、いつも側に居てくれていた翼くんが居ないクラスは想像がつかない。

ってことは、美香ちゃんと翼くんは合同体育のクラスも教室の階も同じなんだ。
美香ちゃんが羨ましい......

1日に1回は絶対にお互い顔を見るんだろうな。
その時にいつも通り会話するんだろうな。

クラスが離れてしまったから、授業中に姿をそっと見たり、声を聞くことさえも出来なくなる。

自分から翼くんに対して中々話しかけることが出来ないから、余計にそうなってしまう。

そんな事を考えていたら、美香ちゃんが羨ましくなってしまう。
思わず、嫉妬してしまいそう…

こんな気持ちを抱えたらダメだと思いながら、必死になってその気持ちを隠そうとした。

「お、零夜!何組だった?俺、3組」

翼くんの親友、美香ちゃんの友達の杉戸尾零夜くんは、女子が嫌い。
特に私のことが嫌いだと思う。

私もそんな杉戸尾くんのことが正直言って苦手。
すれ違うたびに、鋭い目で睨まれているから。

「俺は7組、翼と離れたな」

7組って、私と一緒のクラス?って、一緒!?

「葵依も7組だよ」

美香ちゃんでも翼くんでもなくて、なんでよりによって杉戸尾くんなの!?

今年のクラスは最悪。
いつもあたり前に居た美香ちゃんと翼くんも居ない。
その代わりに杉戸尾くんが一緒。

先生もどうかしている気がする…と、力が抜ける。

「は?一ノ瀬と、俺が?」

やばい!杉戸尾くんを見る限り、今にも怒りそう。

そんな杉戸尾くんが怖くて、目をやれなかった。

顔を見てなくても、睨まれているのは分かる。
背中に強い視線で突き刺さって…痛い。

美香ちゃんと翼くんが側に居ない中で、これからどうなるんだろう。
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