長年のスレ違い

scarlet

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第一章

新しいクラス

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『あ、えっと……よろしく、ね?』

隣で無理してぎこちない笑顔で居る一ノ瀬。
綺麗でさらさらの茶色の髪の毛は、風で揺れている。

そんな笑顔を見ていると無性に腹が立ってきた。

『どうでもいい』

あの後、翼にそういう言葉の返し方は良くないって言われたけど、一ノ瀬にはどうも冷たく接してしまう。

まぁ、そんなに仲良くなろうと思っていないけど…

翼とは小学5年生の時に初めて同じクラスになって、

『俺、杉戸尾零夜!よろしく』

いろいろ理由があって、爽やか系男子を演じていたら、

『演じてる?本当は違うよな?』

1日ちょっとも経たずに、すぐに見破られてしまった。そんな奴は初めてで、仲良くしてみたいって思った。

『そうだけど』

翼はいつも明るく元気で、本当の自分とは対象的だったけど、初めて人を大切に接しようと思った奴だった。

一緒にいて気が楽だった。
演じてつくった自分ではなく、唯一本当の自分で話す事が出来たから。

お互いに話していくうちに自然と気が合って、家族が家にめったにいないこともあり、翼の家によく行った。
寝泊まりしたこともあった。

ちなみに、一ノ瀬にも演じているとバレている。
本当の姿を。というか、自分からバラしたんだけどな。

一ノ瀬がたまたま翼の家に居ると、気分が悪くなってしまう。
ドジばっかりで、よく失敗ばかりする。
そんな姿を見るのは見飽きた。

さっきからそんな事を思い出してしまっていて、ため息しかつかない。

なんで、こんな奴と同じクラスになったんだ?
こんなクラス考えた先生はどうかしてる気がする。

一ノ瀬は翼から聞いていただけあって、誰かに積極的に話しかける姿勢は見かけなかった。
周りはもうグループをつくり始めているのに。

1人でぽつんと自分の席に座っていて、ただ気まずそうに窓から外の景色を見ていた。

そこら辺の奴に適当に話しかければいいものの、そんな簡単な事を全くしようとしていない。

そういうタイプは女でも苦手中の苦手だ。

こんな奴を見ていてもただイラつく一方だと思い、どこかに行こうとしたら同時に一ノ瀬も席を立った。

お互いに一瞬目が合ったりはしたが、俺も一ノ瀬もぱっと視線をわざとらしくそらして、一ノ瀬は席にもう1度座った。

どっかに行こうとしてたんじゃないのか?
女は大体意味分らないけど、あいつは女の中でも特に分からない。

星野みたいにサバサバしたらいいのものの、一ノ瀬は100年かかっても、そんな風にはなりそうにない。

あいつのおどおどしている姿を見た瞬間、シャーペンのシンを授業中に何回も折ってしまっていた。

委員会決めでみんな入りたいものを言っている一方で、あいつはなんにも言わずに余ったのに入っていた。

あいつは結局何がしたいんだよ。
引っ込み思案か人見知りかよく分からないが、それにも程がある。

見てるとイラつく。
だから、女子は嫌いなんだよな。

ーガコン

「零夜がミスるの珍しいな、なんかあったか?」

1番自分がプレーの中でもっとも得意とするロングシュートが決まらなかった。

そんな自分と一ノ瀬にますますイラついてくる。

「いや、別に何にもないよ!」

今ミスったのは、どう言ってもあいつのせいだ。
あんなイラつくような姿を見せるからいけないんだろ。

そんな姿を毎日見ないといけないのか。
いつもは1週間に1回程度で済んだのにな。

下校時刻にさしかかっているところで、もう今日は練習を終わろうと、何箇所かに散らばって転がっているボールをゆっくりと拾った。

「星野、悪いな待たせて」

星野とは部活が終わった後、別れ道の途中まで一緒にいろいろな話しながら帰っている。

1度付き合っていると噂になったことはあったが、からかわれても2人とも気にせずに居たら、噂をしている向こうが先に折れていた。

俺の本当の性格を知っているのは、翼と一ノ瀬だけではなく、星野も。

影で部活の先輩の悪口をいつものように言っていたら、

『はぁ……あいつ、ほんとなんだよ』

そんな瞬間をたまたま星野に見られてしまっていた。

『杉戸尾?』

女をこの時は誰1人として信用していなかったため、バレたら他の人に知られると思ったからか、最初は上手い事ごまかそうとした。けど、

『ちょっといろいろあっただけ。部活戻ろう?』

翼と同じようにばっさりと自分を見破られてしまった。

『なーんだ。やっぱり、そーだったんだね』

この事に対して驚いて、引くかと思っていたけど、

『爽やかすぎて、いい人すぎるし、』

俺の隣でみんなの前で見せているような笑顔で居た。

『ある意味めんどくさいって感じてたし、』

演じていた嘘の自分ではなく、

『それに、誰も悩まない人なんていないよ』

本当の自分の方が良いって…そう言ってくれた。

悩みとかなさそうって部活仲間に言われていたのを、星野は聞いていたみたいだった。

本当は山ほどあるけど、ないって偽りの笑顔で言ったことも、見破られていたみたいだ。

それから何かと話すようになって、星野と居ると、翼と居る時と同じように自分が自分らしく感じていた。

星野は自分のやりたいことを周りを気にせずにして、サバサバしていて、他の女子にも見習ってほしい。

「ううん、全然。今日なんかあった?」

自分を見破られた時と同じように、俺のことを分かっているかのようにそう言ってくれた。

やっぱり俺って分かりやすい性格?
それとも、顔とか行動にいつの間にか出るタイプなのか?

星野は本当に周りを見れる奴だな…...と、尊敬していたら、小さな声が隣からボソッと聞こえた。

「いつも簡単に決めているシュートを、今日は1度も決められてなかったから…」

星野には珍しい不安そうな声。
相談に乗ってくれようとしてるんだな。

やっぱり、女子の中ではそんな性格の星野が近くにいて1番落ち着く。
それに対して、一ノ瀬は……と、いつの間にかまた思い出してしまっていた。

首を横に振って、無理やりにでも忘れようとしたけど、あいつの顔が頭に浮かんでくる。
それは、うざいくらい。

いつもは心配をあまりかけたくないと思って、相談を誰かにしようとしないけど、気持ちがスッキリしないため、星野に話す事にした。

「一ノ瀬見てるとイラつく」

きっぱりと言い終わると、誰にも言っていなかったこの気持ちが自然とスッキリしていた。

この事を聞いてもらえて良かったなと思いながら、星野の返事を待つ。

「だから零夜は葵依のこと睨んでたんだね」

「睨んでたか?」

睨んだ覚えは自分には全くなかったが、心の底からあいつを嫌っていたから、それが表情に出ていたのかもしれないな。

「とにかく、葵依のことはあんまり睨まないでよね。それじゃあ」

「どこに行くんだ?」

星野の家の方向とは全く違う方向に、星野は向かおうとしていた。

今思えば、星野はまだ体操服を着ている。
部活を終わったら、みんな着替えてきたはずなのに?

だから星野は俺よりも、待ち合わせしている場所に来るのが早かったんだなと納得する。

「高校生と練習してくる」

考えてみれば、星野が向かおうとしている方向は彩美高校がある方向だった。

彩美高校とはバスケと吹奏楽が強い強豪校で、いつも全国大会に名を残している高校の1つだった。

そこでの練習は他の学校と比べてかなり大変だと思う。それなのに部活が終わっても、まだ練習やる気か?

高校生でもついていくのに精一杯なのに、星野は中学生でも頑張っている。

試合中周りが疲れている時も、星野は他の誰よりも疲れていなくて、前半よりも後半を中心にいつもたくさんの得点を入れている。

それがその時の試合の勝利につながっていて、周りはそんな星野をリーダー的存在として見ている。
また、チームの大黒柱のエースとしても。

人よりもたくさん走って、たくさん声を出して、たくさん点を決めて、周りをよく見ている。

先輩と顧問には来年キャプテンとして頑張ってくれと、期待をされているまでだ。

試合で誰よりも活躍する奴は、それなりに裏の努力があるんだよな。
表では輝き、裏では努力。
それを毎日のように続けているから、星野は表で輝けているんだなと改めて思う。

「頑張れよ」

そうやって1つのことに対して、何か頑張れるっていうところはすごい尊敬する。
俺はやりたいこと見つかっていないから余計に。

「ありがとう」

自分も何かやりたいこと見つからないかな。
星野の影響を受けてか、自分もやりたいことを見つけたいって思った。
何か1つの事に対して頑張りたかった。

影響を受けたいぐらい、星野はすごい。
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