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第二章
変わりたい
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「葵依は応援リーダーしないの?」
昨日から黒板に貼られている、体育大会リーダー募集の紙を見ながら私に向けて静紅はそう言った。
「え!私に応援リーダーなんて、出来ないよ!」
みんなの前で小さな声でしか物事が言えない。
それに、他の人に対して指示をするなんて……そんなの、無理。
でも、その前にまず、初対面の人と話せないから、どうしようもないんだけどね。
複雑な気持ちを抱えながら、体育大会から話題を変えようと思ったら、
私の顔をじーっと見てきたから、ん?と反応してみる。
「葵依は向いてると思うけど」
私がどうこう思っていたとしても、単純に静紅のその言葉が嬉しかった。
私は出来るんだって。
もしかしたら、本当に私に出来るのかもしれないと、
前向きな気持ちになってきた。
このきっかけで、人見知りがちの性格を改善されるかもしれない。
「明日までだから、考えてみたら?」
「うん。考えてみるね」
今のところ、女子は藍ちゃん。
男子は杉戸尾くんの友達の村田くんが、リーダーに立候補しているみたい。
2人とも学級委員で、しっかりしてるから、リーダー役にはぴったりなんだよね…
定員は男女それぞれ2人ずつだから、まだ、男女1人ずついけるみたい。
今なら、まだ定員に達していないから、こんな私でもリーダーになる事が出来る。
でも、リーダーに立候補したとしても、リーダーという名だけもらって、
他のリーダーみたいに動けなくて、きっとみんなの足を引っ張っちゃうんだろうな…
そんな事を考えていたら、私なんかが何を言ってるのかな?
なんて、また弱気な事を思ってしまう。
したいけど、したら足を引っ張ってしまう。
それなら大人しくした方がマシだよね…
ーグイッ
「え!」
静紅の手に引かれて、教室を出た。
どこに向かうか分からなくて、ただ静紅の背中を追いかけるばかりだった。
静紅はそこへ向かうのを急いでるみたいで、進む足が早く、そのペースについて行くのが精一杯。
ここの道は普段通らないから、詳しくまでは知らないけど、この先を真っ直ぐ突き抜けたら、職員室がある。
でも、何で職員室?さっきは体育大会の話をしてて………って、ま、まさか………今から先生に言うの?
突然の事だから、そんな勇気や度胸が準備しきれていないから、リーダーやりたいなんて言えないよ!
「リーダーやりたいんでしょ?」
え?なんで知ってるの?
やりたいなんて1言も言葉に出していないのに、静紅はそれに気づいてくれたんだ。
ここまで引っ張ってきてくれて、背中を押されたからには、頑張らなきゃ。
体育大会が終わった後に、リーダーやって良かったって……そう、思えるように。
「一ノ瀬と樫野!」
突然の大きな声にびっくりしてしまって、思わず大きく肩が震えた。
警戒心を持ちながら、ちらりと後ろを振り返ると、そこには体育の教科担任の先生が居た。
「ついでにこれ持って行って」
何枚かセットになっている分厚いプリントの束を、私達の返事をいっさい聞かずに渡してきた。
そのプリントの束は見た目よりも重くて、こんなのをいつ使うんだろうって思った。
体育次の時間だった気がする。
授業内容は確か、うーん………って、こんな事を考えている場合じゃない。
今、言わなきゃいけない!
「先生!」
と、先生に向かって叫んだ勢いで、プリントの束が手の中から一気に落ちていってしまった。
やばい!と、反射的にそう思い、すぐに拾い始めた。
……こんなにもドジな私が出来るのかな?
ううん。それでもやらなきゃ。
やらなきゃ、自分を変えられない。
「リーダーしたいです!」
言えた。自分の言葉で。
それだけでも何だか達成感を味わえた気がした。
「よし!よく言った。最後まで頑張れよ」
先生は私に向かって、笑いかけてくれた。
それが嬉しくて、認められた気がして………感情が一気に舞い上がりそうになった。
「先生!こいつもしたいって」
後ろから村田くんの大きな声がはっきりと聞こえた。
こいつって?と、思いながら振り返ると、
「杉戸尾か!ちょうど良かった!誰も立候補居なかったら、杉戸尾に任せようと思ってたんだよな」
明らかに嫌そうな雰囲気をしている杉戸尾くんの姿が。村田くんに無理やり……つられて来られたのかな?
でも、リーダーやりたいっていう気持ちが少しでもあったから、ここに来たんだよね?
それに、先生に任せようと思われていったって事は、それぐらい先生からの信頼を得ているって事だよね?
「杉戸尾くんもやるんだ!お互いに頑張ろーね」
リーダーをやりたいって思ってるなんて、ちょっと意外だけど、お互いに頑張りたいな。
「うん」
素っ気ない返事はいつも傷ついていたけど、今はもう分かってる。
杉戸尾くんが不器用なんだって。
本当は言いたい事も言えないんだって気づいた。
「じゃ、一ノ瀬、宮坂、村田、杉戸尾な」
私に藍ちゃん。
そして、杉戸尾くんと村田くん。
すごいメンバーになったなと思いながらも、周りについて行けるように最後まで頑張ろうと心に誓った。
放課後の帰り道、家の近所の道路を歩いていたら、いつの間にか目の前には翼くんの姿が。
さっきまで、友達に囲まれてたのに。
話しかけたいなとは思うものの、話題なんて………あ!
「翼くん!リーダーなった?」
「びっくりしたぁ………って、一応なったよ。ほぼ強制的にだけど…」
と、翼くんは苦笑いしながらもそう言っていた。
でも、強制的ってすごいな。
それぐらい先生に信頼されてるってことだもん。
杉戸尾くんもそう。
こんな友達に背中を押されて、自分自身で立候補した私とは違うな。
「葵依もなったんだろ?」
さっき決まったばっかりなのに、もうその情報が翼くんの耳に入ってきたんだ。
「う、うん……でも、翼くんと違って、立候補だけどね」
「そうだとしても、葵依が自分でやりたいって言えたのは、すごいと思うけど」
ートクン
こんな私にもすごいって思ってくれるんだ…
「それに、大切なのは立候補とかそんな決め方じゃなくて、その気持ちだからな」
その言葉通りなのに、何で私は立候補とか推薦とかそんな事を気にしてたんだろ?
気持ちの方がずっと大切なのに、その事を気づいていなかった。
さっきまで自信なかったけど、
「頑張れよ」
ードクン
翼くんに応援してもらったら、頑張ろうって思えた。
不意打ちずるいよ。
一気に顔が赤くなってきたのが分かる。
やっぱり翼くんの事が好きなんだ。
昨日から黒板に貼られている、体育大会リーダー募集の紙を見ながら私に向けて静紅はそう言った。
「え!私に応援リーダーなんて、出来ないよ!」
みんなの前で小さな声でしか物事が言えない。
それに、他の人に対して指示をするなんて……そんなの、無理。
でも、その前にまず、初対面の人と話せないから、どうしようもないんだけどね。
複雑な気持ちを抱えながら、体育大会から話題を変えようと思ったら、
私の顔をじーっと見てきたから、ん?と反応してみる。
「葵依は向いてると思うけど」
私がどうこう思っていたとしても、単純に静紅のその言葉が嬉しかった。
私は出来るんだって。
もしかしたら、本当に私に出来るのかもしれないと、
前向きな気持ちになってきた。
このきっかけで、人見知りがちの性格を改善されるかもしれない。
「明日までだから、考えてみたら?」
「うん。考えてみるね」
今のところ、女子は藍ちゃん。
男子は杉戸尾くんの友達の村田くんが、リーダーに立候補しているみたい。
2人とも学級委員で、しっかりしてるから、リーダー役にはぴったりなんだよね…
定員は男女それぞれ2人ずつだから、まだ、男女1人ずついけるみたい。
今なら、まだ定員に達していないから、こんな私でもリーダーになる事が出来る。
でも、リーダーに立候補したとしても、リーダーという名だけもらって、
他のリーダーみたいに動けなくて、きっとみんなの足を引っ張っちゃうんだろうな…
そんな事を考えていたら、私なんかが何を言ってるのかな?
なんて、また弱気な事を思ってしまう。
したいけど、したら足を引っ張ってしまう。
それなら大人しくした方がマシだよね…
ーグイッ
「え!」
静紅の手に引かれて、教室を出た。
どこに向かうか分からなくて、ただ静紅の背中を追いかけるばかりだった。
静紅はそこへ向かうのを急いでるみたいで、進む足が早く、そのペースについて行くのが精一杯。
ここの道は普段通らないから、詳しくまでは知らないけど、この先を真っ直ぐ突き抜けたら、職員室がある。
でも、何で職員室?さっきは体育大会の話をしてて………って、ま、まさか………今から先生に言うの?
突然の事だから、そんな勇気や度胸が準備しきれていないから、リーダーやりたいなんて言えないよ!
「リーダーやりたいんでしょ?」
え?なんで知ってるの?
やりたいなんて1言も言葉に出していないのに、静紅はそれに気づいてくれたんだ。
ここまで引っ張ってきてくれて、背中を押されたからには、頑張らなきゃ。
体育大会が終わった後に、リーダーやって良かったって……そう、思えるように。
「一ノ瀬と樫野!」
突然の大きな声にびっくりしてしまって、思わず大きく肩が震えた。
警戒心を持ちながら、ちらりと後ろを振り返ると、そこには体育の教科担任の先生が居た。
「ついでにこれ持って行って」
何枚かセットになっている分厚いプリントの束を、私達の返事をいっさい聞かずに渡してきた。
そのプリントの束は見た目よりも重くて、こんなのをいつ使うんだろうって思った。
体育次の時間だった気がする。
授業内容は確か、うーん………って、こんな事を考えている場合じゃない。
今、言わなきゃいけない!
「先生!」
と、先生に向かって叫んだ勢いで、プリントの束が手の中から一気に落ちていってしまった。
やばい!と、反射的にそう思い、すぐに拾い始めた。
……こんなにもドジな私が出来るのかな?
ううん。それでもやらなきゃ。
やらなきゃ、自分を変えられない。
「リーダーしたいです!」
言えた。自分の言葉で。
それだけでも何だか達成感を味わえた気がした。
「よし!よく言った。最後まで頑張れよ」
先生は私に向かって、笑いかけてくれた。
それが嬉しくて、認められた気がして………感情が一気に舞い上がりそうになった。
「先生!こいつもしたいって」
後ろから村田くんの大きな声がはっきりと聞こえた。
こいつって?と、思いながら振り返ると、
「杉戸尾か!ちょうど良かった!誰も立候補居なかったら、杉戸尾に任せようと思ってたんだよな」
明らかに嫌そうな雰囲気をしている杉戸尾くんの姿が。村田くんに無理やり……つられて来られたのかな?
でも、リーダーやりたいっていう気持ちが少しでもあったから、ここに来たんだよね?
それに、先生に任せようと思われていったって事は、それぐらい先生からの信頼を得ているって事だよね?
「杉戸尾くんもやるんだ!お互いに頑張ろーね」
リーダーをやりたいって思ってるなんて、ちょっと意外だけど、お互いに頑張りたいな。
「うん」
素っ気ない返事はいつも傷ついていたけど、今はもう分かってる。
杉戸尾くんが不器用なんだって。
本当は言いたい事も言えないんだって気づいた。
「じゃ、一ノ瀬、宮坂、村田、杉戸尾な」
私に藍ちゃん。
そして、杉戸尾くんと村田くん。
すごいメンバーになったなと思いながらも、周りについて行けるように最後まで頑張ろうと心に誓った。
放課後の帰り道、家の近所の道路を歩いていたら、いつの間にか目の前には翼くんの姿が。
さっきまで、友達に囲まれてたのに。
話しかけたいなとは思うものの、話題なんて………あ!
「翼くん!リーダーなった?」
「びっくりしたぁ………って、一応なったよ。ほぼ強制的にだけど…」
と、翼くんは苦笑いしながらもそう言っていた。
でも、強制的ってすごいな。
それぐらい先生に信頼されてるってことだもん。
杉戸尾くんもそう。
こんな友達に背中を押されて、自分自身で立候補した私とは違うな。
「葵依もなったんだろ?」
さっき決まったばっかりなのに、もうその情報が翼くんの耳に入ってきたんだ。
「う、うん……でも、翼くんと違って、立候補だけどね」
「そうだとしても、葵依が自分でやりたいって言えたのは、すごいと思うけど」
ートクン
こんな私にもすごいって思ってくれるんだ…
「それに、大切なのは立候補とかそんな決め方じゃなくて、その気持ちだからな」
その言葉通りなのに、何で私は立候補とか推薦とかそんな事を気にしてたんだろ?
気持ちの方がずっと大切なのに、その事を気づいていなかった。
さっきまで自信なかったけど、
「頑張れよ」
ードクン
翼くんに応援してもらったら、頑張ろうって思えた。
不意打ちずるいよ。
一気に顔が赤くなってきたのが分かる。
やっぱり翼くんの事が好きなんだ。
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