長年のスレ違い

scarlet

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第二章

それぞれの答え

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今日、来てくれるかな?一ノ瀬さん。

これ以上こんな事をして困らせたくなかったけど、
笑っている姿を見ると鼓動が高鳴って、こんな終わり方じゃ諦められないって思った。

ふられる前に、せめて2人っきりで居たかった。
今日は俺の事を考えて欲しかった。

約束通りの12時頃、駅前の方に足を運んでいると、時計塔の前に一ノ瀬さんの姿が見えた。

声をかけようとしたけど、私服が可愛くて、普段見かけ慣れてないから出るに出れなかった。

───────────────────────

村田くん、来るの遅いなぁ......
でも、私が来るの早すぎだんだよね。

今何時かな?と、
時計塔の時間を見るために、後ろを振り返ったら村田くんの姿が見えた。

あ、あれ?こっちに、気づいてないのかな?

「村田くん!」

「い、一ノ瀬さん!?」

村田くんはとっても驚いていて、飲みかけていた飲み物を喉につまらせてしまっていた。

「ごめんね、驚かせてしまって。気づいてないんじゃないかって思ったから」

───────────────────────

「あ、いや………ありがとう」

一ノ瀬さんが自分から話しかけてくれるなんて......
告白後だったから話しかけにくいはずなのに。

「ゆ、遊園地......村田くんと行きたいです」

「う、うん……い、いーよ」

───────────────────────

「遊園地、楽しみだね」

「うん」

「………」

電車での会話、以外とすぐに終わっちゃうな......

結構自分から頑張って話しかけてるつもりだけど、村田くんはいつもよりも何か、違う気がする。

もうちょっと何か話してくれると思ってたんだけどな...

───────────────────────

今日の一ノ瀬さん、何かと積極的すぎて話しづらい.。

積極的なのもいいけど、普段通りでいいんだけどな。
いつもの一ノ瀬さんが好きだから......

無理させてる気がして、気が休まらない。

「一ノ瀬さん」

「どーしたの?」

俺の方だけを真っ直ぐに見てくれる大きな瞳。
いつもと違うポニーテールの髪型。
見慣れない、シンプルな私服姿。

「無理してない?」

───────────────────────

「え?」

「なんか、今日……いつもと違うなって」

「うん」

今日、決めたんだ。
翼くんのことを考えるんじゃなくて、今日だけは村田くんだけをちゃんと見てるって。

この前は最低な事しちゃったから......

「村田くんの気持ち、ちゃんと受け止めたいから」

私に気持ちを伝えてくれた。
だから、私もしっかりと受け止めないといけないなって思ったから。

───────────────────────

「今日は村田くんの事だけ考えるよ」

翼じゃなくて俺を見てくれるんだとはっきり主張してくれて、心の底から嬉しかった。

ーグイッ

「へ!?」

反射的に一ノ瀬さんから手を離してしまう。

い、今……え?一ノ瀬さんから手を握られた?
と、一瞬の事過ぎて、理解が出来ない。

───────────────────────

自分の言った言葉が後から恥ずかしくなってきて、反射的に手で顔を隠してしまっていた。

今日は、消極的にならないはずだったのに……
これじゃあ、いつものと全然変わらないよ!

積極的に話しかけたりとか……するつもりだったのに...

遊園地に着いても、しばらく沈黙が続いてしまってる。

「あ、あの!何、乗る?」

「ジェットコースターとか?」

───────────────────────

「あ、うん」

「……じゃあ、乗ろっか」

さっきから話そうとする素振りとか見せないけど……
なんか、あったのかな?

下向いてるけど.....

「一ノ瀬!?」

───────────────────────

「……あ、あの……ご、ごめん……なさい」

ジェットコースター乗りたいって村田くんは言ってたのに……乗る直前に気を失うとか……ほんと、最悪だ。

「え?」

「ジェットコースター……あの、その……」

───────────────────────

「大丈夫。こっちこそ、ごめん」

「……ううん。私が、悪いのに……」

さっきから自分ばっか一ノ瀬さんは責めてるけど……俺の方が悪かった。

明らかに様子がおかしかったのに、その変化に何も気づいてあげられなかった。

バカだ、俺は。

───────────────────────

村田くんは怒らないんだ。怒ってくれないんだ…...

「デートにはこれが勝負服!」というダグに気を取られて、思わず買った花柄のスカートの裾を握る。

『なんで言わないんだよ!』

不意にあの時の翼くんの事が頭の中でよみがえって、

『葵依も楽しめないんだったら、俺は乗りたくない』

『ごめんね。体調は、もう良くな……』

まだ完全に大丈夫じゃなかったけど、
翼くんはきっと乗りたいんだろうなと思って、「もう乗っても大丈夫だよ」って言おうとした瞬間、

『じゃあ、他の乗り物乗るか』

と、翼くんはベンチから立ち、うーんっと背伸びをしながら空を見上げていた。

私ったら何言おうとしてたんだろ?
ジェットコースターに乗ろうとしても、また気を失って迷惑かけるのに。

『……ご、ごめ……』

『そこは謝るんじゃなくて、笑うんだろ?』

ートクン

私に怒ったのは、本気で心配してくれたからだ。
村田くんも優しくしてくれるけど、何か違う。

翼くんは怒った後から気まずくならないように、こうやって笑わせてくれて居られやすくしてくれてる。

こうやって、さり気ない優しさが好き......

───────────────────────

「観覧車乗ろう」

一ノ瀬さんはベンチからうーんっと背伸びをしながら立ち、こっちを見ながらそう言った。

「え?体調はもう……」

「大丈夫。ありがとう」

一ノ瀬さんは何か決意したような目つきだった。

これはきっと、返事なんだよな。
やっぱり、一ノ瀬さんは翼が………

───────────────────────

「一ノ瀬さん」

「は、はい」

「翼の事が好きなんだよな?」

なんだか今は胸が苦しくて......
決意したはずなのにそれを言葉にできなくて、私はただ頷いた。

「じゃあさ、俺をふって」

少し村田くんの言葉が震えていた気がした。

好きな人にフラれるのはきつい事だから、私は本当はそんなきつい思いを村田くんにしてほしくない。

けど、ちゃんとフラないといけない。
それは私の役目でもあるし、すべき事でもあるから。

「村田くん」

───────────────────────

「私に告白してくれて、ありがとう」

またお礼を言うなんて、一ノ瀬さんらしい…...

「自分に自信がなくて失敗ばかりしてたけど、村田くんは優しくフォローしてくれた……嬉しかった」

───────────────────────

「でも、翼くんが好き。村田くんを好きになったら、きっと幸せなんだろうなって……けど、この気持ちは変えられない」

村田くんは優しくて、器用に何でもこなせて……
そんな人の彼女になれたらきっと幸せ。

だけど、やっぱりどこにいても私の頭に思い浮かぶのは翼くんだけ。

……私は翼くんが、好き。

「だから、ごめんなさい」

「そっか」

もう、話せないのかな......

───────────────────────

「俺さ」

「う、うん」

「一ノ瀬さんを好きになれて、良かったよ」

初めて恋をしたのが一ノ瀬さんで。
こんな気持ちを知ったのも一ノ瀬さんが居たからなんだな…

自分に自信がないって言ってたけど、もう大丈夫。
きっと、一ノ瀬さんなら上手くいけるよ。
たとえ、翼が……違う気持ちに向いていても。

「一ノ瀬さんなら頑張れるよ。きっと」

辛い気持ちも乗り越えられると思う。

それを支えて、応援するなんて、俺にはできないけど、側では見守っていたいって思う。

───────────────────────

フラれたっていうのに村田くんは笑ってくれる。
きっと、気まずくならないようにしてくれてる。

「じゃあ、帰ろっか」

そう言って、村田くんは先に歩こうとして……
村田くんも今は辛いはずなのに。私のせいで。

「好きになってくれて、ありがとう!」

───────────────────────

「こんな私を好きになってくれて、ありがとう!」

いつも、一ノ瀬さんは俺が嬉しいって思う言葉を……

「一ノ瀬さんも、俺に恋をおしえてくれてありがとう」

やっと、区切りがついた気がする。
一ノ瀬さんの恋を応援することはできないけど、

友達として、側でいるよ。

それが俺の「答え」

───────────────────────

村田くんはいつも私を支えてくれた。
もう、ここで止まらない。
翼くんとの幼なじみっていう関係を変えたい。

翼くんに気持ちを伝えるよ。

それが私の「答え」
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