21 / 35
第二章
終わりたくない
しおりを挟む
藍はリレーの途中、バランスを崩し転けてしまった。
助けに行った時、下を向いて涙が出そうな様子で、転けた時に出来た傷口からところどころ血が出ていた。
居ても立ってもいられなくて、藍の側に駆け寄り、いつの間にかお姫様抱っこをしていた。
藍は何が起こったのか分からない素振りを見せ、いつの間にか自分の顔の近くには藍の顔が。
ートクン
ち、近すぎる!と、
思った瞬間に藍がバランスを崩しそうになって、とっさに支えた。
そして、人混みをかき分けてゆっくりと運んだ。
今思えば告白された以来、まともに話していないな......と、藍と居る空間が意識するときごちなくなってしまう気がした。
なんだかそう考えると藍の顔を見れそうになく、後ろを振り返られなかった。
「弘大」
消毒液を薬品の棚から探していると、ふと自分の名前を言われ、裾をそっと握られた。
「私の気持ち、迷惑……に、なって……る?」
藍は中々弱音を吐こうとしないのに……
涙目になりながら、俺の顔を真っ直ぐに見つめていた。
藍には泣いてほしくない。笑っていてほしい。
俺が純粋に思う、藍に対しての本当の気持ちだった。
藍は気持ちを俺にはっきりと見せてくれるけど、俺は自分の気持ちを正直に見せられていないな。
「俺さ」
「う、うん?」
「藍が転けた時、真っ先に助けに行こうとした」
藍が転んで、立ち上がれそうにない時、側で支えてあげたいって思った。でも、体が勝手に動こうとした瞬間、綺月に止められた。
「でも、応援があったから無理だったけど」
『もう少しで終わるから、終わってからにして。団長なんだから、みんなを支えないとでしょ?』
その言葉通りだった。
団長だから最後まで応援を……みんなを引っ張らないといけなかった。
「先輩!次の部の応援、しないといけないんじゃ……」
「大丈夫。綺月に任せたから」
今頃、綺月が応援を先頭に立ってやってくれている。
「………綺月って、誰ですか?」
そーいえば、綺月を藍に紹介したことなかったけ?
「生徒会長で俺の幼なじみ」
生徒会長は立候補じゃなくて、周りの推薦を得て。
生徒会長で副団長……俺が尊敬してる人。
幼なじみだからか、いつも俺が迷っていると、相談にのってくれて......
誰よりも気持ちを分かってくれている。
「え、あ、藍………?」
いつの間にか藍の顔には涙がこぼれ落ちていた。
そんな中、廊下からだんだんと足音が大きくなって、保健室に誰が近づいてくるのが聞こえてきた。
ーグイッ
いつの間にか藍を自分の腕の中に引き寄せていて、
ーガラッ
「弘大ー」
綺月の声がドアが開くと同時に聞こえてきた。
「あ、綺月」
ベットのカーテンの前に出て、そっと藍を隠した。
泣き顔を他の人に見られたくなさそーだったから。
「あの子は大丈夫なの?」
「うん。擦り傷ですんだよ。けど、頭が痛いらしいから、少し寝かせてる」
「そろそろ行こっか」と、言おうとしたら、
「こ、弘大、ハチマキ交換しない?」
と、告げながら綺月の顔は真っ赤になっていた。
どうしてそんな事を言ったのか分からなかった。
「え?なんで?」
ハチマキ交換はこの学校に伝わる伝統イベント。
好きな人とハチマキ交換をしたら、その恋は必ず上手くいくっていう伝説がある。
だから、綺月がなんで、俺とハチマキ交換をしたいのかよく分からなかった。
「………なんでって、それは……」
綺月が珍しく言葉を詰まらせていた。
「昔から、弘大の事が大好きだから」
今、綺月に好きだって言われた?
「なんで察してくれないの?昔から鈍感すぎるよ」
それはつまり、俺を幼なじみじゃなく男子として見てるわけで……昔から綺月は俺のこと好きって...
「……あの子と付き合い始めた時、最初は悔しかった。誰よりも弘大の近くに居たのにって」
あの子っていうのは、きっと藍の事。
付き合ったのは藍が初めてだったから。
「けど、弘大が幸せそうにしているのを見て、なんとなく諦めがついた。弘大が幸せならいっかって」
綺月はいつもそーだった。
どんな立場でも自分の事は後回しにして、周りを見てる。
「なのに、弘大は途中からだんだんと一ノ瀬さんに気持ちがいってた。告白してた時も近くで聞いてた」
あの瞬間を見てたんだ。綺月は。
「ふられた時は正直いって嬉しかった。まだ、私にはチャンスがあるんじゃないかって」
自分の気持ちを正直に打ち明けてくれた。
「弘大の事がずっと前から好きです」
誰よりも綺月の近くに居て、その思いに気づいてあげられなかった。
ましてや、藍と付き合っていた時、デートの場所や着ていく服を綺月に相談していた。
藍と喧嘩しそうになった時も、綺月が話を聞いてくれた。
もし、その時から俺の事好きだったとしたら、綺月はどんな気持ちで話を聞いてたのかって想像すると、
最低な奴だって思った。
「弘大は………誰の事が好きなの?」
「分からない」
まだ、今は。
「じゃ、じゃあ、私と付き合って」
けど、
「ごめん。約束している子がいるんだ」
藍と約束しているから。
俺がいつか藍の事を好きになって、迎えに行くって。
「弘大」
綺月が名前を呼ぶと同時に、顔を近くに寄せてきた。
その距離は簡単にキスが出来そうな距離だった。
綺月の綺麗な髪の毛の先が肩にかかってきた。
綺月は自分のハチマキをゆっくりと外すと、保健室の窓からの隙間風でゆらりと揺れ始めた。
更に距離を縮め、だんだんと綺月の顔が近づいていく。
そこからはどーなったのかよく分からなかった。
瞬きする瞬間もなく、いつの間にか自分の唇に綺月のそれが触れていた。
い、今………俺は、綺月と………?と、
何が起こったのか整理をしようとしていた時、藍は涙目にしながら、この場から離れようとしていて、
「藍!?」
とっさに止めようとしたけど、
ーガラッ
綺月に腕をグイッと引っ張られた。
「弘大、お試しで1週間付き合って」
───────────────────────
あの子に気持ちが揺らぎ始めてのは知ってる。
あの子が転けた瞬間、助けに行こうとしてたから。
真っ先に助けに行こうとしている姿はカッコ良かった。けど、私に向ける姿ではないと思うと、なんだか少し寂しさを感じた。
だから、止めた。
『もう少しで終わるから、終わってからにして。団長なんだから、みんなを支えないとでしょ?』
その言葉は思っていた事でもあったけど、本当はあの子の元へ行ってほしくなかったから。
また、あの子に弘大を奪われるんじゃないかって。
そう思った。
あの時だって……
「夜白さんと真山くんすっごくお似合い」
その言葉を何度か耳にしたことがある。
周りには「美男美女カップル」と言われていた。
「真山くん、綺月の事好きなんじゃない?」
ある日、突然親友の瑞希に言われた。
「だって、綺月だけ特別扱いしてるから......綺月もそう思わない?」
私も少しだけ思ってた。
弘大は私の事、好きなんじゃないかって。
「そーなの、かな?」
だって、女の子の中で私だけ下の名前で呼んでる。
その他にも、他の女子には言わない相談事を、私だけにいつも打ち明けてくれていた。
「絶対そーだよ。告白しよ!」
「え、こ、告白!?」
「綺月ならきっと、上手くいくから」
瑞希が私の手をぎゅっと握ってくれた。
その手が温かくて、思わず涙が溢れそうに。
「綺月が私が告白する前から永野の事を諦めようとした時、怒ってくれたよね?それが嬉しかったんだよね」
瑞希は私の大切な、大切な親友。
クラスに馴染めなかった時、瑞希が話しかけてくれた。
瑞希は明るくて、元気で、
誰よりも努力家で、
すっごく笑顔が可愛くて、みんなの人気者。
そして、隣のクラスの永野くんと付き合っている。
「だから!綺月が私を応援してくれたように、私も綺月を応援したいの」
瑞希と永野くんはずっと前から両思いだったけど、お互いにいろいろとすれ違っていて、
向こうからの告白で付き合うことになったばかり。
「バレンタイン……渡す時に、言おうかな?」
「うん!応援するよ!」
私も頑張らなくちゃ。
自分の恋に向き合わないと何にも始まらないよね?
「ありがとう」
「やっと渡せたよー」
瑞希は顔を真っ赤に染めながらも、やりきったような表情で私の机に。
「良かったね」
今年のバレンタインは平日だったから、学校で渡すしかなくて、永野くんは隣のクラスだから瑞希がチョコを渡すのは難しかった。
今さっき、永野くんを私が呼び止めて、瑞希がチョコを渡す事が出来たんだ。
あの時の永野くん、すっごく嬉しそうだったな......
「次は綺月の番だよ。頑張って!」
「う、うん」
私も瑞希みたいに頑張らないと!と、
気合を入れ直して、カバンを肩にかけた。
下駄箱に行こうとすると、そこには弘大の姿が。
声をかけようとした瞬間、
「せ、先輩の事……好きです」
後輩らしき女の子が弘大に思いを伝えていた。
チョコが入っているような感じの紙袋を手に、緊張している様子で弘大に渡していた。
その手は小刻み震えていて、顔は下を向いていた。
断るんだろうな.....と思っていたら、
「俺も好きです」
弘大の声が、鼓膜にまではっきりと聞こえてきた。
失恋したんだと分かった瞬間、涙さえ出なかった。
2人が微笑みあっている姿をただ眺めていた。
もちろん、弘大とはその後一緒に帰らなかった。
せっかく作ったチョコも渡さなかった。
渡せなかった。
あの子の事、弘大は好きだったんだな......
チョコ渡す前に知れて良かったとは思ったものの、告白が出来なかった自分が情けなかった。
次の日、瑞希にその事を全て話したら、瑞希は自分の事のように泣いてくれた。
これまで我慢していた涙がその瞬間、たくさん出た。
弘大が付き合っているという噂が流れたせいか、「美男美女カップル」と言われる事はなくなった。
弘大と話せる気がしなくて、避けてばかり。
こんなんじゃダメだって分かってたけど、目の前にすると言葉が出なくて......
姿を見るといつの間にか逃げてしまっていた。
そんなある日、
「綺月」
声を久しぶりにかけられた。
「な、何?」
「……最近、元気ないけど、どうした?」
弘大にはあの子がいるはずなのに、
「何にもないよ」
私の事を見ててくれた事が純粋に嬉しかった。
「……弘大はあの子と付き合えて、幸せ?」
「うん、幸せ。ものすごく」
それに、弘大が幸せなら、もういっかって思った。
そこから段々とあの子の話をされることが多かった。
最初は諦めたつもりでも、簡単に諦めきれてなくて、相談を聞くのは最初はとても辛かった。
けど、次第に弘大への気持ちは消えていった気がして、普通に相談を聞けるようになっていった。
4年間も付き合っていて、校内公認のカップルに。
でも、弘大の視線は別の人の物へと変わりつつあった。告白する瞬間も目撃していた。
諦めがついていた気持ちが再び鼓動に灯り、いつの間にか弘大を再び好きになっていた。
この前は告白もせずに諦めていた。
だけど、今回は何もせずに終わりたくない。
「え?」
「私の事、幼なじみじゃなく女の子として見て」
少しでも何かして、諦めがつきたい.....
「…………でも、俺はや……」
「約束でしょ?……分かってる。でも、私も見てほしいの!弘大に」
あの子だけじゃなくて、私にも、私にも、
「………私にも、1度だけチャンスがほしいの」
少しだけでもいいから時間がほしいの!
「分かった。1週間だけお試しで付き合うよ」
「ありがとう、弘大」
助けに行った時、下を向いて涙が出そうな様子で、転けた時に出来た傷口からところどころ血が出ていた。
居ても立ってもいられなくて、藍の側に駆け寄り、いつの間にかお姫様抱っこをしていた。
藍は何が起こったのか分からない素振りを見せ、いつの間にか自分の顔の近くには藍の顔が。
ートクン
ち、近すぎる!と、
思った瞬間に藍がバランスを崩しそうになって、とっさに支えた。
そして、人混みをかき分けてゆっくりと運んだ。
今思えば告白された以来、まともに話していないな......と、藍と居る空間が意識するときごちなくなってしまう気がした。
なんだかそう考えると藍の顔を見れそうになく、後ろを振り返られなかった。
「弘大」
消毒液を薬品の棚から探していると、ふと自分の名前を言われ、裾をそっと握られた。
「私の気持ち、迷惑……に、なって……る?」
藍は中々弱音を吐こうとしないのに……
涙目になりながら、俺の顔を真っ直ぐに見つめていた。
藍には泣いてほしくない。笑っていてほしい。
俺が純粋に思う、藍に対しての本当の気持ちだった。
藍は気持ちを俺にはっきりと見せてくれるけど、俺は自分の気持ちを正直に見せられていないな。
「俺さ」
「う、うん?」
「藍が転けた時、真っ先に助けに行こうとした」
藍が転んで、立ち上がれそうにない時、側で支えてあげたいって思った。でも、体が勝手に動こうとした瞬間、綺月に止められた。
「でも、応援があったから無理だったけど」
『もう少しで終わるから、終わってからにして。団長なんだから、みんなを支えないとでしょ?』
その言葉通りだった。
団長だから最後まで応援を……みんなを引っ張らないといけなかった。
「先輩!次の部の応援、しないといけないんじゃ……」
「大丈夫。綺月に任せたから」
今頃、綺月が応援を先頭に立ってやってくれている。
「………綺月って、誰ですか?」
そーいえば、綺月を藍に紹介したことなかったけ?
「生徒会長で俺の幼なじみ」
生徒会長は立候補じゃなくて、周りの推薦を得て。
生徒会長で副団長……俺が尊敬してる人。
幼なじみだからか、いつも俺が迷っていると、相談にのってくれて......
誰よりも気持ちを分かってくれている。
「え、あ、藍………?」
いつの間にか藍の顔には涙がこぼれ落ちていた。
そんな中、廊下からだんだんと足音が大きくなって、保健室に誰が近づいてくるのが聞こえてきた。
ーグイッ
いつの間にか藍を自分の腕の中に引き寄せていて、
ーガラッ
「弘大ー」
綺月の声がドアが開くと同時に聞こえてきた。
「あ、綺月」
ベットのカーテンの前に出て、そっと藍を隠した。
泣き顔を他の人に見られたくなさそーだったから。
「あの子は大丈夫なの?」
「うん。擦り傷ですんだよ。けど、頭が痛いらしいから、少し寝かせてる」
「そろそろ行こっか」と、言おうとしたら、
「こ、弘大、ハチマキ交換しない?」
と、告げながら綺月の顔は真っ赤になっていた。
どうしてそんな事を言ったのか分からなかった。
「え?なんで?」
ハチマキ交換はこの学校に伝わる伝統イベント。
好きな人とハチマキ交換をしたら、その恋は必ず上手くいくっていう伝説がある。
だから、綺月がなんで、俺とハチマキ交換をしたいのかよく分からなかった。
「………なんでって、それは……」
綺月が珍しく言葉を詰まらせていた。
「昔から、弘大の事が大好きだから」
今、綺月に好きだって言われた?
「なんで察してくれないの?昔から鈍感すぎるよ」
それはつまり、俺を幼なじみじゃなく男子として見てるわけで……昔から綺月は俺のこと好きって...
「……あの子と付き合い始めた時、最初は悔しかった。誰よりも弘大の近くに居たのにって」
あの子っていうのは、きっと藍の事。
付き合ったのは藍が初めてだったから。
「けど、弘大が幸せそうにしているのを見て、なんとなく諦めがついた。弘大が幸せならいっかって」
綺月はいつもそーだった。
どんな立場でも自分の事は後回しにして、周りを見てる。
「なのに、弘大は途中からだんだんと一ノ瀬さんに気持ちがいってた。告白してた時も近くで聞いてた」
あの瞬間を見てたんだ。綺月は。
「ふられた時は正直いって嬉しかった。まだ、私にはチャンスがあるんじゃないかって」
自分の気持ちを正直に打ち明けてくれた。
「弘大の事がずっと前から好きです」
誰よりも綺月の近くに居て、その思いに気づいてあげられなかった。
ましてや、藍と付き合っていた時、デートの場所や着ていく服を綺月に相談していた。
藍と喧嘩しそうになった時も、綺月が話を聞いてくれた。
もし、その時から俺の事好きだったとしたら、綺月はどんな気持ちで話を聞いてたのかって想像すると、
最低な奴だって思った。
「弘大は………誰の事が好きなの?」
「分からない」
まだ、今は。
「じゃ、じゃあ、私と付き合って」
けど、
「ごめん。約束している子がいるんだ」
藍と約束しているから。
俺がいつか藍の事を好きになって、迎えに行くって。
「弘大」
綺月が名前を呼ぶと同時に、顔を近くに寄せてきた。
その距離は簡単にキスが出来そうな距離だった。
綺月の綺麗な髪の毛の先が肩にかかってきた。
綺月は自分のハチマキをゆっくりと外すと、保健室の窓からの隙間風でゆらりと揺れ始めた。
更に距離を縮め、だんだんと綺月の顔が近づいていく。
そこからはどーなったのかよく分からなかった。
瞬きする瞬間もなく、いつの間にか自分の唇に綺月のそれが触れていた。
い、今………俺は、綺月と………?と、
何が起こったのか整理をしようとしていた時、藍は涙目にしながら、この場から離れようとしていて、
「藍!?」
とっさに止めようとしたけど、
ーガラッ
綺月に腕をグイッと引っ張られた。
「弘大、お試しで1週間付き合って」
───────────────────────
あの子に気持ちが揺らぎ始めてのは知ってる。
あの子が転けた瞬間、助けに行こうとしてたから。
真っ先に助けに行こうとしている姿はカッコ良かった。けど、私に向ける姿ではないと思うと、なんだか少し寂しさを感じた。
だから、止めた。
『もう少しで終わるから、終わってからにして。団長なんだから、みんなを支えないとでしょ?』
その言葉は思っていた事でもあったけど、本当はあの子の元へ行ってほしくなかったから。
また、あの子に弘大を奪われるんじゃないかって。
そう思った。
あの時だって……
「夜白さんと真山くんすっごくお似合い」
その言葉を何度か耳にしたことがある。
周りには「美男美女カップル」と言われていた。
「真山くん、綺月の事好きなんじゃない?」
ある日、突然親友の瑞希に言われた。
「だって、綺月だけ特別扱いしてるから......綺月もそう思わない?」
私も少しだけ思ってた。
弘大は私の事、好きなんじゃないかって。
「そーなの、かな?」
だって、女の子の中で私だけ下の名前で呼んでる。
その他にも、他の女子には言わない相談事を、私だけにいつも打ち明けてくれていた。
「絶対そーだよ。告白しよ!」
「え、こ、告白!?」
「綺月ならきっと、上手くいくから」
瑞希が私の手をぎゅっと握ってくれた。
その手が温かくて、思わず涙が溢れそうに。
「綺月が私が告白する前から永野の事を諦めようとした時、怒ってくれたよね?それが嬉しかったんだよね」
瑞希は私の大切な、大切な親友。
クラスに馴染めなかった時、瑞希が話しかけてくれた。
瑞希は明るくて、元気で、
誰よりも努力家で、
すっごく笑顔が可愛くて、みんなの人気者。
そして、隣のクラスの永野くんと付き合っている。
「だから!綺月が私を応援してくれたように、私も綺月を応援したいの」
瑞希と永野くんはずっと前から両思いだったけど、お互いにいろいろとすれ違っていて、
向こうからの告白で付き合うことになったばかり。
「バレンタイン……渡す時に、言おうかな?」
「うん!応援するよ!」
私も頑張らなくちゃ。
自分の恋に向き合わないと何にも始まらないよね?
「ありがとう」
「やっと渡せたよー」
瑞希は顔を真っ赤に染めながらも、やりきったような表情で私の机に。
「良かったね」
今年のバレンタインは平日だったから、学校で渡すしかなくて、永野くんは隣のクラスだから瑞希がチョコを渡すのは難しかった。
今さっき、永野くんを私が呼び止めて、瑞希がチョコを渡す事が出来たんだ。
あの時の永野くん、すっごく嬉しそうだったな......
「次は綺月の番だよ。頑張って!」
「う、うん」
私も瑞希みたいに頑張らないと!と、
気合を入れ直して、カバンを肩にかけた。
下駄箱に行こうとすると、そこには弘大の姿が。
声をかけようとした瞬間、
「せ、先輩の事……好きです」
後輩らしき女の子が弘大に思いを伝えていた。
チョコが入っているような感じの紙袋を手に、緊張している様子で弘大に渡していた。
その手は小刻み震えていて、顔は下を向いていた。
断るんだろうな.....と思っていたら、
「俺も好きです」
弘大の声が、鼓膜にまではっきりと聞こえてきた。
失恋したんだと分かった瞬間、涙さえ出なかった。
2人が微笑みあっている姿をただ眺めていた。
もちろん、弘大とはその後一緒に帰らなかった。
せっかく作ったチョコも渡さなかった。
渡せなかった。
あの子の事、弘大は好きだったんだな......
チョコ渡す前に知れて良かったとは思ったものの、告白が出来なかった自分が情けなかった。
次の日、瑞希にその事を全て話したら、瑞希は自分の事のように泣いてくれた。
これまで我慢していた涙がその瞬間、たくさん出た。
弘大が付き合っているという噂が流れたせいか、「美男美女カップル」と言われる事はなくなった。
弘大と話せる気がしなくて、避けてばかり。
こんなんじゃダメだって分かってたけど、目の前にすると言葉が出なくて......
姿を見るといつの間にか逃げてしまっていた。
そんなある日、
「綺月」
声を久しぶりにかけられた。
「な、何?」
「……最近、元気ないけど、どうした?」
弘大にはあの子がいるはずなのに、
「何にもないよ」
私の事を見ててくれた事が純粋に嬉しかった。
「……弘大はあの子と付き合えて、幸せ?」
「うん、幸せ。ものすごく」
それに、弘大が幸せなら、もういっかって思った。
そこから段々とあの子の話をされることが多かった。
最初は諦めたつもりでも、簡単に諦めきれてなくて、相談を聞くのは最初はとても辛かった。
けど、次第に弘大への気持ちは消えていった気がして、普通に相談を聞けるようになっていった。
4年間も付き合っていて、校内公認のカップルに。
でも、弘大の視線は別の人の物へと変わりつつあった。告白する瞬間も目撃していた。
諦めがついていた気持ちが再び鼓動に灯り、いつの間にか弘大を再び好きになっていた。
この前は告白もせずに諦めていた。
だけど、今回は何もせずに終わりたくない。
「え?」
「私の事、幼なじみじゃなく女の子として見て」
少しでも何かして、諦めがつきたい.....
「…………でも、俺はや……」
「約束でしょ?……分かってる。でも、私も見てほしいの!弘大に」
あの子だけじゃなくて、私にも、私にも、
「………私にも、1度だけチャンスがほしいの」
少しだけでもいいから時間がほしいの!
「分かった。1週間だけお試しで付き合うよ」
「ありがとう、弘大」
0
あなたにおすすめの小説
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
幼馴染の許嫁
山見月 あいまゆ
恋愛
私にとって世界一かっこいい男の子は、同い年で幼馴染の高校1年、朝霧 連(あさぎり れん)だ。
彼は、私の許嫁だ。
___あの日までは
その日、私は連に私の手作りのお弁当を届けに行く時だった
連を見つけたとき、連は私が知らない女の子と一緒だった
連はモテるからいつも、周りに女の子がいるのは慣れいてたがもやもやした気持ちになった
女の子は、薄い緑色の髪、ピンク色の瞳、ピンクのフリルのついたワンピース
誰が見ても、愛らしいと思う子だった。
それに比べて、自分は濃い藍色の髪に、水色の瞳、目には大きな黒色の眼鏡
どうみても、女の子よりも女子力が低そうな黄土色の入ったお洋服
どちらが可愛いかなんて100人中100人が女の子のほうが、かわいいというだろう
「こっちを見ている人がいるよ、知り合い?」
可愛い声で連に私のことを聞いているのが聞こえる
「ああ、あれが例の許嫁、氷瀬 美鈴(こおりせ みすず)だ。」
例のってことは、前から私のことを話していたのか。
それだけでも、ショックだった。
その時、連はよしっと覚悟を決めた顔をした
「美鈴、許嫁をやめてくれないか。」
頭を殴られた感覚だった。
いや、それ以上だったかもしれない。
「結婚や恋愛は、好きな子としたいんだ。」
受け入れたくない。
けど、これが連の本心なんだ。
受け入れるしかない
一つだけ、わかったことがある
私は、連に
「許嫁、やめますっ」
選ばれなかったんだ…
八つ当たりの感覚で連に向かって、そして女の子に向かって言った。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる