長年のスレ違い

scarlet

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第三章

守る

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「一ノ瀬!」

俺は無我夢中になって、一ノ瀬の姿を探し続ける。
でも、人混みが多く中々見つかりそうになかった。

汗を拭っては一ノ瀬の笑顔を思い出して、また探そうと足を踏み出したりのくり返しだった。

自分にとって誰が大切なのかよく気づいた。

今まで1番自分の近くに居たのは美香だったから、もしかしたら美香の事が好きなんじゃないか。
この気持ちが「恋」なんじゃないかって思っていた。

けど、美香が誰かと付き合ったら嫌とかなくて、美香と付き合いたいか?って聞かれたら......
別にどっちでもいいんじゃね?って思う。

ぱっと自分の中で「恋」という形を把握し始めていた。

だから、美香の事は友達として思っていない。
そう、なんとなく感じていた。

小学校の時、ちょくちょく一ノ瀬を見ていたが、中学校に入ると一ノ瀬の事がもっとよく分かった。

人見知りだが、人のためになると行動出来る奴。
純粋にそんなところに好かれたんだと思う。

「一ノ瀬!」

絶対好きにならないと思っていた奴が、結局俺の好きな奴になるのは想像がつかなかった。

一ノ瀬はきっと、翼の何かに傷ついて、翼の前から姿を消すように逃げたんだと思う。

俺がまず、一ノ瀬に伝えたい事は……

「一ノ瀬!」

声をいくらかけても人混みの音にかき消されてしまう。

そんなに遠くに行っていないはずなのに、一ノ瀬らしき姿は全く見つからない。
………どこに居るんだよ。

「零夜!葵依見つかったか!?」

ふと声がする方に目線を向けると、翼が。

俺と同じように汗をかいていて、少し呼吸が荒かった。
きっと、声を出しながら探し続けていたはずだ。

「いや、まだだ。それより、一ノ瀬が居る時にどんな話をしていたんだよ」

「…...好きな人の話」

「それを、一ノ瀬の前でしたのか?」

あいつ、それで傷ついていたんだな……

「うん。俺が……星野の事、好きだって」

……星野って、美香の事だよな?
翼の言っている言葉が理解しきれていなかった。

だが、一ノ瀬が傷ついている時の姿を想像したら居ても立っても居られず、

「俺はその美香に告白されたけどな」

と、言ってしまった。

でも、これは……さっき、翼が一ノ瀬にした事と全く同じような事だ。

「え……?」

「まぁ、俺は美香をふったけどな」

さらに傷口に塩をかけるように嫌味っぽく言う。

その言葉を聞いた瞬間、翼は俺の肩にわざとぶつかり、俺の横を通り過ぎて、美香の元へと走って行った。

………俺はまだ、一ノ瀬を見つけられていない。

今頃一ノ瀬は1人で泣いてるっていうのに、
俺は何も出来ないのかよ…………
そう考えると、自分に苛立ちを感じ始めた。

「一ノ瀬!」と、更に声を大きくして人混みの中で声を出してみるが、返事は返ってこない。

もしかして、もう帰ったのか?
いや、でも.........まだ探そう。と、足を進めた。

人混みから少し外れてみると、そこには一ノ瀬の姿が。
「一ノ瀬!」と、声をかけようとしたら、

「俺は星野が好きだ」

翼が美香に告白する瞬間を目撃してしまった。

一ノ瀬は何とも言えないという表情で、ただ2人の姿を見ていただけだった。

泣きもしない。逃げようともしない。
何を考えてるんだ......?

「お、岡本が...?じょ、冗談でしょ......?」

美香はどうしたらいいのか分からない。
というか、告白自体が信じきれていなかった。
.........いや、信じたくないんだと思う。

美香は一ノ瀬の翼に対する気持ちを応援していた。
けど、その翼に告白されてしまった。
美香は一ノ瀬とどうしたらいいのか分からない。

こんな状況に対して、最初は誰でもどうしたらいいのか分かんないよな......

「冗談なんかじゃなくて、本気だ」

でも、翼が引くような素振りを見せていない。

「......ごめん、どうしたらいいのか......さっぱり...」

俺......もしかして今の美香みたいな苦しい思いを、一ノ瀬に負わせようとしてるのか?

俺が告白する事で、きっと、一ノ瀬は苦しむ。
親友のあいつが好きな俺だから。

気持ちを伝えたい。
そう思う事ばかりで、自分の事しか考えていなかった。

「っ.........」

どうしたらいいんだよ。
一ノ瀬の悲しそうな姿を見てると、
こっちまで苦しくなって、
翼じゃなくて俺を見てくれよって思って......

どうしたらいいのか分からない。
分からない......
伝えたいけど、伝えたら何かが壊れそうで......怖い。

今ならまだ好きって気付いたばかりだから間に合う......
って、無理だよな。

俺が今一番にしないといないのは、

ーグイッ

「我慢したくてもいい。泣きたいなら泣け。一ノ瀬はずっと翼が好きだったんだろ?」

一ノ瀬の気持ちが軽くなるように、側に居る事。

だから、俺は気持ちを伝えない。
今はまだこの気持ちを伝えたらダメだ。

「......何で、分かるの?......私、言った事...」

「ずっと、翼一筋だったからな」

見ていたら分かる。
翼に向ける視線は誰とも違うから。

「そうだよ......ずっと、ずっと......翼くんの事......っ」

と、一ノ瀬は涙を流しながら俺のシャツを握りしめた。



俺は一ノ瀬を守りたい。
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